本人たちは「どこでです?」なんてテレてたけど、ウワサのPINKが、いよいよデビューする。
彼らの名前が巷に流れ始めたのは、もう1年以上前のことだ。かれらのライヴに触れたある関係者は、興奮気味にこんなことを話していたのを覚えている。
「ファンキーなんていうと、誤解されそうだけど、すっごいファンキーなわけ。ブットイ音がギュンギュンうなりながらとんできてさあ・・・。詞もコマーシャルではないけど、難解ってわけでもなくて・・・、どう言ったらいいか判んないけど、とにかくスゴイんだ。」
それから1年、ウワサは、リアルな現実となった。
「最初はね、ナイト・クラブ・シーンというか、その辺で集まったわけ、ツバキ・ハウスとかね。メンバーは色々で、主にピテカン面白かりしころの連中で。結構流動的だったよ、10数人の時もあったし・・・。今のメンバーに落ちついたのは、1年ぐらい前。」(福岡)
メンバーは上のように、知ってる人は「ホントにこの連中が一緒に!?」と声をあげる強者ばかり。この中の何人かは、ソロ・アーティストのステージやレコードを手伝っているので、そちらの方から名前を聞いた読者も、いるかもしれない。
ファースト・アルバム「PINK」には全8曲収められているが、そのうち5曲はこれまでのライヴで演奏されていたものに、新たに手を加えたもの。驚くべきはそのどれもが極めて密度の高い小宇宙を形成していることだ。が、先の関係者同様、彼らの音楽を一言ではくくれない。ファンキーと言えばやはり誤解を生みそうだし、ロック・バンドと言うには漠然としすぎる。かと言ってビート・バンドと言ってしまっては、優れたメロディー・ラインとボーカルを伝えきれない。
「極めてオーソドックスだと自分達では思ってます。というか、PINKというバンドは、無きゃいけない、正統的なバンドだとすら思う。」(岡野)
「流行りもんて好きでやってみるけど、結局そぎ落ちていっちゃうんですよね。で、形は去ってから、PINKは一言ではくくれないはず。」(福岡)
彼らの音楽の、根源的な無国籍性、バイタリズム、猥雑なと言ってもいいエネルギーについて話していて、「ブレード・ランナー」という言葉が出てきた。「ブレード~」は言うまでもなく、ハリソン・フォード主演のSF映画。様々な分野のアーティスト達に、特に人気の高かった名作だ。そして、そうか、と思うった。PINKのサウンドを天と地を垂直に駆ける、人間の始原的なエネルギーにたとえよう。そして、その詞を、地の底から地上へ、天井から地上へ放たれる、”垂直の声”にたとえよう。そう、彼らの音楽には、安易な”横方向の連鎖”なんて、ない。
「詞で世代的なとこに力こぶ入れたくはないよね。それよりも、人が悩んだり迷ったりして捜してる”足場”なんて、実はどこにも無いことをうたいたい。無根拠をメッセージしたいっていうか・・・」(福岡)
もしかすると年若いミュージシャンには、彼らが何を言い、この文が何を伝えようとしているのか判らないかもしれない。でも、もしほんの少しでもPINKに興味を持ったら、彼らのレコードを聴くか、できればライヴに接してほしい。心の根底が揺らぎ、踊るはずだ。
PHOTO by M.KAGAWA