PINKはバンドじゃないと言ってしまえば、そうなのかもしれない
(岡野ハジメ インタビュー)

PINK四作目『CYBER』は、個々の曲の完成度という点に関して言うなら、これまでで最もクオリティの高いものといえる。曲提供者がアレンジに関しても主導権をもつという一種の”取り決め”が、個々の曲にまとまりを与えた理由だろう。しかし、ケンケンガクガクこそがピンクというバンドのアイデンティティーだったという言い方も可能なわけだから、こういう取り決めによってスマートになった事を全面的にメデタシメデタシとしてしまっていいものかどうか。
提供者がその曲の責任者であるという分担方式にたどり着いたのはなぜだったのか。そしてバンドの成長という観点から考えた時、このアルバムはメンバーにとってどのような位置付けが成されるのか。ベースの岡野ハジメにきいた。

 

●●今までのレコードでは全部福岡さんが曲を書いてきたわけですが、今回はみなさんでほぼ均等に分担されてますね。

「いや、分担したわけじゃなくて、ただ集まりがよかっただけなんですけど。うん、僕が三曲でホッピーが四曲かな」

●●みんなで持ち寄ってやろうと決めたのはどうしてなんですか。

「いや今回はとりあえず最初に決まってたコンセプトがCD対応の六十分前後の作品っていうのだったから、まあ大作になるからってことでみんなで書きましょうよと。それぐらいの感じですね」

●●福岡さん一人に書かせるのは多すぎる、みたいな?

「うん、みんなも書けよなっていう感じで。それに、ホッピーも僕もやりたかったしね。今まではPINKのシステムっていうのがある程度決まってて、エンちゃん(福岡)がだいだいのメロディーなり何なりのたたき台を持ってきて、それをみんなでアレンジするっていうやり方が出来上がってたんだけど、僕はもうそれは三枚目で一応完成したと思ったから一度違う形でやってみたかったの。例えば曲によって誰か一人にアレンジをまかせてしまうとか。だから今回は、ホッピーの曲にしても僕の曲にしても、その作曲者がアレンジやってんですよ。まあ一応アレンジは全部PINKってことになってんですけど」

●●曲を持ってきた人が主導権を握っていると。

「うん、そう。今までどおりみんなでやったのもあるけどね」

●●岡野さんとしては以前から自分で作曲したい、全面的にアレンジの主導権を握りたいっていう気持ちはあったんですか。

「ありましたね。曲によっては。別にPINKを全部僕のアレンジでやりたいとか、そういうのは毛頭なかったですけど。PINKというバンドの力を使って自分の世界を最後まで作ってみたいっていう気持ちはありました」

●●それは今までのPINKが物足りなかったとかそういうことですか。

「いや、物足りないとかっていうんじゃなくて、それはそれで面白かったです。自分が考えてるのとは別の要素が入ってきて、全く違った形になっていくっていうことの面白さっていうのはもちろんありますよ。それがバンドの面白さだと思うし。ただそれとは別にやっぱり、ここはこうじゃなきゃいけないっていうような部分を最後までやってみたいっていう気持ちも当然あったです」

●●で実際やってみてどうでした?

「いや面白かったですよ。やっぱ人の曲とかはどういうものなのか見えてないわけだし、僕の曲なんかも他の人は見えてないだろうし。どうなんのかなー(笑)みたいなところが」

●●じゃあ今までに全くないようなパターンで仕事が進行したとかいうこともあったんですか。

「ありました。例えば”ドクター・ミッドナイト”って曲なんかは全部僕が自宅で16チャン回して作ってったんですよ、ギター・ソロ以外は。それでオサムにギター弾いてもらってもうオケは完成っていう」

●●へえー、そうなんですか。それじゃあもういっそ福岡さんとホッピーさんと岡野さん別々に三面にわけちゃったらどうかっていう案はなかったですか。

「いやそれはジョークとしてしか出なかった(笑)」

●●どうして?

「いやあ、それだったらソロとして発表した方がパワーあるだろうし、あくまでもこれはPINKのアルバムだから」

●●でもその場合のPINKってのがよくわからないなあ。ホッピーさんにしても、岡野さんにしても福岡さんにしても、音楽に対する見解がそれぞれ違って、バンド内にそれほど統一した意見がないわけですよね。

「うん、ないと思います」

●●じゃあ、そういう状況については肯定してるんですか。PINKというバンドのカラーハこういうものなんだってコンセンサスを持って、そのパターンにのっとってのPINKでありましょうとか、そういう合意はとりつけないわけですか。

「うーんとね、とりつけようとした時期もあったんですよ。それは特に僕達以上にディレクターの人とかが(笑)相当考えたと思うし、僕ももっとコンセプチュアルにやっていこうって気はあったんですね。で個人個人みんなやっぱりそれはあったと思うんですよ。PINKサウンドはこれだみたいなのが。でもそれが一人一人全部違っちゃったからね。だから最近はもう、PINKは結局そういう様々な才能とか思想が一つのところにぶちまけられてるからこそ面白いんじゃないかっていうね、そういうふうに考え方が変わっちゃったわけ」

(2)へ続く>>