ピンクのニュー・アルバム「Cyber」には全部で14曲、時間にして66分半にも及ぶ歌と演奏が収められている。この時間数を見て、「ハハーン、CD優先だな」と思った人はスルドイ。LPが片面25-6分が限度なのに対して、CDは最大74分42秒までOKだからね。そんなわけで、「CYBER」のLPの方は1枚半(つまり4面には何も入っていない)という変則的なダブル・アルバムとなった。

この4作目にあたるアルバムについて矢壁アツノブと福岡ユタカに話を聞くため、彼らが所属するムーン・レコードのオフィスに行ったのだが、福岡選手がなかなか現れない。始めていましょう、ということになった。
以下、矢壁選手の発言だ。

「とりあえずCDに目一杯入れようというのは(レコード会社)制作サイドから出たアイデアなんです。ぼくらもこれまでに3枚のアルバムをつくって、こう、ひと区切りみたいな気持ちもあったんで、今度はちょっと変えてみるのもいいなと思って・・・。CDはアナログ・ディスク(LP)にくらべて物理的な制約が少ないでしょ。片面20分くらいに収めなくちゃならないとか、音的な冒険がやりにくいとか。デジタルだとそうした制約に捕らわれずに済む。ぼくは前作の「サイコ・デリシャス」あたりからCDメインの音づくり、プレイをしようと思ってやり始めたんです。うまく言えないけど、たとえばスネアのニュアンスがね、CDだとそのまま出る。だたの2(拍)4(拍)でも、ドラマーがぐっと出てくるんです。だから、LPよりもCDの方が好きです(笑)。プレイのタッチが出るんです」

新作「Cyber」に収められた14曲はどれも聴き応えのあるもので、66分半という時間が短く感じられるほどだ。曲はこれまでどおり、メンバーの福岡ユタカ、ホッピー神山、岡野ハジメの3人が分担して書いているが、詞は宇辺セージ、吉田美奈子というピンクのファンにはなじみの名前に加えて、サロン・ミュージックの吉田仁と竹中仁見やクジラの杉林恭雄の名前もクレジットされている。ひどく大雑把に言うと、作詞・作曲者の個性がそれぞれに際立ってきたという感じなのだ。

「割とこれまでは、よく言われるところの形而上学的な(笑)詞も多かったから、今回は、もっとこう・・・、簡単に言っちゃえば、ラヴ・ソング、肉感的なやつ、わかりやすいやつ、そんな話があったのはたしかです。」

「Cyber」にはこれまでにも増してピンクの持つ様々な音楽性が詰め込まれている。ファンク、幻想的な曲、中期のビートルズを思わせるような曲、ディスコぽいもの、洗練された都市のビート、エスニックなもの、’60年代風のもの、などなどといった具合。

「ただ、ときどき、これでいいんだろうかって思うこともある。ひとつのスタイルでしばらく続けていかないとインパクトがないんじゃないかとか、なんか尻軽ぽく見られてるんじゃないかとか(笑)、器用ビンボーとかね。でも逆に、スタイルにこだわる奴がいないっていうのは、ピンクの強みなんじゃないかとも思うわけ。何をつくるにしても火とか水とかは必要なわけで、ぼくらはそういうベーシックな部分に一番気を使っているから。で、味付けの部分はもっとラフに、この曲は七味を多くとかいう感じで・・・」

「Cyber」というのはいま流行のことばで、コンピューターをイメージさせる。サイバー・スポーツというとテレビ・ゲームのことだ。もっともそのように名付けられたアルバムの中味は、それほど人口頭脳的に計画された冷徹なものではなく、非常に感覚的な”衝動”と自動制御されたような”理屈”が、共存している。そして、どんなタイプの曲にも、信頼できるリズム・セクションを中心としたビート感がしっかりと貫かれているのだ。

「うん、それをぼくらは”グルーヴ感※”と呼んでいるんだけど、どんな曲でもそこだけは外せないポイントのひとつだってことはすごく意識してる」
と話してるところへ福岡選手が登場。寝坊した(午後3時からの取材だったのだが・・・)あげく、あわててタクシーに乗ったら大渋滞だったとのこと。インタヴューはほとんど終わりという感じだったので、彼と矢壁氏と大越編集長とみんなで、本とレコードとビデオ、それにカセット・テープをどうやって整理しているか、といった個人的な、そして極めて深刻な雑談をした。これにCDが加わるといったいどうなるんだ、この住宅事情の中でーーー。当然にも結論は出なかったのだが。
(取材・文/山本智志)

※Groove:レコードの溝を指したりもすることから、in the grooveで”最新の”とか”好調な”という意味がある。矢壁氏は”ファンキーな”とか”カッコいい感じ”といった意味合いでこの単語を使ったと思われる。

 

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