長らく待たれていたPINKのアルバムが、ついに完成した。タイトルはそのものズバリ「PINK」。昨年はウワサのバンドとして高い評価を得ながら、結局リリースされたのはシングルが2枚。その「砂の雫」と「プライベート・ストーリー」では、まだまだ本領は発揮されていなかった。しかし、これからのPINKは違う。たぶん、このバンドは聴く側が予想してる以上のことをやってくれるだろう。また、ある意味ではその予想を見事なまでにうらぎってくれることさえあるはずだ。つまり、それはYMOかムーンライダーズ、あるいはその流れにある周辺の人たちだった。そして、聴く側の人間も、それがいちばん新しいと思っていた。しかし、それではいつまでも時代は変わらない。そこで期待したいのが、このPINKということになるわけだ。

PINKの6人のメンバーは、いずれもかなりのキャリアを持っている。異常なまでのテクニシャンと評価され続けていた。しかし、いずれもが個性的すぎるがゆえに、ひとつの流れにおちつくことがなかった。そんな6人が、初めて腰をおちつけて活動しようと選んだのがPINKだ。違う言いかたをすれば、このPINKは、テクニカルなアウトサイダーたちが集結して生まれたプロジェクトというべきかもしれない。

アルバム「PINK」で、このPINKが披露するもの。そこにはこれまで一度も体験したことのない世界が広がっている。たとえばパワフルで、しかもクールなビート。それはイギリス的でありながら、けして今風のダンス・ビートではない。むしろけたはすれの躍動感がある。さらにモダンなポップ感覚あふれるメロディ・ライン。それもイギリス的でありながら、いっぽうで確実にアジアを感じさせる。すべてが不思議なぐらいに無国籍的でありながら、ある部分ではメジャーを狙う要素があふれている。また、さり気なくSFチックで、ロマンティックな誌もおもしろい。それらがすべて重なりあって形成されたものは、ひとことで言えば、良質の曲を良質のサウンドで聴かせるロック以外のなにものでもない。

セカンド・アルバムを、ロンドンで作る予定になっているPINK。このバンドが、今後どれほどの実力を見せつけてくれるのかは、まだ未知数としかいいようがない。

<山田道成>

●PINK
PINKは、昨年こそ「砂の雫」、そして映画<チンピラ>の主題歌「プライベート・ストーリー」の2枚のシングルを出すだけにとどまった。しかし、今年は改めてレコード会社も、ムーン・レコードに移籍。5月25日には、初のアルバムもリリースされることが決定。いよいよ本領を発揮する時がきた。
なにしろPINKのメンバーは、元ビブラトーンズの福岡ユタカ(Vo)と矢壁アツノブ(Ds)、元ショコラータの岡野はじめ(B)と渋谷ヒデヒロ(G)、さらにホッピー神山(Kb)、スティーヴ衛藤(Per)と、テクニシャンぞろい。これで騒がれないほうがおかしい。
以前はファンクを得意としていたPINK。最近はロック色を強め、アルバムではネオ・グリッターめーじを持ったサウンドを披露する。YMOの流れにそまっていた日本のロックに、改革をおこしてくれるいちばん候補が、このPINKなのだ。
「Rockin’f」1985年6月号掲載