10月にイギリスはロンドン”BUSBY’S”でのライブを成功させ、シングル「ソウル・フライト」をイギリスRIMEレコードからリリースするなど、いよいよ国際舞台へ向けて本格的に始動したピンク。
目下、マクセルのCFソング「キープ・ユア・ビュー」がヒット中で、1月28日には待望の3作目『サイコデリシャス』がリリースされる。そこでピンクのボーカリスト、ソングライターの福岡ユタカにインタビュー、新作のことを含めていろいろと語ってもらった。

---『サイコデリシャス』について

「2年間で3枚のアルバムを作るつもりだったから、今回はその総決算という意味あいがあるんです。3作目で集大成といったらオーバーかもしれないけど、わりと自分たちの持ってるものをポップな形で表現できたと思う。アルバム全体よりも、1曲1曲をどれだけ良く仕上げるかに力を入れた作品です」

---吉田美奈子の起用の意図は?

「美奈子さんとはけっこう昔からやってて、今度のコンサートも一緒にやるんだけど、ある種ツーカーの部分が相当ある。美奈子さんはメロディ・メーカーであり、詩人であり、アレンジもできるし、こっちの気持ちを分かってくれる人。ある意味ではバンド以上に分かってくれる人だから、けっこう似ているんですよね、志向とかが。例えばコーラス・アレンジなんかでも、どういう風に歌ったらいいか言わなくても分かってくれるし、そういうところがイイですね」

---志向性は?

「エスニックなものが好きですね。ガムラン音楽とか、中近東の音楽とか、ああいうものがすごいヒントになってることが多いですね。美奈子さんに今回書いてもらった「シャドウ・パラダイス」は、風とか水とか自然のとらえ方をイメージして作ったんだけど、同じ自然をとらえるにしてもデヴィッド・シルヴィアンやピーター・ガブリエルなんかとは全く逆だと思うのね。向こうの人ってどうしても大袈裟になっちゃうでしょ。僕が自然な物に対する時は自分を伝導体みたいにして、その中に自分を放り込んでいって流れの中に自分を任せるみたいな感じ。自然体でやってた方が僕は正しいと思うし、そうじゃなくちゃいけないと思うんですよ」

---今後の方向性と課題は?

「僕は島根県出身なんだけど、島根には石見神楽というのがあるんですよ。ヤマタノ大蛇をスサノオノ命が退治するという神話をもとにしたものなんですけど、祭りがあるたびずっと行ってたんです。そういうビートって面白いですよね。まあ最近、銅剣、銅鐸、銅矛が出土してますけどね(島根県荒神谷遺跡)、梅原猛さんも取り上げていますけど。そういう神話的な部分ってすごい興味があるんですよね。うちの親父が興味を持っているというのもありますけど、そういった意味でもエスニックが好きだということと関連してるんじゃないかなあ。和太鼓もすごく好きだし・・・・・。
だから「シャドウ・パラダイス」なんかは”間”の感覚を自分なりにとらえて作ったつもりです。若い人は民謡とかそういうのあまり聴かないし、日本的なものを見過ごしていることが多いと思うんです。ところが、僕は日本の中のエスニックというのは実体験としてあるから、すごい刺激になってますね。僕の場合、石見神楽のビートからヒントを得て作っていますから。そういうのってこれからもどんどん取り入れてやって行きたいと思ってます」

石見神楽、出雲神話に寄せる情熱は相当なもの。姫神とはまた違った角度からの日本のトラッドにアプローチしようとする福岡ユタカ、ある種の感動を覚えるインタビューだった。
ピンクは2月25日から「サイコデリシャス・アクトⅡ」と題した全国ツアーを開始。3月25日には12インチ・シングル「トラベラー」をリリースする。

(文・増渕英紀/撮影・菊池昇)

 

NEW RELEASE

ピンクの「ソウル・フライト」の英語盤が、去年の11月にイギリスでリリースされた。その直前にはロンドンのライブハウスでのギグも経験している。彼らがむこうでどういう評価をうけたのか、ぼく自身は情報不足でよくは知らないけれども、そういった活動の”場”のひろがりが彼らの音楽のふところを深くしているのは確かで、その成果は音づくりにもはっきり出ている。ことに前のアルバム『光の子』ではわずかながら詞のイメージのひろがりに引けをとっていた感じのバック・サウンドが、今回はピタリはまって、みごとなアマルガムを生みだしているのが目につく。それでかえって歌が立つようにもなった。ポップであることがかならずしも”軽く”なる一方ではないことを実証してみせてくれた貴重な一枚である。
●相倉久人

 

「FM fan」1987年1月掲載