”よーちゃんのギター・フェンダー”

コーラスのアレンジは、けっこう凝っていますね。

近田:エンジンが考えることが多いね。
エンジン:(照れながら)ドミソならドミソを分解して考えてるだけなんですよ(笑)。ぼくは歌が好きだから、パーカッションやってても、歌が気になるんですよ。あいの手を入れたくなる。日本の歌はカラオケとバックにわかれてるけど、それがいやだから、演奏と歌をなんとか離さないようにしたいと。そのほうがパワーが出るんじゃないかと。
近田:それはオレたちのいちばん狙ってることじゃないかな。

カケ声のユニークなのがありますね。

エンジン:あれ、コーラスって、そのことじゃなかったんですか(笑)。

いや、まあ・・・・・。みんなソウルとかファンクとか好きなんですか。

カメ:わし、知らない。
ヨースケ:わりと、各人各様に、聞いてるものがちがうみたい。骨組みを持ってきた段階でみんな解釈がマチマチだしね。カメは松田聖子が好きとか(笑)。
タケ:車で大阪に行くと、持ってくるカセット・テープでみんなの好みがわかる(笑)。
近田:新しめのは、みんないちおう聞いてることは聞いてるよね。ロンドン系とか。
エンジン:エスノもソウルも好きだし・・・・・ソウルって、エスノみたいなものでしょ。いまでも自分の作るメロディはソウルのメロディだものね。アレンジがちがうだけで。
近田:ヨネなんかはジャズ系が好きだし。
エンジン:タケはお洒落なサウンドだし。
タケ:グレース・ジョーンズのスライ&ロビーの音が好きだというのがあっても、和声とか、そういう意味では聞けなくて、抽象的な部分で聞いてる。匂いとかムードとかフンイキとか。いまだにアマチュアぽい聞き方をしてる。
エンジン:その匂いがいちばん重要だしね。

ヨースケさんはフュージョンのギターなんかもやってたんですか。

エンジン:ラリー・カールトンの”ルーム335”のイントロが弾けるんだよね。
全員:ギャハハハ。
ヨースケ:ギタリストとしてはカールトンも好きなんだけど、コピーしても応用ができなくて、自己流になっちゃう。ソロを入れるときも、他のメンバーの音を聞いて、気持悪い和音にならなければいいという感じでやってるから・・・。
カメ:彼の場合は、エイドリアン・ブリューが出てくる前から同じようなことをやってましたよ。
ヨースケ:最近はヴァン・ヘイレンとかスティーヴ・ルカサーとか聞きますね。いちばん好きなのはアース・ウィンド&ファイアにいたアル・マッケイかもしれない。
エンジン:カッティングが楽しい。ひょうきんなギターだね。

 

”ソウル・ライフ”

ところで去年は60回以上ライブをやったとか。

近田:東京、大阪がほとんどで。
エンジン:和歌山とか。

町とか店で反応ちがいますか。

エンジン:ちがいますね。悪夢の和歌山とか・・・・・。お客さんの層が。
ヨースケ:ちがうわりには、素直にノってくれたね。
エンジン:いろんな角度から楽しめるバンドであると。だからお客さんがちがっても、楽しんでもらえる。
カメ:ロックを聞いてないような人が見ても面白いバンドだと思うんだよね。

いつも今日のように1曲目からお客さんが立っちゃうんですか。

ヨネ:今日は時間が短かったからね。長いときは、最初はバシッと聞かせる(笑)。
エンジン:でも、2曲ともたない(笑)。
ヨースケ:本人たちがおさえがきかないというか(笑)。
カメ:お客さんのほうが疲れちゃったり。
近田:うちのバンドは、ミュージシャンにしてはめずらしく、ディスコに行って踊ったりしちゃうほうなのね。ふつうのバンドのメンバーは、そんなところ、行かないものね。メンバーみんな踊り上手だもんね。下手な人も2、3人いるけど。遊び人ぽいレベルで音楽やってるから。

お客さんのほうがおとなしい。

近田:ぼくらよりはパワーないかもしれませんね。遠慮してるところもあるんだと思う。のせればのるんだから。

たのきんのファンのようにはストレートじゃないですよね。

近田:いろんなバンドと一緒にライブやってきて思うんだけど、ニュー・ウェイブのバンドのファンの人、かたくななところあるね。
エンジン:好きなバンドが終わったらサササーッと黒装束のファンが帰ってく。あ、あ、あ、れ、もう行っちゃうの、ボクたちこれから出るんだけど・・・あ、あ、そうなの、みたいな。
近田:そういう人たちも巻きこめればいいんだけどね。

