PINK。彼らの音宇宙への旅行―トリップ―への手引きをひとつ。

去年の夏の終わりごろ、僕はPINKと第一次接近遭遇していた。・・・・・・一方的な出会いだったからE・Tとは呼ぶまい。しかしその時のインパクトは鋭さだけのものではなかったと思う。
少しヒンヤリとする深夜の外気と潮騒の様な車のさざめきを、半開きの窓にかよわせながら、音を絞ったTVのニュースを字幕で追っていた。中波ラジオの俗物さが、寂しさを紛らわしている。そんなラジオから、不思議な音がひびいてきていた。
タイトルを聞く間もなくすでに音が満ちていた。安でのカセットラジオの小さなスピーカーからそれは流れていた。
自らの心に問いかけるように、その人は歌っている。
心の内なる宇宙を旅するものが発する意識の波動が、僕をとらえていた。
「聞いてくれ」という露骨なアピールと次元を異にしたアプローチに撃たれたまま、CMが現実に引き戻すまでのつかの間、しかし深く長くトランス状態につつまれていた。・・・・・・半年が過ぎ、再開を果たした時、それがPINKだった事を知らされた。彼らの音と詞は、新しい「次元」を持っている。
孤独な時、だれもが超えようとする心の闇を、ユージュアルなポップスは明るいものだけを見せて、忘れさせようとする。
彼等は、闇の向こうに見える光こそが本当の朝の訪れなのだという事を知らせてくれる。
サウンドのニューウェイブを身についても、ディジタルレコーダーのスーパークォリティを通過しても、まったく減衰する事のないマインドの周波数特性。・・・・・・それは貧弱なラジカセをもストレートに貫通して僕のハートにひびいてきた。福岡ユタカのVocalがPINKのスピリットを声で変換している。あの日、心に勇気のようなものが湧いてくるのを感じたのは僕だけだろうか?
三作目のアルバム、「PSYCHO-DELICIOUS」の中にも一貫して感じられる世界だ。
福岡の声の響きはバックの音との共鳴だけではない。
音響技術者は、瞬間で消えさるはずの音たちに時間という要素を吹き込む処理をする事によって、音の表情を感じ取る空間を与えてくれる。
要するに、エコーの事だが福岡の声は、時間軸方向に響いているのだ。和音としての共鳴プラス、過去とのハーモナイズ。絶望のふちに立たされた者にきっと、真摯でストイックだが本物の感動によって暗闇を超えてゆく勇気を与えてくれる。彼等の総意は自らへの挑戦を続ける事だ。
彼等はきっと本能的にこのアングルを見つけたに違いない。・・・・・ただその作品がどう伝わるか?それは僕たちオーディエンスにしか味わう事の出来ない特権だが、今日のこのメッセージを、PINKをまだ知らぬ君と、PINK自身に伝えたい。・・・・・君はBODY&SOULを聞いたか。

(KYOUJI TANIGUCHI)