円高の影響は、ロックンロールの世界にも現れている。日本で活動するアーティストにとって海外が、どんどん身近になっている。レコーディングに、観光に、気軽に海外へ飛ぶ。
<ロックンロール国際化時代>が、カジュアルな形で、はじまっているのだ。

<ロックンロール国際化時代>なんていうと、ちょっとオオゲサかもしれないけれど、トラック・ダウンは海外で、なんて気軽に海外へ出かけるアーティストは、今、どんどん増えている。そこで今回は、ロンドンと東京というふたつの都市をテーマに、ちわきまゆみ、PINKの岡野ハジメ、そしてサロン・ミュージック(吉田仁+竹中仁見)の面々に、気ままにしゃべってもらった。
なにしろ今回登場していただく4人は、お互いに活動が重なり合う部分も多く、ロンドンにも縁が深い。まず、ちわきまゆみは、PINKの岡野ハジメのプロデュースでアルバム『GLORIA』のリミックスを。そしてサロン・ミュージックの吉田仁と竹中仁見は、アルバム『オー・ボーイ』のレコーディングを、それぞれロンドンで体験、新境地を確立している。(また、岡野ハジメと吉田仁は、クアドロフォニッックスなるユニットを発表した)。さて、どんなお話が飛びだすか?

 

R&Rシティ、ロンドンの変貌。

ちわき 今回がはじめてのロンドンだったんだけど、想像していた以上に街中がきれいなんでビックリしました。それにまったく怖くないの。

竹中 そうね。どこ行っても観光地化されてて驚いたわ。5年前がウソみたい。サッチャーの影響って、すごいよね。

岡野 ロンドンの街も、音楽も、毒っ気が抜けちゃって、キレイキレイになっちゃったね。

吉田 カーナビー・ストリートなんて竹下通りだもんね。店員も客も「外人」ばっかりだし。

ちわき 家賃を払わずに、勝手に空き家に住んでる人がいっぱいいるのには、驚いた。

竹中 スコートでしょ。空き家に住む人たちの組織があって。ヨコのつながりもある。それほど貧乏じゃない子たちで、たとえばおシャレして、フリッジ(ブリックストンにあるクラブ・・・今、一番ロンドンで人気がある)なんかに来てる子たちも結構、必死よね。

岡野 あそこは、スゴイね。完璧なゲイ・ディスコ。レズビアンもいるけど(笑)。・・・・・あれ、昔の映画館を改装したんでしょ?めちゃくちゃカッコイイ。アシッド・ハウスとかは、行った?

吉田 うん、あれもまた、すごいよね。安っぽいテクノの上に、スクラッチかぶせて。オトがまた、えらく大きい。

竹中 やたら、アブナイ世界よね(笑)。

ちわき アシッドって、今、世界的な流行になってるわよね。スカーフもピースマークも復活して(笑)。

英国ロックと米国ロックなぜこんなに違うの?

岡野 ロンドンの連中は相変わらずプライド高いね。ロックに対する誇りもスゴイ。

ちわき 「ワレワレは、ビートルズを生みローリングストーンズを生んだんだッ!」って、コダワリがあるのよネ(笑)

岡野 <反アメリカ的な考え方>って根強いねぇ。一種の「島国根性」。日本に似てるかも。

吉田 アメリカのバンドが、ロンドンにやって来るとプレス(雑誌関係)がこぞって悪口書く。

竹中 すごかったらしい。ブルース・スプリングスティーンの時も。

ちわき イギリスのバンドでも、イギリス国内より先にアメリカで成功したりすると、もう大変。

岡野 U2やユーリズミックス、デュラン・デュラン、それにピーター・ゲイブリエルにしてもアメリカで成功したバンドには、えらく厳しいね。

吉田 やっぱアメリカのロックとイギリスのロックって、全然違うもんだよね。ほら、変な話だけど、アメリカでヒットする曲のかんじってわかるんだよね。ホントのアメリカのロックの持ってるかんじって、アメリカの広々とした風土と切り離せないと思うんだ。ほら、ニューヨークなんかはむしろ特殊な場所でさ、アメリカの平均的環境っていうと、中部とか南部なんだよ。

