(採譜・解説/山崎淳、撮影/市川幸雄ほか)
NAKED CHILD
イントロ部のベース・ライン、親指によるサムピングの速いテンポのプレイ。譜例3小節から4小節目にかけてのシンコペーションのフレーズが実によくキマッている。2小節目の2拍裏のミュートもカッコいい。スピード感にあふれているのだ。ドラムとベースだけでこれだからサスガ。
またAm/Dというコードの中での4小節フレーズであるが、なんとDの音がまったく使われていない。これは考えに考えられたものだろう。PINKサウンドの魅力はこういったセンスにある。
SCANNER
いかにもPINKといった感じのファンキーでダンサブルなナンバー、そのイントロ部だ。ピックを使ったミュート奏法でプレイされている。ミュートはおそらく右手によるものだと思うが、極めてバランスのとれたサウンドを聴かせている。
これはルート、5th、7thを中心にしたフレーズで、シーケンス・パターン的発想のベース・ライン。また3小節目、4小節目のベース・ランニングがアバンギャルドなフィーリングとオーソドックスなR&Bのフィーリングを交互に出している。
PINKのサード・アルバム『サイコ・デリシャス』が1月28日いよいよリリースされる。最先端のセンスと自由な遊び心がほどよくバランスされ、また実験的なアプローチもあいかわらず見事だ。
それはもちろん岡野のベースにも当てはまる。お馴染みのオリジナル・ベースとフレットレスを使ったプレイはますます新鮮。親指の爪による新奏法やタオルを手に巻いて行うミュート・プレイなどさまざまなチャレンジをしているのだ。このアルバムをひっさげてスタートした全国ツアーはかなりの大成功が期待できそう。
彼はプロデュースもレコーディングも既成の形にとらわれない自由なところがすごくいい。例えば楽器もひとりの人間として考えるの。4本のギターは4人のキャラクター。音も、変にいじるんじゃなくて、そのキャラクターの長所をグーンと引き出していく”かゆいところに手のとどく人”なんですよ。’87年は今まで組んだことのない作家と新しいプロジェクトをやるんですが、岡野クンもそれまでエネルギーを蓄えていてほしいですね。
恋のビューティフル・レボリューション
岡野ハジメのプロデュースによるちわきまゆみの12インチ・シングル「シネマキネビュラ」のB面「恋のビューティフル・レボリューション」ギター・ソロでのバッキング・パターン。
ここでの岡野は極めてワイルド。PINKとはまた一味違った側面が楽しめる。ピックで荒々しくプレイしているが、音のタイミングはジャスト・ビート、非常に心地よい。
YOUNG GENIUS
ファースト・アルバムからのナンバー、イントロでのフレーズである。ルートと7thという一風変わったもので、岡野ハジメお得意のチョッパー奏法によるフレーズ。
譜面では音を切るタイミングまでは理解してもらえないと思うが、彼は微妙な音符の長さと音の切りによってアタッキーなサウンドを出している。レコードを聴いて確かめてほしい。チョッパーというと雑で粗いプレイになりがちなものだが、そこを非常に繊細なプレイをしているのである。また、これが岡野のチョッパーの特色ともいえる。
ILLUSION
これもファースト・アルバム『PINK』からのナンバー、イントロのベース・パターンである。ちょっとポリスっぽいアレンジで、流れるようなベース・ラインである。メロディの対旋律的なもので、このフレーズを聴いていると彼のセンスの良さがうかがえる。誰でも考えつくというものではない。
コード進行に対してベースはA/E・G/D・A/E・G/Eといった展開をしている。
LADY VANISH
スタジオ・プレイヤーとして岡野が参加している大沢誉志幸のアルバム『in・Fin・ity』からのナンバー、イントロでのベース。和音とグリスのアップ・ダウンがかっこいいフレーズである。間を活かしたプレイで、シンセのフレーズを追いかけて出てくる2小節目の1泊にあるプルもカッコイイ。
また、重厚なサウンドでのアイディアが実によく活かされたフレーズでもある。彼のアレンジャーとしての才能がベース・プレイにも存分に活かされている典型的な例と言えるだろう。
アリババ
これは岡野のデビュー・アルバムであるスペース・サーカスの『ファンキー・キャラバン』から「アリババ」イントロのベース・ソロ。チョッパー奏法によってプレイされている。
16分音符すべてがまるでピックのトリルのような速さ。彼のテクニシャンぶりは、当時すでにかなりのレベルに達していたことを証明している。
彼のもっとも大きな特徴のひとつに、たった1曲の中でチョッパーあり、ピックあり、2フィンガーありと実に多種多様のアプローチを行っている点があげられる。これは岡野ハジメが幅広い音楽的バックグラウンドをもっていること、そしてほとんどのレコードにおいてベーシストのみならずプロデュースから参加をしているからこそのものだ。
そのあらゆるプレイの中でも特に目を見張るのはピック奏法。実に確実に、そして傑出したアイディアをもってプレイを披露している。スタジオ・ミュージシャンとは一味違った魅力を発揮する。彼はまさに自由なベーシストなのだ。
WORKS
【PINK/PINK】
ヨーロッパ的センスが光るPINKのファースト・アルバムだ。リズムを強調したダンサブルなナンバーと、美しいバラードとがフィーチャーされている。ここでの岡野はチョッパーをかなりのウェイトでプレイしている。
【光の子/PINK】
’86年2月に、シングルの「DON’T STOP PASSENGERS」に続いてリリースされたPINKのセカンド・アルバム。サウンドはさらに充実し、このあとすぐにスタートした全国ツアーも大成功。因みに「光の子」はリミックス・バージョンもリリース。
【シネマキネビュラ/ちわきまゆみ】
岡野プロデュースによるちわきまゆみの12インチ・シングル。全編がニュー・ウェイブ色の強い作品に仕上がっている。ベースのほうも実にワイルドな魅力にあふれている。他のセクションもPINKのメンバーがプレイしているせいかのびのびとしている。
【アタック・トリートメント/ちわきまゆみ】
この2月4日にリリースされる、ちわきのニュー・アルバム。彼女の作品はすべて岡野がプロデュース。もちろんベースも弾いている。「シネマキネビュラ」同様ロック色が強い。特にA⑤「エンジェル・ダスト」はいかにも岡野というナンバー。
【FUNKY CARAVAN/SPACE CIRCUS】
知る人ぞ知る、岡野がデビューしたバンド、スペース・サーカス。ハード・プログレッシブといったところか。このアルバムはベースも大暴れ。チョッパーから速弾きまで、ありとあらゆるテクニックを披露している貴重な作品。
「ベースマガジン」Vol.6掲載(1987年2月発行)