●1月28にはいよいよPINKのニュー・アルバム「PSYCHO-DELICIOUS」が発表される。”心が豊かになる”――PINKの魅了はサウンドにもメンバーの個性にもある。

PINKのニュー・アルバム、「PSYCHO-DELICIOUS」を一聴して得られる「至福感」は、音楽を愛することと同義語である。
デビュー以前から通好みのファンから高く評価されていたことが、彼らをマニアックなバンドの範疇に閉じ込めていたとしたら、そんなモッタイナイことはない。耳をかっぽじって聞かなくたって、ちゃあんと”イイ音”は届く。「コイツは絶品だ」とモロ手をあげて絶賛できる音楽が存在する喜びはたくさんの人々と分かち合いたい。

「PINKっていうバンドがどういう音を出すバンドかってことは1~2枚目である程度認知してもらったんじゃないかな。今回はその集大成に当たるアルバムができたと思う」
ボーカルの””エンちゃんこと福岡ユタカはこう答えた。アルバム・タイトルをあえて日本語に置き換えると、「心が豊かになること」。ウン。確かに。

――前作に比べると、楽に聞けた。
「そう、そう。ともすると圧迫感があったから。PINKはこうだゾ、聞け!みたいなところありましたね」
――好きになりそうな曲が人によって違うでしょうね。一曲一曲の持ち味の振幅が広いと思う。
「それがネライなんです。自分で選曲してみるのもイイし、聞き手側が自由にチョイスしてくれるとありがたいね」
――それにしても、これだけ音がイイレコードもめずらしい。
「それはもう自信持ってる。これが本当の東京サウンド!」

私らのようなテクニック上のトーシロが聞いても、イイ音、つまり耳にオイシイ音というものがあるんだってことがPINKを聞けばよーくわかる。せっかく恵まれたAV時代に生きているんだからさ、この”豊かさ”を享受しないテはあるまい。「サウンドよりロックはハートよ、ハート!」などとのたまう無粋なロックンローラーは、オトトイ来い、てーの。自分たちのサウンド・クオリティーに責任を持つことこそ、プロのアーティストの立派な意思表明である。その意味において、PINKの「記録」=レコードに対する姿勢は一流だと思う。

「向こうの音って奥行きがあるって言うじゃない?だってそりゃそうなんだよ。普通の家でも天井高いんだもん。生まれながらにして持ってる音の尺度が違うの。だから、レコード聞いてコピーしようとしてもダメなんだよね」
ロンドンへ行って、「音」」の価値観の違いを体感した。
「教会入ってビックリした。エコーやリバーブに対する感覚が小さいころから育まれているんだなあって。木造家屋と石の家で育った人間のちがいったら、そりゃデカイよ」
――なるほどね。
「だけど、逆に”かなわないな”というのは少なかった。違いは分かるけど僕らは僕らだって意地張らないで思えた。だってさ、この間ヒッチコックの昔の映画見てたら、当時のロンドンと全然変わってないんだよ。1945年から。パンクが生まれたのも分かるような気がした。あそこまで体制的なものがガシンガシンしてたら反発したくなるわ」

ロンドンでは福岡・矢壁チームは、”観光クン”に徹して、名所・旧跡を見て回ったとあk。その結果の統一見解が、「未来は東京にある」。
「テクノロジーの情報量はロンドンより日本の田舎のほうが断然進んでるよ。テームズ川下りして思ったんだけと、大航海時代はさぞかし華やかだったんだろうなって。ハッキリいって海賊じゃん、アイツら。(笑)プライド高いから今の転換期のスピードに追いついていけないんだろうね」

歴史に想いを馳せていたばかりではありません。ロンドンのクラブで初の凱旋ギグを行ってきた。
「スタッフも皆向こうのヤツでさ。リハーサル前は”またヘンな日本のバンドが来たか”みたいな意識も絶対あったと思うの。だけど1曲やったら”ウン、これならGood、ブリリアント”。だってオレたちのほうがロンドンのバンドより全然ウマイもん」
このときばかりは胸張って答えた。「本当にいいミュージシャンが集まってるでしょ。音楽性、志向性、ポリシーもあって、それを過不足なく表現できるテクニックがある」
こんなセリフ、言い切れる自信がPINKの度胸と男っぽさのユエンだろうが、と同時にミュージシャンとしての志の高さに感服してしまったりする。
「バンドだから、ひとりひとりの個性が強いからこそぶつかり合ってイイモノができる。ヒマラヤだってぶつかり合って高くなった」

メンバーがそれぞれにキャリアとテクニックとスタイルを確実に持っているバンドゆえのスリリングな葛藤がPINKの魅了といえそうだ。人間関係がバンドの結束力になってしまいがちなニッポン・ロックバンド事情からすれば、PINKは特殊なのかもしれない。しかし、そのにはロック本来が持っていたはずの”群れたがらない本能”があるような気がする。

「ウチのメンバーはどこにも所属できない者同士だからね。PINKって皆徒党組むのがキライな連中が集まってできたから、もともと風通しがいいの」
「せめてロックぐらいはねえ」といったら、「そうだよね」。どこかに帰属することの不自由さという大小がない代わり、PINKが得たものは「可能性」という最も危険で刺激的な手形だったりして・・・・・。
「共通しているのは皆、流行というか、新しいモノが好きだってことかな。はやりに流されてしまわないだけの確固としたものがあるからといえなくもないし。でも、ファッションにしたって新しいものって可能性を秘めてるじゃない?東京が世界で一番すすんでるとしたらその新しモノ好きの部分だと思うな」

PINKのファンは先刻ご承知の、”新しくてカッコイイ”音を求めてやまない貪欲なボディ&ソウルにジャストな音源をPINKは抵抗してくれる。
アチラの一流、たとえばピーター・ガブリエルのレコードの後に聞いたとしても、なんの遜色もない出来映えのアルバムだと、私、保証します。やみくもに”ロックだ!”!とつっ走るようなハシタナサはないけれど、一度は”ロックは死んだ”とジョン・ライドンにいわせてしまった30余年のロック史に新しい一歩を踏み出す清々しい力強さを私はPINKの今に感じる次第・・・・・。

ウーン、深い。イヤ、この深さを難解として聞き逃してしまっていた人、今こそチャンス到来。「PSYCHO-DELICIOUS」のアルバム・リリースに合わせて、全国ツアーも始まる。「今までのファン以外の人に聞いてもらいたい。聞いてもらったら”イイ”といってくれるはずだ。そしたら買ってくれるだろう!」
――脅迫ですね。それは。
「そう。(笑)だけどそれくらい自信持ってオススメしてしまいたい、と」
――コケオドシにだまされるな!
「こうなったら”天才のダンピング”だ。(笑)悪いけどオレだって汗ぐらいかいてるんだゾ(笑)」

普段は”高尚”な雰囲気をたたえた福岡さんもシマイには、「そろそろ売れなきゃオカシイよ」と激白してしまった。それくらい力の入ったサード・アルバムなんだと声を大にしていいたかったんでしょう。わかります。
PINKのセールス・ポイントは、「音楽」しかない。それがどんなに強みになっているかは、彼らの「音楽」を体験するしかない。

(撮影・大川直人/文・佐野郷子)

>>実力者でスリリング。ぶつかりあってイイモノができる。その(2)