●新しい電気の興奮剤(10の強力な楽曲を含有)
●毎度何度も服用
●お子さんの手の届くところに置きましょう。

クアドラフォニックスの新作『ブラッド&スノー』のジャケットには、そんな”使用上の注意”が付いている。そして、その下に配置された頭痛薬のパッケージのような人の頭部のイラスト。ここまで来れば、いわずもがなである。”重度シンセサイザー中毒”の岡野ハジメと吉田仁の2人は本作で音楽をあからさまに薬物としてアピールし始めたのだ。事実”テクノ浪漫派”という趣きだった前作とは一変して、今回はフタを空けるとさっそく激しいシンクロ・ビートが耳に飛び込んで来る。ハウス・ミュージック大隆盛のイギリスではエクスタシーという麻薬が毎晩1億円分ぐらいハケているという話だが、さては新しもの好きの2人のこと、これは”ハウス・カルチャー”にカブれたかと思いインタヴューに出向いたのであるが、あにはからんや。実は2人は将来的にレコードという”形式”を越えることをもくろんで、大マジでこういうアプローチを取り始めたというのだ。

岡野 「何か誤解されてる部分も大きいんだけどね、ハウスにしろヒップ・ホップにしろ99%は嫌いだよ、ぼくたち(笑)。ただハウスっていうスタイルにはもちろん多大な興味がある。なんかパンクが出て来た時とちょっとシンクロするものを感じるよね。テクノロジー界がようやくパンクに目覚めたっていうか。パンクになったっていうか。今までは 機会は冷たい って精神論で逃げていたのが、ようやく野蛮な使い方を出来るようになって来たっていうね」

吉田 「アダムスキー(フロッピー・ディスクを装填したシンセを即興演奏する新タイプのクラブDJ)っているでしょ?彼とか結構そういう部分強いよね。野外パーティとかやると2万人ぐらい集まっちゃうんだけど、そこにはいわゆるコンサートでの客とパフォーマーの対比はもうないわけ。アダムスキーはスターでもなんでもなくて2万人に快楽を供給する中央司令塔みたいになってね。ああいうのは、おーすごいと思うわけですよ。”踊る”っていう肉体性はあるんだけど、実は全員自分自身の内側に入り込んでるという」

岡野 「あの、ぼくはよく未来のポップ界とかを想像するんですけど、そういう時出て来るのはいつも完全に音のない世界とか音がないのに楽しい世界とか、そういうものになるわけですよ(笑)。ま、それは脳の中に電極を埋め込んでね、直接刺激を与えるってことなんだけど、そういったものの先駆けのようにも思えるね、ハウスは。10分も20分も同じシークエンスが続いて、それでじわっと快感がやって来るという。それってやっぱり3分間のポップスじゃ味わえないものでしょ。で、実はぼくはその10分続くシークエンスの方がね、音楽の本来の意味合いに沿ってると思うんですよ。音楽が人間の文化によって狭いものになっていたのがようやく解放されたっていうか。音楽なんて元々便宜的なものじゃない?伝達のために使うとか、宗教の覚醒のために使うとか」

---いやいや、2人ともまるでサンプリング・マシーンのように饒舌である。しかし、当方としてはここで一つの疑問が出て来る。それは、そこまで透徹した認識があるなら、それこそアダムスキーのように自らが作る音で何万もの人間を興奮させる欲はないのかということだ。上記のような”大衆音楽”に対し意識的な発言と「またルックスでシンセ買っちゃって」とマシン・オタクめいた笑みを浮かべる雑談時の彼らとは3億光年分ぐらい落差があると思うのだが。

吉田 「いやー、それはね(笑)、当然やりたいって思いますよ。やってる方も聴いてる方もマニアっていうのは、やっぱ健康的じゃありませんし」

岡野 「だから、ライヴでどうこうってことじゃないんですよ、もう。それに最近は本当に歓びをもっとダイレクトに表現したいって欲求が強くてね。で、それをもっと大きく共有したいって思いますよ、うん。でも、そこで最近ついつい行き当たるのが、音楽はじれったいってことでね。音楽ってクッションがあるでしょう?パルス信号を空気信号に変えて、で、それが鼓膜に響くという。それが一番はがゆいわけ(笑)。そういうプロセスが必要だからさ、ぼくたちがいくらすごいと思う音楽でもそう思わない人も多いわけじゃないですか。でも、たとえばディズニー・ランドのスターツアーズだったら99%の人がすごいと思うでしょう。それに匹敵するものをね、これから求めようというと、これはもう直接脳にアクセスするメディアを作るしかないわけ」

吉田 「そうそう。快楽の起爆剤になるものを供給したいっていうか。脳だよね、狙いは(笑)」

岡野 「で、これ、真面目な話なんだけど、その内クアドラフォニクス・キッドみたいなものを商品化したいと思う。メガネとソファーを一体化して」

吉田 「それで、二光のテレフォン・ショッピングで売ったりね。”こんなにキマすわ”とか ”気分はもうすっかり亜空間”とか言って、寝たきりのおじいちゃんも起き出してしまうという(笑)」

(インタヴュー:斎藤まこと)