竹中 ほら、仁君が昔ホーム・ステイしてた中部のミネソタなんて、すごいんでしょ(笑)。

吉田 自分の家のポストまで行くのに、バイクを使わなくちゃいけなかったりするの(笑)。農場のまん中にでっかいスピーカーが置いてあって、トラクター運転しながらラジオでロックンロール聴いてるわけ。真夜中でも平気なの。トナリの家まで何キロもあるから(笑)。・・・・・それが結構、アメリカの平均的環境みたいだね。考えてみると、やっぱそんな環境に似合う曲が、アメリカでは、ヒットしてるんだよ。

岡野 やっぱ、違うよね。ブリティッシュ・ロックが作られたり受け入れられている環境とは。

竹中 イギリスとアメリカって文化が違うっていうか、まったく違う国民なのよ。だってミネソタから来るクリスマス・カードや、スパークスのラッセル(メイル)から来るカードは、文章のノリも全然違うの(笑)。

ちわき でも最近は、イギリスもだんだんアメリカナイズしてるかんじもするわよね。ファンションもアメカジ流行ってるし。

吉田 音楽の世界でいうと、結局、今、イギリスって音楽の中心がディスコやクラブだからね。チャートだけ見てると、アメリカのダンス・チャートとおんなじだね。

岡野 それが、またプレスの毒舌の原因になってるんだろうね?でもダンスものは大人が聴いてて、子供たちは、ちゃんといわゆるT-レックスからミッションに至るブリティッシュ・ロックの系譜を愛してるって感じはあるよ。

 

ミュージシャン必読。ロンドン、スタジオ事情。

ちわき 私たちが使ったのは、ユートピア・スタジオっていうとこ。カムデン・タウンからちょっと行ったところでロンドン・ズーの方にあって。あのスタジオ、家族同然のふんい気だったね。コックもついてて、ごはんもおいしかった(笑)。

岡野 エンジニアのティム(ティム・パーマー)もよかったね。

ちわき 25歳にしてトップ・クラス。エンジニアだけれども、ルックスはロカビリー野郎なの!

岡野 最初に会った時、ちょっとこれでホントに有名なエンジニアかって、信じられなかった!?

竹中 向こうのエンジニアはノリがいいヤツ、多いよね。

岡野 基本的にロックしかやっていないから、黙ってても<ロックしてる>音にあがってくる。

竹中 東京のエンジニアって、歌謡曲からCMからなんでもできなきゃなんないからね。

岡野 エコーやリバーブ(残響感)が断然、いい。石の文化を感じるね。

吉田 僕たちがやってもらったエンジニアのディックは、ルームの使い方がうまかった。エコーは、彼らが生まれ育ってきた環境の中ではぐくまれた<空間に対する認識>なんだよ。・・・・・それにロンドンって、なんかロスとかよりも街のなかに自分が溶けこんでるっていう錯覚を与えてくれるんだよね。自分のこととか、日本のこともよくわかる。そんな心理的メリットもあるんだ。

岡野 録音は東京で、プライベート録音に近い形で行って、TD(トラック・ダウン・・・それぞれの楽譜の音をひとつにまとめる作業)は、外国でやるって方法が、今のベストだと思う。東京のスタジオ代の高さは、結局、土地代の高さだからね。それに、なにより言葉のハンディーキャップを差し引いても、自分の求めている音のニュアンスをすぐに理解してくれるところが、うれしい。

ちわき 私はただただティムとやりたかったから。自分の求めてる音をわかってくれるスタッフだったら、モスクワだって行ってみたい(笑)。クアドロフォニックス(岡野ハジメ+吉田仁ユニット)も、そのへんはおなじでしょ?

吉田 読者のために説明しておきますと(笑)、実は、あれは何年も前からやってたの。それを今回、発展させてレコード化したんです。

岡野 結構、スゴイですよ。僕たち、ロンドンにも東京にも、反抗してるかもしれない(笑)。


●お話しを終えて:
ロンドン―東京。ロックが国際化すればするほど、この二つの都市の距離は、接近するに違いない。一方、<東京があってこそ、存在するロンドン>もある。「都市とロック」が、おもしろい時代になってきた。

(企画・構成 山田道成/ROCK’N ROLL NEWSMAKER記事)