コンセプトは、CD対応の60分の器で好きなことをやる

今回の『CYBER』は、今までのアルバムに比べてロック色が強いという感じがしたんですが?

岡野 そのとおりです。

ギターのリフで成り立ってる曲が、ド頭から入ってきましたよね。今回のアルバムはどういう仕上げ方をしたのですか?

岡野 今回はさまざまなやり方で録っていったから。今までのレコードはエン(福岡ユタカ)ちゃんが持ってきたメロディを元にして、みんなでスタジオに集まって、あ~だこ~だ言いながらスタジオでアレンジしていくっていう形だったけど。今回は、作曲者がアレンジの根本も作ってきて、それに被せていく、という形もあったしね。いろいろあるんです。

レコーディング・パターンを変えてみようと思ったのはどうしてですか?

岡野 最初にCD対応の60分の器の中で好きなことをやりましょうというコンセプトがあって。器が広いからね、それぞれがもっと好きなことを実験的なことをやってもいいし、長い曲があってもいいんじゃないかという感じで、好き好きに作品を持ち寄ってきた。

じゃあアルバムの中で、バンドとしてじゃなく、個人としてやりたい部分も満足できたんじゃないですか?

岡野 うん。そいういのもありますね。ただ、それはソロでやるってこととは全然違うから。あくまでもPINKの中でやるっていうのが前提としてありましたね。だからホッピー(神山)の曲でもオサム(逆井)の曲でも僕の曲でもソロでやるんなら、また全然別な形になるかもしれない。

持ち寄りの曲をメンバーに納得させるっていうのは結構大変じゃないですか?

岡野 力づくですよ。これをやってくれなきゃ僕はPINKをやめますって発言する人もいますよ(笑)。

逆井 岡野さんって人ですけど(笑)。

岡野 理解できないことってあるから、最初のうちはぶつかったり、理解しようと努めたりっていうことが結構あったんだけど、そういうことすることにあまり意味を感じなくなってきたしね。

いわゆる普通のバンドのスタイルじゃありませんね。そいうい考え方って?

岡野 別に生き方とか、人生まで共有して生きていこうなんて元々思っていないし、楽しいからやっているわけだし。完全に交わらないってことじゃなくて、当然意見の交換はあるんだけど、思想なんかは別に違っていてもいいんじゃないかな。

逆井 そうやって違うことを考えている人たちなんだけど、PINK以外でやることとPINKの中でやることじゃ大きな違いがありますね。

岡野 独特の質感があるよね。全然別々のことを話したりしていても、カウントが出て、音が出た瞬間には何かPINKの構造ができていて、最初っから合っているんだよね。そこが凄く面白い。語り合いながら歩み寄って何かできていくっていうんじゃないの。まずガーンと出て、そこから微調整していくという感じで。そこが面白い。

リズム録りは大変でしたか?

岡野 結構苦しんだんですよ。録りの始めの頃、全然音が気に入らなくて。音質の面でね。それで3曲くらい録った段階でもう一回いちからやり直したんだよね。初日に録ったテイクは全部おクラにしたりして。

ミキサーを変えるとか、そういうんじゃなくて?

岡野 いや、そうじゃなくて、スタジオ自体が鳴んないのね。で、僕らもっとライブな感じでやりたかったから。ライブな感じにしようと改造したら、よけいデッドになっちゃったという。

逆井 音響特性変えたんだよね。だからもう壁を引っぱがそうとかそういう案も出たんですけどね(笑)。

岡野 デジタル・リバーブを使いたくないっていうのは、メンバーみんな統一した見解なんですよ。特にドラムには絶対使いたくないって。デジリバの余韻って飽きちゃいますからね。

どんどんアコースティックな方向に、という感じで?

岡野 うん。そっちの方が絶対にいい。派手にリバーブ出せるし、疲れない。だって生音のリバーブなわけだから。10何曲同じスネアのリバーブで鳴っていても疲れない。あんまり存在に気がつかないし。僕は最近そういうサウンドが好きだから。

 

何をおいてもシンプルにしよう、がメンバーの合言葉

で、逆井さんなんですが、今回は本当にギターが前面にフィーチャーされていますよね。

逆井 気持ちとしては、PINKに入る前からと変わっていなくて、いままでどうりにいろいろなアイディアを出してね。

岡野 ギター・サウンドにしたいっていうのはあったんだよね。僕自身ギター・サウンドの人だから、そういうのをやりたかったし。別に今まで避けていたわけじゃないけど、単にギターをフィーチャーしようっていうのじゃすまない事情があったもんでね。でも今回はシンプルにしたかったっていうのがあったし。とにかく全員でアレンジしていくものは、何をおいてもシンプルにしようっていうのが合言葉だったね。

ギターは全部ライン録りなんですか?

逆井 いや、アンプも使っているよ。マーシャル3台並べて、1番いい音のするマーシャルはどれだろうかと言って。

マーシャルを中心に・・・。

逆井 あとローランドのジャズコーラスで録ったものもあるし、その曲に応じてだね。

エフェクターとかは?

逆井 思いっきりフィードバックさせたい時はジャズコーラスにディストーションかけて。ちょっと割れたような音はマーシャルでカッティングをガシッとね。

今回は福岡さんだけでなく、ほとんどの人がボーカルを取っていますね。

岡野 歌のキャラクターっていうのも、曲を作った人が持っているものだから、それぞれがやりたいようにやると。

福岡さんは何も言わないんですか?

岡野 ブーブー言ってましたよ(笑)。でもそんなこと言ったら、僕だってベース弾いてない曲はあるもん。

PINKって日本にロック・シーンというものが存在しているとしたら、どういった位置にいると思いますか?

逆井 この前家で飲みながら新しいテープ聴いてたんだけど、こんな変なバンドって日本にいないねェってね。

岡野 世界にもないね。自分たちでバンドを説明してくださいって言われると一番困るんだよね。結成当時から。芯は頑固で、思想はひとつしっかり貫くものがあるんだろうけど、それを色彩るものが刻々と変化するし、面白いものは良いんじゃないのっていうところは実に日本的だと思いますよ。宗教や伝統にとらわれなくて、しかし東洋の文化が根強くある上に、いろんなものがゴチャゴチャあるっていう点でもね。

確かにPINKは一定したイメージというものがないですよね。

岡野 でも一番最初にPINKをやろうと思った時にはそれぞれ何かやりたいものがあったと思う。それが6とおりだったってことなんじゃないかなって思うけど。

今回の『CYBER』では、その辺が凄く出ていると言えますね。

岡野 出ているんじゃないかな。前作もセールス的に結構いいところに行ったから、商業的に成功したいっていう気持ちも確かにあったけど、遊びじゃなくて、好きなことやりたいっていうものがあったから。そのことは最後まで貫き通したいしね。だからPINKがヒット・チャートを目指すためだけに存続しなきゃいけないんだったら、やっていくのは辛いよね。

(PHOTO BY M.SAKAMOTO)

「ギター・マガジン」1987年12月号掲載