リズムボックスとドラムをオリジナル・タイムという軸で組み立てるドラマー、矢壁篤信。彼は世界初のリズム・アーティストだ。
PINKのコンサートで、ひときわ女の子達の歓声を浴びるのが、ドラマーのカメこと、矢壁アツノブだ。ドラマーとしては比較的小柄。アクの強いメンバーが揃ったPINKの中では、一番繊細なイメージがあるのが彼かも知れない。いわゆるパワー感や、ドライヴ感を追求するドラマーとは、ちょっと違う。が、新世代のミュージシャンらしいシャープな感覚に溢れた彼のプレイは、PINKの音楽のユニークさ、斬新さの源泉になっている。インタビューからも、そんな彼のドラマーとしての新しさは、よく伝わってくると思う。柔らかな発想を持ったそのリズムへのアプローチは、ドラマー以外のプレイヤーにも、大きなヒントを与えてくれると思う。
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---こないだホッピーとも話したことなんだけれども、PINKのメンバーって、みんなキーボードらしからぬキーボード・プレイヤーだったり、ベースらしからぬベーシストだったりするわけでしょう。カメさんもドラマーとしてそういうところあるんじゃないかと思うんだけれど。
そうだね。PINKはみんな変わっているし、僕がやっているのって、そういうフツーのバンドとはバランス違うの多いみたい。今までにやった中じゃ、じゃがたらとか、トーキョー・フェイセスとかは、割とフツーのバンドっぽいかな。
---あんまり、肉体派のドラマーって感じはしないでしょう。
そうかもしれない。
---ドラム以前にも、楽器はやっていたのかな?
最初はギター弾いてた。その前はピアノをならってて、中学の受験でやめさせられて、そのあとフォーク・ギターをずっとやってて、高校でロックやりたいと思ったけれども、ギターはピックが巧く使えなくて、それでドラムならできるかなっと思って始めた。そんな感じ。
---ロックっていってもどんなのが好きだったんだろう?
ツェッペリンとか好きだったな。ディープ・パープルとか、みんなが聞いてたような感じ。
---じゃあ、ジョン・ボーナムとか好きだったんだ。
うん、ジョン・ボーナムはすっげえ好きだった。それから、大学入ってから、ドラム巧くなりたかったから、ジャズ研入ったの。練習法とか教えてもらって、よく練習した。アマチュアバンドいくつも掛け持ちしたりしてね。
---ちゃんとしたメソッドで練習したりするのは苦になんない方?
そうだね。やっぱりドラムは基礎をちゃんとやんないと巧くなんないってことを言われたし。我流でやるのはよっぽどの天才じゃないとって。運動に近いところがあるからかな。ある程度いったら、基礎がないと上へいけないみたい。ああ、それと僕はギッチョなんだけれど、最初は右用のドラムでやってて、全然巧くなんなかったんだ。それが、左用に替えたら、それまでできないことがポンて出来たんだよね。
---今でも練習はよくやるのかな?
練習はする方だと思うけれど、でも、ドラムの練習って難しいんだよね。練習台使ってやるのは、手首の運動に近くて、実際に音出してみないと判んないことが沢山ある。それよりも、今はレコード聞いたり、ヴィデオを観たりして、ひとりひそかに納得したりとか、そういうことの方が多いね。あと、思いついた時に譜面書いて、練習の合間に試してみたりとか。
---体力作りとかは?
始めた頃に、左利きだから右手の力が弱いんじゃないかって思って、ものを右手でしか持たないって時が2年間ぐらいあった。今は身体鍛えるっていうより、まわりのことを気につけるって感じかな。水はあまり飲まないとか、睡眠時間とかも気にするようになったね。あんまり寝不足で行ってもしょうがないってわかったから。
---プロになるきっかけになったのは、ヴィブラトーンズの前身だった人種熱だよね。
そう。変なバンドだった。べつにオリジナルやってるバンドはそれ以前にもやってたんだけれど、凄く変わってたね。エンちゃんなんかとも、あそこで知りあったわけだけれど。
---現パール兄弟の窪田くんがリーダー・シップをとってたんでしょう。
そう。ドラムの譜面まで、窪田くんがバシバシに書いてくるんだ。ハイハットからオカズまで、全部書いてあって、そういう意味じゃ、あれは凄い練習になってるね。譜面で叩くってのは初めてだったから、人種熱で覚えたってところはある。あと、リズム・ボックスと一緒に叩くこととかね。でも、すべて決まってるかっていうとそうでもなくて、そういう中から発想が出てきて、窪田くんにこうしたいってOKになると、そこからまた拡がっていったり。エンちゃんなんかは全然勝手にやっていたし。でも、僕の人脈とかも全部あそこからでているから、いまだにあのバンドは思い入れは深いな。過激だったような気はするよ。よい曲も一杯あったし。
---レコーディング経験はビブラになってから?
最初はアニメの音楽で、あれはビブラの始まる前だったかな。でも、アマチュアの時から、マルチのレコーディングはしたことないわけじゃなかったのね。だから、レコーディングの方法とかで驚くってことはあんまりなかった。それよりも、LP1枚作るってことが面白かった。
---同期ものをやったりするのは?
それも、全然特別なこととか思わなかったんだよね。人種熱の時から、リズム・ボックスと一緒に叩いてたし。ギターに弦張るのとか、ドラムのチューニングするのとかと同じ次元で考えていた。よくそのこと質問されるんだけれど、全然どーだこーだってないんですよ。リズム・ボックス使うのは、ギタリストがアンプ使うのと同じようなものって考えているから。
---でも、そのあたりが前の世代のドラマーの人との大きな違いじゃないのかな。ユキヒロさんあたりでも、最初にシーケンサー使い始めた頃は、かなり頭グツグツになってやってたみたいだから。
だぶん、そうなんでしょうね。もともと、そういうドラム叩いてたんだと思うけれど。コピーする時にもオカズとかはコピーしないで、パターンばっかりコピーしてたのね。ツェッペリンやディープ・パープル、コピーする時から。オカズってなんていうのかなぁ、福神漬けみたいなもんじゃじゃい。
---それよりも、パターンの生み出すビート感みたいなところに興味あったんだ。
そう。そっちの方が、ドラムにとって重要だと思ってた。
---同じパターンでも、ドラマーによって、ビート感が違うでしょう。そういうところは、細かく分析する?
いや、それもあんまりしない。コピーした時点で、分かっちゃうじゃない。ジョン・ボーナムみたいに叩きたいとか、イアン・ペイスみたいに叩きたいとか思っても、できるわけないって。それよりも、自分ならどうやるかっていう足し算、引き算みたいなことを考える。