PINKはね封印しちゃうの、誰かが封を切ってくれるまで。
ザ・才能集団、PINKがアルバム『RED&BLUE』を最後に、実質上活動中止に入ってしまった。本当に”早すぎたバンド”だったのか・・・。90年代に確実に伝説として語り継がれるであろう彼らの軌跡と今後の展開を、ホッピー神山に訊いた。
福岡ユタカ(Vo)、岡野ハジメ(B)、ホッピー神山(Key)、矢壁アツノブ(Ds)、渋谷ヒデヒロ(G)、スティーヴ衛藤(Per)---この6人の精鋭達が”PINK”という名のものとにデビューしたのは、84年のこと。日本人離れしたダイナミズムと、日本人ならではの繊細な感覚。その2つを併せ持ったPINKの登場は、まさに、”ポストYMO”時代の幕開けを告げる事件だった。その後、87年にギターが逆井オサムにチェンジ、88年にはスティーヴ衛藤が脱退したものの、PINKは常にクオリティの高い音楽を創り続け、時代の最先端を駆け抜けてきた。
そんなPINKが新作『RED&BLUE』のリリースと同時に、バンド活動を凍結するという。ファンの人達にとっては悲しい知らせだろう。実は僕も同じ気持ちなのだけど、ともあれ、ホッピー神山に会いに行った。まずは新作についての話から始めよう。
---前作『CYBER』同様、今回もメンバー各自の個性が色濃く出ていて、その意味では前作の延長線上にあると言っていいと思うんだけど、何か特別なコンセプトのもとに作られたアルバムじゃないよね。
ホッピー神山(以下H)▼うん、これがいちおう最後のアルバムになるわけだから、PINKとして恥ずかしくない作品を残そうと。今回はただそのことだけを考えて作った。それと1曲目の「ベルリンは宇宙」以外の曲は、曲を作った人間がプロデュースするといった方式で作ったから、メンバー各自の個性が強く出ている。「ベルリンは宇宙」は僕とエンちゃん(福岡)の共作なんだけど、この曲にはPINKというバンドの魅力がよく出ていると思う。
---ホッピーさんの自作曲の制作意図は、どのようなものだったんですか?
H▼ 今回、僕の曲は3曲なんだけど、音の面では実験的なものを避けて、ポップなものにしようと思った。それと僕は昔からベルリンという都市に強いあこがれを抱いているんだけど、今回の3曲はすべてベルリンがテーマになっている。たとえば、「小さな男の大きな夢」は、実はヒットラーのことを歌った曲なんだよね。去年、布袋(寅泰)君のソロ作のレコーディングでロンドンに行った時、ロンドンとベルリンの間をひんぱんに行き来している人と知り合ったんだけど、その人が「ベルリンはすごい街だ。あそこはヒットラーの夢のかけらだ」って言ったの。
---それはスゴい表現。
H▼ うん。僕もその言葉にすごく感銘を受けてね。結局ヒットラーって、最後には何も手にすることなく、ただベルリンという退廃した街と民族問題だけを残して死んでいったわけじゃない?その意味じゃ、たしかにベルリンはヒットラーの夢のかけらだよね。
あと「ICON」は、去年亡くなったニコ(ベルリン生まれの女性シンガー)に捧げた曲。彼女って、すごくベルリン的というか、ヨーロッパの退廃そのものみたいな人だったよね?だからすごく好きだった。実は”NICO”という名前は、この”ICON”という言葉を並べ替えたものらしいんだよね。この「ICON」だけは、歌詞も自分で作った。というのは、一時期PINKや自分のことで悩んだことがあって、その時に世の中に対して色々言いたいことが生まれたのね。だから今回はそうした感情を清算するためにも、ぜひとも自分で歌詞を作って歌いたかった。もちろん、ニコに対しても言いたいことがあったし。だから今はすごくスッキリした気分なんだ。
---いま、ホッピーさんは「スッキリした気分だ」って言ったけど、この新作も最後のアルバムにしては妙に清々しい印象がある。
H▼ そうだね。というのは、今回はメンバー全員、ある意味ではPINKに対して思い入れを抱いてないからだと思う。で、その分、今回はそれぞれの個性が素直に出ている。特に「WHAT CAN I SAY」んは、エンちゃんの持ち味が100%出ていると思う。こういうケチャ(バリ島の民族音楽)を取り入れた曲を作れる人なんて、日本にはエンちゃんしかいないよね。
---たしかに今回はメンバー各自の個性が”素”のままで出ていると思うんだけど、やっぱりバンドという形体では、このように各自の個性をストレートに出すことは難しいのかな?
H▼ うん。なにしろ、これまではPINKならではのオリジナリティを追求したいという欲求がすごく強かったから。PINKのメンバーって、普段はけっこうチャランポランなんだけど、スタジオに入ったとたんに人格がガラッと変わって、殺気立っちゃうの(笑)。みんなお互いのことを尊敬し合ってるんだけど、それぞれが自分の世界を持っているから、一歩もゆずらないんだよね。よくもまぁ、ここまで似たタイプの人間が集まったものだって思うよ(笑)。
---ここにきてPINKはバンド活動を凍結するそうだけど、それはPINKの音楽がある種の飽和状態を迎えたということなのかな?
H▼ ある程度ね。ようするにメンバー各自の音楽的方向性が違ってきたから、今後はそれぞれ好きなことをやった方がイイんじゃないかということになった。ただし、PINKでやれることはすべてやりつくしたとは僕は思ってない。
---僕も同意見。PINKには、まだ潜在的な可能性が残されていると思う。
H▼ うん。ただ現時点では、PINKとして活動する必然性があまり感じられないんだよね。
---今後のメンバー各自の課題は、”PINKを乗り超えること”だと思うんだけど。
H▼ そうなんだよね。だからプレッシャーはすごく大きいよ。今後はよりラディカルかつエネルギッシュなことをやらなければいけない、と自分に言い聞かせている。
---今後、ホッピーさんはどうするの?
H▼ 下山淳と一緒にバンドをやろうと思ってる。もちろん他にも何人かメンバーを入れるわけだけど、今までの僕と下山からは想像がつかないようなシンプルな音楽をやるつもり。やっぱり僕はバンドが好きなんだよね。
---メンバー各自がPINKを乗り超えた時点で、再びPINKとして何かやって欲しいな。同窓会的に集まるんじゃなくてね。
H▼ そうだね。僕もどうせやるんだったら、ちゃんとアルバムを1枚作りたいと思ってる。
---その時まで、ひとまずPINKを封印しておくと。
H▼ うん。悪霊みたいにね(笑)。で、PINKのメンバーは、この封を切ることはできないの(笑)。
---じゃ、将来、僕が誰かと協力してその封を切らせてもらいましょう(笑)。
H▼ いいよ。でも、しばらくしてからにした方がイイんじゃない。すぐに封を切っちゃうと、きっとタタリがあるよ(笑)。
PINKの音楽は、間違いなく日本のロックの最高峰に位置するものだった。とりわけ84年のデビュー作『PINK』は、永遠に語り継がれるであろう名盤だ。PINKがこの国の音楽シーンに与えた影響力の大きさは、今後時を経るにしたがって、よりくっきりと見えてくるのではないだろうか。もっとも、すでにそのことに気づいている人はたくさんいると思うけど・・・。
(インタビュー:渡辺 亨/撮影:鈴木 圭)