12インチシングル『TRAVELLER』3.21リリース

一昨年の東京・ラフォーレ飯倉のステージでライヴのピンクを初体験し、何てしなやかでカッコいいバンドだろうと脳天と心臓を刺激されて以来、彼らを追い続けてきた。そのカッコよさは、時を経て次第にピンクらしい輝きを増し、今『サイコ・デリシャス』で花開きつつある。
『サイコ・デリシャス』、オリコン・チャート初登場10位という快挙は、私を驚かせた。その驚きとうれしさを正直にメンバーにぶつけると、
「ピンクはいいけど、売れるとは思ってなかったんでしょう」
即座に福岡さんにいわれてしまった。確かに少しはそう思ってたのかもしれない。でも、もうそうは思わない。ピンクが売れるってことは、日本のミュージック・シーンも捨てたもんじゃない。
ピンクはこの勢いに乗って、現在は全国10か所のツアーの真っ只中。そして3月25日には、12インチ・シングル『トラヴェラー』もリリースされる。1987年、ピンクを体験しないテはない。

―――当事者としては、オリコン10位は当然?

福岡 いや、やっぱりみんなびっくりしたんじゃない。やってる本人も売れるとはしんじながら、やっぱり他の人との質がちょっと違いすぎるかなと思ってたから。

---ホント、そうね。他にこんな質感持ってるバンドってちょっとないもんね。それにしても、今回の好調は本当にうれしい。

福岡 今回はテレビのCM(マクセル・ビデオカセットの「KEEP YOUR VIEW」が使用されたCM)とか、雑誌の広告とかの相乗効果だね。で、今度”夜ヒット”(『夜のヒット・スタジオ』)にも出ますみたいな。

---へえ、いつですか。

福岡 3月25日。今度の12インチ・シングルの発売日なんで。

---で、その12インチなんですが、ひょっとしてレコーディングはアルバムと同じ時だったりして。

福岡 そうなんですよ。

---これまでピンクの12インチって、すでに出たLPで発表した曲のリミックスとかだったんだけど、今回はまるっきりの新曲ですね。

福岡 今回アルバムのレコーディングの時に、たくさん曲を録ったんです。リズム録りまでして。その中でこの曲がとりあえず一番ポップだし、できもいいんだよね。ヒットの予感もするでしょ。今までやったような12インチのやり方はいつでもできるし、やっぱり新曲の方がいいでしょ、買う人も。

 

ミーハー根性でスティーブ・ナイに頼んだはいいが 実際会ったのはスタッフだけ

---で、ミックスをスティーブ・ナイに頼んだのは。

福岡 最初はいろんな人にオファー出しててね。ボブ・クリアマウンテンにヒュー・パジャムにアン・ダドリー。で、最後にアン・ダドリーとスティーブ・ナイになって、スティーブ・ナイにしたという。

ホッピー もともと僕はスティーブ・ナイがやったバンドとか、大昔から好きでね。で、僕なんかは知り合いになりたかったからね(笑)。ただミーハー根性ってのもあって、彼を押してたの。

---そして、結果スティーブ・ナイで正解だった?

福岡 うん。そう変わんなかったけどね。逆に自分らがLPでやったことが、もうけっこうな水準にきてるなってことがわかった。

ホッピー やっぱり僕らがこっちで作った音と、向こうに頼んであがってきた音の差が明らかに大きいっていうのは、やばいと思うの。情けないじゃない。でも僕らの場合は、そんなに違わなかったから。

福岡 最終的には、向こうの人と交流してやるってこともすごくやりたいし、それで向こうからこいつがいいなって逆指名がくるようになれば、サイコーだよね。

ホッピー そのためには、やっぱりオリジナリティーがないとダメですよ。おかげさまで、僕らの場合は、ミックスをしたロンドンのエア・スタジオの人間が、ピンクがいいっていってるそうなんで。

---当のスティーブ・ナイは?

福岡 けっこうほめてたらしいよ。グッド・バンドだって。うれしいことだよね。

ホッピー 僕らは残念ながら会えなかったんですよ。僕らがみんなで行くと、うるさくてまとまりがつかないって(笑)。

---そりゃ、そうだ。それはわかる。

ホッピー で、スタッフが先に行って。

福岡 できればホント、会って話したかったんだけどね。XTCとかジャパンとか、いつもアメリカでベストテンに入るようなバンドを手がけてるわけじゃないんだけど、それでもワールド・ワイドでやってるから、すごい忙しいみたいなんだ。僕らも、よくスティーブ・ナイをつかまえたねっていわれたもん。

---ところでツアーですが、どんなステージなんですか。

福岡 今回ね、まず並びが今までと違います。

---並びって?

福岡 メンバーの並びが。

ホッピー エンちゃん(福岡さんのこと)がドラムの後ろにいるの(笑)。

福岡 メンバーひとりひとりの楽器のセッティングとかも変わってきてるし。

---じゃあ、雰囲気変わりそうですね。見るの楽しみっ!

ステージでは熱さの中にクールさも秘めて、アダルトでカッコいいロックを堪能させてくれるピンクなのだけど、普段会う彼らは、子供がそのまま大人になってしまったように無邪気で元気。食べ放題のケーキ・フェアでお皿に4つも5つも取ったケーキをパクついたり、アマチュアの人の映画撮影のカメラに向かって集団で歩いていったりと、やんちゃ坊主そのまま。でも、それがまた彼らのいいとこなのだ。

インタビュアー/角野恵津子
撮影/坂本正郁

「ARENA37℃」1987年4月号掲載