衣裳は毎回変わるんですか。

近田:基本的には半年くらい変わってない。あとは個人の好みでフェイクしていく。

トロピカルな感じだなあと。

近田:いろんなものを着こむと暑いから。
ヨネ:デビュー当時タキシード着てやってたら暑くて暑くて。
近田:銀蠅なんか暑いだろうね。キャロルだって皮ジャン来てたし。

世間ではビブラトーンズはニュー・ウェイブ・バンドと思われてるんですが。

全員:どう思われてるんだろうね。
近田:大きくわければ、ニュー・ウェイブと思われてるのかもしれないね。髪の毛短いから(笑)。ずっとやれるようなオーソドックスなものをやれたらいいと思うよね。あまりギミックに頼らずに。照明がないとできない、みたいになると、あとがつらいからね。オレたち、肉体的なバンドになってきてるね。
エンジン:ニクタイ、ニクタイ、ニクタイって、最後のほう、ブチブチうちまくって。

ベーシックに安定してるバンドですね。一時期、ヘタでも感性でいいみたいなバンドが多かったけど、いま残ってるのはそういうバンドじゃないんですね。

近田:感性だけでは、気持ちがみたされない。
エンジン:メロンなんかも、感性だけじゃなくて、うまいものね。オレたちのバンドはそのときそのときでイニシアティブとる人が変わるんだよね。

戦後民主主義的バンドであると。

近田:いや、そういうんじゃなくて、それをのりこえたところで、エゴを尊重するというか・・・・・いちばん合理的だと思いますよ。
エンジン:人間って、社会に出ると役割りが決まっちゃうでしょ。そうなっちゃったら面白くない。組織をどんどん組みかえたい。
近田:退屈しないように。

 

”AOR”大歓迎

昨年はライブを60回以上やったりして、近田さん以外のメンバーにとっては、それまでと人生が変わるくらいの大きな変化があったんじゃないかと思うんですが。

エンジン:いやー、いまだに四畳半だしねェー(笑)。ベスト・テンに入らないと、人生は変わらないんじゃないですか。いまだにストリップも行けますし(笑)。あ、いまの、ウソウソ、とり消し。ニュー・ウェイブ・バンドですから(笑)。
ヨースケ:それはエンジンだけですからね。
近田:あんまり変わんないよね。日常生活の延長線上のなかにロックが自然にやれたらいいなというイシキでやっているところがあるんじゃないのかな、たぶん。
ヨースケ:他のバイトをしなくてよくなったという変化はありました(笑)。

近田さんと一緒にやってみて、これまで面白いと思ったこととか、プラスになったと思うことは。

ヨースケ:人間をあんまり信じちゃイ・ケ・ナ・イなと。
全員:ギャハハハハ。
タケ:近田さん、自分で「オレを信じるな」と言ってるものね。
近田:それは、ぼくは、ニーチェに影響を受けたんだ(笑)。
エンジン:ニーチャン!?(笑)。

エンターテイメントの技術みたいなことで刺戟を受けたとか。

エンジン:近田さんは以前よりエンターテイメントをおさえてると思うけど、根はエンターテイメントという矛盾したところが、退屈しませんね、見てて。

近田さんからみて、このバンドが今までのバンドとちがうところは。

近田:すごい力強くて・・・。ずっと以前からこのくらいの人数のバンドをやりたかったけど、金銭的にできなかったりした。だから、いますごく満たされてますね。いろんな意味で広範囲な同時代性をメンバーが持ってる。意識としてはニュー・ウェイブ的なものを持ちながら、技術的にはフュージョンに負けないキッチリしたものを持ってる。
全員:(話のマジメさに一瞬、沈黙が訪れた後)ギャハハハハハ。

メンバー全員東京出身ですか。

エンジン:そう。
全員:ギャハハハ。エンジンだけが島根。

それで古代的なフンイキが・・・。

エンジン:島根と東京では同じものを聞いても、音楽が持つ意味がちがう。音楽に付随してるものが土地によってちがうでしょ。ま、そのォ、ビブラトーンズは都会のバンドです。
ヨースケ:いちばんこだわってる。
全員:ギャハハハハハ。
エンジン:まあ、気楽にね。

6月から新作LPのレコーディングの予定があるが、それまでは、ライブ活動が中心。情報誌のスケジュールに彼らの名前をみつけたら、ぜひ一度足を運んでみることをおすすめしま~す。そして”ヨーちゃんのギターはフェンダー”なのだ。ほんとに本物がどうか確かめてみてね。

(Player 1983年3月号掲載/文・北中正和、写真・小林美沙子)

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