PINKというバンドをご存知だろうか。
目ざとい音楽ファンの間で彼らの名前が話題になり始めてほぼ1年半、2枚のシングルを経てレコード会社を移籍した彼らの待望久しかったデビュー・アルバムが、ついに5月25日発売された。東京以外でのライブが少なく、噂だけを聞かされていた人たちにも、これでようやくPINKの音が届けられることになった。
改めて紹介すると、メンバーは福岡ユタカ(vo)、岡野ハジメ(b)、矢壁アツノブ(ds)、ホッピー神山(kb)、スティーブ衛藤(per)、渋谷ヒデヒロ(g)の6人。メンバーの福岡、岡野両氏に話を聴いた。

今回のアルバムは、いい曲ばかりだと思う。

---今までライヴに通っていたファン、シングルを聴いてたファンにとっては、待ちに待った今回のアルバム発売なんですが・・・・・。

福岡 (笑)もう本当に難産でしたから。

---メンバーの方にとっても力がこもってるアルバムのような気がしますが。

岡野 やっとこの日がきたか、という。

福岡 だから感動とかいうより、やっとアルバムのレコーディングができるというんで嬉しかったですね。自分たちのアルバムだということで力は入っていますね。

---今までのライヴでの曲に加えてアルバム用の曲というのも。

福岡 3曲入ってます。全部古いのだと、新しい部分とか現在の部分ていうのが出せないから。

岡野 どんどん成長してるんですよ。

福岡 そういう部分を新しい曲でやったんです。

---今までの曲について若干感じの変わったものがあるのもそういう点でですか?

岡野 そうですね。でも売れセンにしましょうとかそういうのは・・・・・。

福岡 それは全然なかった。とにかく骨太にということで、ハヤリモンの音はあえて入れてないんですよ。サンプリングをバシバシとかはね。

---アルバムはゴールド・サイドとシルバー・サイドというふうに別れてますね。

福岡 収められているのが割といい曲ばかりだと思うんですよ。マスターピースというか。それをA面B面というふうに分けると格差ができるでしょ。それでゴールドとシルバーにして(笑)。意味はないんですよ。

---じゃあ、両A面というのに近い。

福岡 そうですね。蓄積が多かったから、いろんなタイプの曲があって、これもあれも発表したいというのがあったから。だからそれを一枚に収めてる今回のアルバムはやはり(PINKの)紹介という意味あいになって。トータルアルバムについては、もっと先になると思います。

---今回のアルバムの特徴として、音が太くて厚いということがあると思うんです。で、その厚さも、ムダの一切ない必要な音だけを重ねた厚さといういう気がするんですが・・・・・。

岡野 そうですね。いわゆるアレンジという考え方じゃないですからね。今のアレンジというのはとりあえず奇をてらった事をやっていくっていうのが主体になってるから。それよりは、曲の良さを活かしていくものをというふうにしてるから。

福岡 バンドっぽいよね。

---曲作りに関しても、だれか一人が完全に仕上げたものをメンバーにふり分けていくというやり方はしていませんよね。

福岡 そうですね。まあ、そういうものはそういうもので洗練されたいいものもあるんだろうけど。僕もハヤリモノ好きなんだけど、そういうのすぐにやっちゃうと、ちょっと下品な感じがするでしょ(笑)。もう歌謡曲とCMで充分っていう感じがするから。

---後になって聴くとつまんなく聴こえたりしますしね。

福岡 やっぱりね。今度のレコードだったら3年先、5年先に聴いてもけっこういいんじゃないかなあ、と思うのね。それがいちばん先端だと思っているし。

岡野 すべてやりたかったことなんですよね。今回はこれだからこうしましょうっていうんじゃなくて、いちばんシンプルなやりたかったことをやれたっていう感じだから。いちばん芯の部分っていうかね。

---これからの部分も含めてなんですが、PINKはやはりその時にやりたい事をやっていくという感じなんでしょうね。

福岡 そうだと思いますよ。予定をたててこれは三部作の第一作で・・・・・っていうもんじゃないけど、その基本精神は変えようがないから。正統的にやっていくと思いますよ。ただ制作のシステムなんかも含めて自分たちでやっていきたいというのはありますけどね。

 

PINKってふところが深いよね。

---今まで、東京以外でのライヴっていうのはあったんですか?

岡野 今まではね、一回名古屋に行っただけだったのね。だけど、今回は行きます。京都・神戸・大阪・岡山・広島・福岡とまわります。

---じゃあ、東京以外はライヴもデビューということで。

岡野 そうですね。初お目見えで。だから、シングル盤を聴いている少数のひと(笑)ぐらいだから。PINKを知ってるのは。

福岡 でも、シングル盤を聴いてる人も、PINKのファンじゃなくてあの映画(『チ・ン・ピ・ラ』)を見て、”曲がいいわね”って買ってくれた人が多いみたいよ。

岡野 じゃあびっくりしちゃうんじゃない。”こんなんだったのか”って。

--―PINKは音楽で何かをメッセージするということはありますか?

福岡 メッセージというのじゃないかもしれないけど、ありますよ。やっぱり、自分の世界をつくっていきたいし、自分にとっての問題は深く掘り下げていきたいし。直接的ではないけれど、それは出ていくでしょうし。

岡野 歌で叫ぶべき事柄というのがないですからね、今。特に日本では。別に叫ばなくても一応みなさん楽しんで生きてらっしゃるし。

福岡 でも何かあるよね。くすぶってるものは。

岡野 そのくすぶりは叫ぶことで解消されるものではない気がするし、僕はきれいな言葉というところの方が興味がありますね。

---PINKのサウンドというのはものすごくいろんな要素が溶け合ってて、一言では言えませんよね。たとえばこういった誌面でも困るわけですよ。

岡野 僕たちも言えない。”どういうサウンドですか”って聞かれても困るんですよね。

---PINKが好きだという人には、ヘビメタ好きの人もいるし、プログレ好きの人もいるし、もちろんダンス・ミュージックが好きだという人もいる。引っかかる部分、惹かれる部分が多いですね。

福岡 そういう意味ではふところが深いよね。でも昔はけっこうそういうバンドが多かったでしょ。今すごい特殊化しちゃってるから。今こそフィジカルな物の見方が必要なんじゃないかな。

---結局はPINKを一言でいうとなると、もうこれは”カッコいいバンド”ということになりますかね(笑)。

福岡 そうね(笑)。

---最後にツアー後の予定として決まっていることがあれば。

福岡 今年中に二枚目のアルバムを録音して出します。一枚目よりクォリティーの低いものは作りたくないし、いい曲もできてきてるから。とにかく、まだ始まったばかりだからできるだけいい状況がつくれるようにやっていきたいですね。

(取材・堀 裕一)

「MUSIC STEADY」1985年5月号掲載

>>1st.アルバム「PINK」レビュー記事(MUSIC STEADY)

※PINKファンの方より貴重な記事データをご提供いただきました。