早くも4thアルバム「CYBER」が発売されるPINK。その新作を一言で形容するなら、「1stのときに見せた骨太でラフな・・・・・」と言えばわかってもらえるだろうか。前作のバラード的要素を極力排し、66分30秒という変則的なタイム・ユニットをあえて選んだ第3期PINKのもくろみを、ホッピー神山(key)に聞いてみた。

東京という都市の断片を鮮やかにサウンドイメージで見せておいて、心は遥か砂漠や未だ見ぬ地にあったりする。そんな印象がPINKにはある。ヒット・アルバム『サイコ・デリシャス』に続く4枚目のアルバム『CYBER』が10月28日にリリースされるが、このアルバムは収録曲数の多さ、新メンバーのギタリスト加入、そしてそれぞれの曲で作曲者自らがリード・ボーカルをとる、といったいくつかのポイントがあり、何よりもPINKの持つゴツゴツした手ざわりが再び感じられるのが嬉しい。個性派揃いのPINKのメンバーの中でも超個性的肉体派キーボード奏者であり、今回のアルバムではボーカリストでもあるホッピー神山にアルバムの話を中心に聞いてみた。パンクより刈り上げ、ヘビメタより長く、というヘアスタイルの彼はステージでの暴れぶりとはまた別のただならぬ雰囲気を漂わせている。

---今回のアルバムはCD1枚、LP1枚半という構成ですけど。

ホッピー まずCDということを考えて曲をセレクトしたら14曲という結果になったんです。3枚目の『サイコ・デリシャス』の時点でLPよりもCDのほうが売れたという事情もありまして。音楽的にも僕たちのファンは音質重視で買ってくれるみたいなんでCDをターゲットに絞って。

---ボーカルをそれぞれの作曲者がとるという試みは、どこから。

ホッピー 今までの3枚まではエンちゃん(福岡ユタカ)をフィーチャリングした、というのがあったんだけれど、その3枚で今までのPINKの形ってできちゃったから、僕らは型にはまったものはやりたくない、それをこわすためにもサウンド面でもだいぶ変えたし、作曲者自ら歌うということでエンちゃんの声もまた良く聴こえるというのもあるし、バラエディに富んで全体の移り変わりのムードが良くなるかもしれないと思って。とにかく今までのPINKというのをこわしたかった。特に3枚目のメロディ中心のしっとりした楽曲はあそこまでにしておいて、また違う展開をしたかった。よく1枚目が一番いい、と言われるのはそれまで僕たちがセッションで曲を作っていたからなんだけど、パワーがあったと思う。それがだんだんなくなっていくのを阻止したかった。刺激がもうなくなってたんだ。今まではいろんな思わくがそれぞれあって、その真ん中をとろうとしていたんだけど、今回は曲を作った人間がその世界に引っぱりこもうと。それがいい結果となったし、僕らも新鮮な気持ちになれたから今まで中で一番いいアルバムになったと思う。1枚目から3枚目までどんどん地味になっていったような気がしていたの。アダルト・コンテンポラリーのようなバンドになっている気がして僕は悲しかった。僕はキーボード・プレイヤーなんだけれど、自分がいっぱいキーボードを弾いていても楽しくない。やっぱりサウンド、詞、コンセプトが納得できるものじゃないと楽しくない。弾かなくてもいいからカッコイイものを作りたい、と。みんなも同じだと思う。

---テーマの東京、CYBERについては。

ホッピー 僕たちはどういう気持ちで東京にいるのか、とかどうしたいのか、というのを明確にしたかった。”CYBER”については、最近サイバーパンクって言葉が流行ってるけど、テクノロジカルな方向に世界が向かっている中でフィジカルな肉体的なものを入れて、新たなパワーを作ろうという意味で、一番東京に必要なものではないか、と。流行ってるオイシイものにしか目がいかない日本人、東京の姿をもっと何とかしたい、と。それにはフィジカルなものだけではなくて、すでにあるテクノロジーの2つを上手くコントロールしていけばいいという意味で”CYBER”というタイトルをつけたんです。

---個人的に精神的なものと肉体的なもののバランスはどうですか。

ホッピー 昔は肉体のほうが勝ってたんだけれど最近落ち込んでからは精神のほうが勝ってて良くない状態です(笑)。ジムも未だに行ってます。ステージに出る人間は体つきが良くなくちゃいけない。日本人はきゃしゃすぎるでしょ。ヘビメタの人なんて細すぎて、あれじゃロックできない、間違いだと思う(笑)。

---自分の中で核になってる部分は?

ホッピー 10代のころと今とすごい変わっちゃって、昔はミーハーだったんです。ビートルズでは口あたりのいいポール・マッカトニーに目がいってたんだけれど、だんだん中身のないことに気がついて。それでジョン・レノンが深いんじゃないか、と。いまだに聴いてるし。その後でジョージ・ハリソンが穴場かな、と思ったけど(笑)。ジョン・レノンは日常会話でわかりやすい歌詞なんだけれどメッセージとかすごいものがあるでしょ。だけど簡単な歌詞だから少年少女もわかる。そこが大事なんです。ポップスはツッパっても10代にわかんなくちゃいけないと思う。

---そのへんはこのアルバムにも出てる?

ホッピー 僕はこのアルバムの中ではPINKに対するアンチテーゼを出しているんです。たとえば「二人の楽園」では、PINKってお上手サウンドが得意で、良くできてるけど何なの、みたいな、そういう部分に対するラフなものを出している。そんない上手くないのにPINKって上手いとか言われてフュージョンぽい見方をされるでしょう。それが嫌だね。だからラフにセッションぽくレコーディングしたし。「FIRE」は日本のバンドにはなぜかシャッフルがない、だけど基本だし古くさいと言われる今だからこそやってみたかった。とにかく、そのアルバムは何回聴いても飽きない傑作です。

(文/藤野ともね 撮影/ヒロ伊藤

 

 

 

「TECHII」1987年11月号

※サイト「TECHNOLOGYPOPS π3.14」様より、貴重な記事データをご提供いただきました。