●レコーディングで使った機材は?
●機材は・・・・・ロクなもの使ってないですよ(笑)。特に「小さな男の小さな夢」なんて、リズム録りの時に仮にいれたやつでそのままいっちゃった(笑)。一応テーマとか弾いとかないと、ドラムのフィルとか入れにくいから、とりあえず弾いとくねって言って、いつもの4点セットで簡単に作った音で。間奏のピアノは後で入れたけど、最初はギター・ソロだったんだけど、あまりガンガン、ギターが出ると詞と合わないなと思って。「ICON」だって、いつもの楽器でヒューマン・ボイスをシャーッと弾いてるだけ、後は何も入ってないですよ。ライブでやるとしたら楽そうだな(笑)。僕の曲は、ひとり1パートみたいな形になってるからね。エンチャンの曲なんかは打ち込みもあっていろいろ重ねてあるから、ライブじゃ大変だろうけど・・・・・そこら辺なんですよ、ボトムの部分でやりたいというのはね。ひとりが一気に弾けるようなやつだと、対楽器で闘えるでしょ。凝ったアレンジをするというのとは別の問題でね。バンドとしてのエネルギーを出すにはベストということ。それにPINKは今までいろいろ凝ったこといっぱいやったから、今さらやらなくてもいいわけでしょ?アップ・トゥ・デートなことを出すというのは各メンバーがわかっているから。だったら違うことを、わかりやすくやった方がいいしね。
まあ、このアルバムでは、おのおのの今後やりたいことの布石というか---『CYBER』の時からそれはあるんだけど、今後の活動を匂わすようなものを出していくというのもあってね。僕の場合、音としてはポップすぎるからあまり具体的に今後とはつながらないけど、精神的には、これからやりたいことを出したんだよね。そうした各自の個性を出すということで『RED&BLUE』の意義がある。前に人に言ったことなんだけど、PINKをビートルズにたとえると、『PSYCHO-DELICIOUS』は『ラバー・ソウル』あたりなの、甘いから。その後、『サージェント・ペッパーズ~』とか『マジカル・ミステリー・ツアー』とかの大曲りするところをあまり通らずに『CYBER』でいきなり『ホワイト・アルバム』になっちゃって(笑)、今回はもうバラバラの『アビー・ロード』という(笑)。本当は『サージェント・ペッパーズ』を得たかったという気持ちはあるんだけど(笑)、あれは本当にバンドのパワーがないとできないからね。一体になってないと。・・・・・そうすると、ほら、『アビー・ロード』って妙にポップなやつが多いでしょ?(笑)ひとりひとりがいい曲残そうとか思うじゃない。そうするとああなる。でもコンセプトはないもんね。
●曲はどんな感じで出来るの?
●いろいろあるけど、キーボードをセッティングして何かちょこっと弾いてるような時に、全然違うリズムが流れたりして、そこにフッとメロディがのったりするのが多い。何かのはずみでね。あ、これ面白いんじゃない?と思った時にパーッと流れる。パーッと流れるからパーッと忘れる(笑)。これはヤッた、いいのができたと思っても、ちょっとしゃべってる間に忘れたりしてね。まあ、僕の音楽って偶然性のものだと思ってる。偶然が多いほど音楽的だと思うしね。自分で作ったものに感動できなかったおしまいだと思うんだけど、計算して作ったものより、偶然、意外な展開のあるものとかの方が自分は感動できますよね。自分がいいなと思ったものは、人が聴いてもいいと思うしね。コンピューターに対して僕が批判的だったのは、偶然性の要素が出にくいからで。逆手にとれば面白いけど、普通に使うとどの人の出す音も同じになってしまう。出てる音は楽器の音だから音楽だけど、でも音楽的ではない・・・・・クラシックなんかの面白いところは、ひとつの譜面でも演奏者がいろんな解釈をするから、その時の気分によって偶然性が出る。だから今でも聴ける。そういうものだと思うのね。音楽って。
●「小さな男の大きな夢」なんかはどんなプロセスで作ったんですか?
●あれは、たまたま違うデモ・テープを作っていて、適当にキーボードを弾いていたら、冒頭のリフっぽいのが出来て。そこにメロディをのせたら曲っぽくなって、すぐ録音!という感じ。忘れないうちにね(笑)。その時はうちにラジカセがなかったんで8ch回して。で、デジドラもないしQX1はかっぱらわれたままだから(笑)、ドラムは指でサンプリング・キーボードを叩いてやらなくちゃならない。それは大変だから昔のコンピュ・リズムみたいなシンプルなやつ、ポコポコいうやつをとりあえず流してやったんだけど、あれでやると結構、曲調が限定されて(笑)。ポコポコいって、バスドラもスネアも出てこない感じでさ。そういう音に刺激されて次のイメージがふくらんじゃうから・・・・・それが今の悩みなんだけど。それでギターとベースを弾いて入れて、キーボード軽く入れて、歌も入れる。僕はデモの時の歌は最初のテイクしか録らないんだ。最初のて、音程狂ったり、コーラスごとに違ったりしてるけど、後々聴くといいんですよ。人に渡す時はクレームついたりするけどね(笑)、よくわかんないとか言われて(笑)。でもそういう感じでやっちゃう。「ICON」なんかは、簡単なコードを2つ、ギターで弾きながら歌っただけ。簡単だから、ギターに気を取られずに歌えてね。
●じゃあ読者にメッセージを
●今後の活動に期待してほしい。見捨てないでくれ(笑)。・・・・・真実を見る目を養ってほしいね。僕のところには少なくとも真実しかない、と。何でも鵜呑みにしちゃあいけない。音楽を聴くにしても、自分が本当に好きなのか、情報に流されて好きだと思っちゃってるのかという点でね。特にKM読んでる人は自分で演ってる人が多いと思うから・・・・・ただ聴いてるだけなら、別に好きなもの勝手に聴いていればいいけど、演るってことは、それをまた人に聴かせるっていうことだからね。どんなジャンルであろうと、すべてのところで真実を見極めてやってれば、変なものにはならないはずなんだ。誰でも認めてくれると思うし。そうならないっていうのは、やっぱり生半可なんだよね。いろいろなことを雑誌で学ぶっていうのも大切だけど、自分の耳で確かめるというのがもっとも大事だから。
・・・・・やっぱり僕はバンドが好きなんで、バンドをやりたい。下山淳とは一緒にやりたいと思っていてね。キーボーディストとしては、彼は合わないタイプのギタリストなんですよ。キーボードのところまで埋めてくるような、音域が広くて厚いプレイをするからね。でも、逆に自分の弾きやすいところでやるよりは、それくらいの方がやりがいがあるし、面白い。キーボーディストとして強い部分を出していかなくちゃならないから。今のところ準備中で、ゆっくりやっていこうと思っています。
(Photo by E.Kikuchi)