今年の動向がもっとも気になるバンド。たぶんそれはこのPINKじゃなかろうか。デビュー前から強力なライヴ・パフォーマンスを披露するバンドとして、今おおいに注目されている!

PINKは昨年めでたくデビューを果たし、TVCMにもなった「砂の雫」、映画<チンピラ>の主題歌となった「プライベート・ストーリー」の2枚のシングルをリリース。結果として、新人という点ではまあまあのヒットを記録した。
しかしデビュー前の評価や、各メンバーの実力から考えれば、けして満足できる結果じゃない。なにしろPINKのメンバーといえば、元ビブラトーンズの福岡ゆたか(Vo)と矢壁アツノブ(Ds)、元ショコラータの岡野はじめ(B)と渋谷ヒデヒロ(G)、さらにホッピー神山(kb)やスティーヴ衛藤(Per)と、驚異のテクニシャンぞろいなのだ。しかも各メンバーは、大沢誉志幸をはじめ、戸川純、太田裕美、岩崎工などのレコーディングやツアーに参加していたほど。それを考えれば、昨年の活動に満足できなかったのも当然だろう。
しかし、今年のPINKはなにかをやってくれそうだ。ある意味ではYMO、ムーンライダースの流れをくむ周辺だけが新しい音楽を作る・・・・・というような状況を変えてくれる可能性だってある。タイミング良くこのたびエピックからアルファ・ムーンへの移籍。5月25日にリリース予定の初のアルバム『PINK(仮)』のデキも期待できそうだ。

今回はPINKのキーボード奏者ホッピー神山にインタビュー。

---今度のアルバムに入る曲は、今までライヴでやってた曲が中心?

ホッピー 全部で9曲の予定だけど、前からやっていたのは2、3曲。あとは最近やりはじめてた曲と、レコーディングのために作った曲ばかり。前からやってた曲でも、たとえば「Zean Zean」なんていうのは、新しいアレンジでやってるんだ。ラップのダンスものからバラードまでいろいろとやってるけど、どれも普通っぽくはなくて、未来と原始の融合みたいな感覚でせまっているんだ。

---エピック時代と現在のPINKとの大きな違いは?

ホッピー 基本的にはレコーディングの方法は変わっていない。エンジニアなどは違うけどね。ただ、あの時の失敗は2度としたくないというのがメンバー全員の気持ちにあるんだ。あの時はあまり時間がなくて、じっくりと考えないまま終わってしまったから物足りなさがあったし・・・・・。今回は疑問点も全部クリアーにしてからスタジオに入ってるから納得してやってるんですよ。

---その間にもかなりライヴをやってたけど、バンドそのもののスタイルも少し変化してるんじゃないの?

ホッピー うん。もともとのPINKは、徹底的にファンクをやってたけど、あの頃は自分たちでなにをやってるんだかわからなくなったりしてた。それが少しずつインテリジェンスを感じさせる、もっと新しいダンス・ミュージックに変化してきたわけだけど、今はもう8ビートもののロックへとさらに変わりつつあるんだよね。最近はネオ・グラムっぽいロックなんだってことを強調してる。

---バンドの中でのメンバー間も結束が固くなってきたんじゃない?

ホッピー そうかもしれない。でも、PINKのメンバーの仲っていうのは変なんだ。わきあいあいとしてるようで、実は陰口はたたくし、その場にいないメンバーのことをめちゃくちゃいうぐらいだから。

---曲作りやアレンジはどうやってるの?

ホッピー だいだいエンちゃん(福岡ゆたか)がアレンジを決めぬまま曲を作ってきて、それからみんなで音をだしてみてイメージにあったものをひろっていくって感じ。わりと出たとこ勝負でやってる。ボクのキーボードについても、まずボクが音を出すけど、エンちゃんの注文をうけていく。そのへんはかなり気を使ってる。なにしろPINKはエンちゃんのヴォーカルがポイントだから、じゃまをしないように歌を生かせるものにしなくちゃいけないから。今のサウンドはリズム・セクションを中心にしたものだから、ボクはかなりおさえていて、必要とするところだけ集中して入れているって感じ。今はそれがベストだと思ってるんだよね。

---今PINKの中でホッピーがやってる実験的な試みっていうのは?

ホッピー 今回は本来キーボードを使わないバンドが、効果的に使っているみたいな感覚でやってるつもり。たとえばXTCやポリスがそうだよね。必要なところ以外使わないというのは美しい。あと、たとえば昔のボウイやTレックスなども、さり気なくストリングスの音を入れたりしてる。もともとはビートルズがやってたことだけど、ああいうのが今の時代でできればカッコイイ。音質についても、けしてクリアーな音じゃなくても、雰囲気が良い音を入れていきたいとも思ってたんだ。

---使った機材は?

ホッピー ライヴで途中からイミュレーターのⅠを使うようになったけど、このレコーディング前に思いきってⅡを買った。でも、まだじっくりいじってないから把握できないところもあって・・・・・。今はフィルターなどがいじれるから、中に入ってる音をエディットしたり、大きなサンプリング効果を使っている程度。Ⅱは音がいいけどⅠもすてがたい魅力があるんだよね。ハイとローが切れて、サンプリングした音がもとの音と変わるっていうのが逆に良かったりする。Ⅱはそのものがでるでしょ。フェアライトやシンクラヴィアに近いグレードになっているんだ。あと今回使ったのはプロフェットとDX-7。これはいつも使ってる。

---BANANAが参加してる曲があるんだって?

ホッピー そう、2曲。それは曲のアレンジもBANANAにやってもらってる。この2曲については、ボクはベーシックのキーボードだけ。あとはBANANAが自分でトリッキーな音を入れたわけ。プロフェットとロボトロンを使ってた。(今回のアルバムにはキーボードでBANANAが参加した他、ギターでBOØWYの布袋寅泰が参加している)

---その他にホッピーが今回注意した点は?

ホッピー あまりないけど同期もののシンセは入れないってことかな。それをやると全体の乗りまで変わってしまうから。絶対テクノにはしたくないものね。

---PINKの中で、今ホッピー自身はどういう存在でいるべきだと思ってる?

ホッピー 今はおさえる役目でいればいいって思ってる。ボクがそうすることで、PINKっていうバンドがカッコよくなれば文句はないんだ。まだ1枚目のアルバムだから、この先どう変わっていくかわからないけど、今はエンちゃんの曲の歌ができるだけ良い方向にひきだせればいい。あれは他のバンドには絶対にない強力なものだからね。

(by 山田道成)

「キーボードスペシャル」1984年4月創刊号掲載