PINKはバンドじゃないと言ってしまえば、そうなのかもしれない
(岡野ハジメ インタビュー)続き

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●●そこらへんメンバー間で話し合ったりとかしたことあります?

「あるよ」

●●口論になったとか。

「いや口論っていうか、話が終わんないだよね、どんどん深いとこいっちゃって。特に僕とエンちゃんなんかは」

●●はっきり意見の違いが出ました?

「うん。もう思想の差が明確になったって感じが何回もあった。いや、そうやって話してるとさ、もう話題が音楽性とかバンド運営上の問題じゃなくなっちゃうんだよね。もっとセックスとかエロスとか政治とか。エロスの問題なんかに関しては完全に対立するね、エンちゃんとは。俺そういう話し合いとかを何度かやって、エンちゃんとはその件に関しては絶対に平行線だと思ったのね。それはもう決定的に違う。きっと一生話し合ってもわかり合えないだろうなって感じでさ。だからそれによってもうわかったのね、彼の人格というかアイデンティティというか、その基本的部分が。それでかえって楽になった。ああそれでこういう曲を書くのか、みたいな。」

●●そうすると今度は俺がやる私がやるみたいな対立っていうか、拮抗した感じはないんですか。

「いやもう暗黙の内に、じゃあやって下さいみたいなね。特に今回は。一枚目の頃はわりとそういう、俺だ俺だ!(笑)っていうのがぐちゃぐちゃになってたんだけど、今回はやっぱり曲がバラけてるっていうのもあって、これは任せる、これは僕、みたいな感じでわりとスムーズだった。曲の中でぶつかるってことはなかったですね。うん、大人になった(笑)」

●●なるほど。こういうパターンになったから引くべきとこは引く(笑)と。

「そうそう。僕の表現はこの曲に込められてるから、他ではよくわかんないから言うこと聞きます(笑)っていう」

●●いや確かに個々の楽曲のクオリティーはすごく高いと思いますし、それぞれよく出来てると思うんですけど、ただPINK全体として見た場合にこのバラつきはどうなんだろうなって気がするんですよね。なおさらわけわかんねえっ(笑)つうか。

「どうなんでしょうね(笑)」

●●そこらへんをメンバーであるところの岡野さんと、プレーヤー、アーチストとしての岡野さんがどういうバランスをとってるのかっていうのが疑問なんですが。

「いやあ、ぼかぁPINKのプロデューサーじゃないですからねえ(笑)、それは考えてないです。とりあえず自分が関わったものに関してはかっこよけりゃそれでいいと」

●●じゃあもうPINKとしてのイメージのバラつき具合はしょうがない、と。

「うん、しょうがないことです。なんとかしようとしてたんですけど、でも音楽だけじゃなくて着るものにしてもそうなんですけど(笑)、統一した見解を出そうとすること自体がもう間違ってる。無理があるんですよね。そういうことをやろうとするとすごくストレスがたまるんですよ」

●●ではそのまとまりのなさこそがPINKなんだと。

「うん、だからPINKはバンドじゃないと言ってしまえばバンドじゃないのかもしんない」

●●岡野さんとしてはその方がいいわけですか。

「いやそんなのどっちでもいいの、おれ」

●●はあ、じゃ、もしPINKに強力なプロデューサーか何かがついて、ピンク・サウンドというのはこうだから岡野くんはこういうふうに弾きなさいとかいうことになったらどうします?

「そうなりゃやめる」

●●ありゃりゃりゃ。

「だって言われたことやってるだけじゃ意味ないでしょ。そうなったら何の未練もないですよ」

●●いや、大きなお世話かもしんないですけど、こういう形で個々人に主導権を委ねてしまうのがPINKの進化なんでしょうか。

「いや進化とか退化とかそういう問題じゃないですよ。たまたまこうなったってだけでね」

●●でもやっぱりバンドにコンセンサスがちゃんとあって、でこのアルバムはこういうふうにしましょうってコンセプトがなくてもいいんでしょうか。単に曲ごとに分担してしまうんじゃなくて。

「うん、そりゃあ明確なコンセプトのあるバンドっていう形をとってやってくのも一つだとは思うけど。でも例えば日本の歌謡ロックバンドみたいな形をとって、それがコンセプトだっていうんだったら僕はそんなのやる気ないし。あんなのコンセプトでも何でもないと思う、ただ実力がないだけだと思うから」

●●でもそういう、バンドとしてすごくまとまってて役割がしっかり分担されてるバンドって今売れてますよね。

「そうですね。でもああいうのって役割がただ無能だけじゃないすか」

●●はあ。

「と僕は思うけど」

●●はあ、じゃそんなふうにしたくないと。

「うん。というよりできない。例えばもし僕がすごくお金に困ってどうしても売れたいとかおもったら、うーんもういいや何でも(笑)とか言ってやっちゃうかもしんないけど、そこまで落ちぶれたことないし(笑)」

●●それじゃバンド的なまとまりっていうのはむしろ持ちたくない方ですか。

「だってそれは自分をおさえるってことでしょ」

●●ええ、でもおさえて他人を立てるってことも才能の一つなんじゃないですか。

「いや、あれはおさえてんじゃなくて能力がないのよ。別にべース弾きにおさまるんだったらそれはそれで美しいと思うし、抜きんでたプレーヤーもいると思うけどさ。僕はプレーヤーには興味ないしね。メンバーそれぞれがおのおのの才能を発揮してバンドを運営してくっていうバンドが今の日本にはないと思うよ。だってどのバンドもボーカルとギター弾きの名前はわかっても他のメンバーは名前もフレーズも知らないし、プレーの特色も知らないってのばっかりだし。そんなのはバンドじゃないですよ」

●●はあ。

「だからそういう意味じゃPINKの方がよっぽどバンドらしいと思う。僕はドラムのカメのフレーズを聞けば一発でわかるし、ホッピーのもエンちゃんのも、僕のもそうだろうしね。そういう個性的な人達が今まで何だかんだいいながらもレコード作ってるってことが奇跡に近いと(笑)思いますね」

●●・・・・・確かにそれはいえる(笑)。えーと、それでは岡野さんから見て今回のアルバムのセールス・ポイントっていうのはどこですか。

「僕が歌を歌ってる(笑)」

●●しょうがない人だ(笑)。でも今回のレコードを出したことによって逆にバンドのコンセンサスが出来てくって可能性もあるんじゃないですか?

「ああ逆にね。うん、それはあるかもしんないね。今回のを踏み台にして全員がそれぞれ他のプロジェクトで色んなレコードを出したりして、それじゃあPINKでは全部エンちゃんの曲をエンちゃんのボーカルでって感じで。うん、それはあるかもしんない」

(インタビュー・増井 修/撮影・田代泰三)

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