5月号から始まった新シリーズ、ミュージシャンのプライベート・ライフ。あこがれのミュージシャンの私生活に潜入するという、この企画。さて、第2回は、アグレッシヴで個性的なサウンド集団”PINK”の中でも、いちばん過激な男、ベースの岡野ハジメの登場だ。彼は私生活も音楽人間!というわけで、彼の分身のベースたちをいっぱい見せてもらった。昔手に入れた楽器を、わざわざ実家から持ってきてくれたんだぞ。
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---楽器の好みも、60年代と80年代感覚がなんかモザイクのように入りくんでいますね。
岡野:楽器に関しては、人と同じものは使いたくないという基本があります。初めて手にした時から売ってるままで使ったことないもん。改造やパーツ交換しても3日であきちゃうし、やっぱ自分で作るしかないな、と。ただルックス以上に、個性がないとね。キワモノじゃなく、個性的な音を出したいんです。
---でもデザインに目がいっちゃいますよ。
岡野:いわゆるドハデでしょ。でも、それが目的じゃない。けっこう考えてあって、座っても、立っても弾きやすいとか、バランスとかにも気を使ってあります。
---各社のニュー・モデルとかは?
岡野:好きだから、必ず手にしてみますね。ただ結局、裏切られる。ライヴとスタジオで同じニュアンスが出せるのはなかなかないし。
---VIBRA(ヴァイブラ)は、そういう考え方から生まれてきた・・・・・。
岡野:1号機はライヴ、スタジオ両用というより、これしか使わない。専門家が見たら、すべてのパーツがミス・マッチのはずだけど。
---内部の機械(アクリル板から見える)って、配線されているんですか?
岡野:あれはジョーク。戦車のプラモデルとかの部品が貼ってあるの。スター・ウォーズなんかも日本のプラモからできたんだよ。
---サウンドをひとことで言うと?
岡野:ボディ切っちゃったから、ボディがサウンドの重点ではなくなってます。田舎くさい低音好きじゃないから、どちらかというと中域ベースということになるのかな。
---そのサウンドがPINKというバンドにぴったり合っている。
岡野:結成当時、ニュー・ウェーヴと呼ばれるバンドの肉体の弱さ、気力のなさにほとほとあきれてた時だったから、とにかく強い音楽をやりたかったんだ、PINKでは。
---スタイルのないスタイル?
岡野:すべてのジャンルから等距離にあたるところにいると、ボク自身、最近気づいた。長髪ふりみだしたハードも、めちゃくちゃ暗いインディーズも、ビート溢れるバンドも好きなのいっぱいあるし、すべてのエッセンスがコンフュージョンしてる。だからこそ、そのすべてに否定的なところもあるわけだけど。
---PINKサウンドのポリシーとは?
岡野:身体を動かして、空気を伝わってインスパイアされるものを重視してる点かな。これだけ機材が発展してきて、音楽の作り方が根本からくつがえされる日が近いのはわかるけど、だからこそ肉体にこだわるわけ。手法的なことで、なにが古くて、なにが新しいなんていう時代は終わってるわけだしね。音楽でいえば、職人的技術、手先の技術が再評価されてくると思う。だって、ギター上手い人のプレイって見てておもしろいし、それって変わらないと思う。そういう技術は、最高峰のスタジオ・ワークでスゴイと思わせるのと同次元で語られてしかるべきですよ。
---ベース・ラインを作り出す時も肉体、直感を重視している?
岡野:ベースのパターン作る時って、脳ミソと肉体が完全に切れてます。とりあえず弾いたのをテープに記録して、あとから洗練させていくかんじ。もう、弾いた瞬間から忘れていっちゃうから、肉体にまかせていると、夢みたいなもの、なんか深層から別の人格とか出てくる。それがおもしろいんです。
(撮影:梶木則男/取材:阿部康宏)
「Rockin’f」1986年6月号掲載