1月28日、サード・アルバム「PSYCHO-DELICIOUS」をリリース、2月から全国ツアーに出発するPINK。いまや日本のポップ・シーンをリードするグループであることは言うまでもないが、その魅力は楽器のうまさといったテクニックを超えたメンバーそれぞれの持つアイディアだろう。
岡野ハジメもアレンジャー、コンポーザー、そしてプロデューサーとして幅広い活躍をしているベーシスト。プロデューサーならではの傑出したアイディアを盛り込んだ彼のプレイをここでは紹介してみよう。

PROFILE
S31年11月26日生まれ。小学生の頃姉の影響でビートルズ、ベンチャーズを聴きはじめる。「その当時はドラムがやりたかった。スティックだけ買ってもらって、レコードに合わせて扇風機を叩いていたんです」
中学でフォーク・ギターを試みるが挫折。17歳の時初めて組んだバンドで「単なる役割り分担」からベースを握る。そんなある日ラジオでラリー・グラハム(当時スライ&ファミリー・ストーンのメンバー)を聴き、本気でベースを始める。
デビューは”幻のグループ”スペース・サーカス。その後は大沢誉志幸、太田裕美などのスタジオを経てPINKに参加。現在はプロデュースなど幅広い音楽活動を展開している。

●グラハム、ジャコパス、スタクラはコピーしまくった

「バンドを初めて組んだ17歳のころ、本当はギターをやりたかったんですよ。でも、リード・ギターにはうまいやつがいたからしかたなくベースにまわった」

―――よくあるお話ですね(笑)。で、それからは延々ベースを弾いているわけですか?

「うん、最初のうちはベースなんてつまんねーな、と思っていたんだけど、ある日何気なく聴いていたFM放送でスライ&ファミリー・ストーンの特集をやっていたの。ブッ飛んだよね。世の中にこんな音楽が存在したのかって。そのとき初めてリズムというものに興味を持ったんです」

―――ラリー・グラハムですね。

「そう。ブラック・ミュージックってそれまではダメだったんです、僕は。聴かず嫌い。でも、そのころのグラハムは、ポリリズムというか、16ビート、8ビート、4ビートが同時に鳴っているんだよね」

―――練習しまくった?

「やりましたよ。コピーしまくった。グラハム、ジャコパス、スタクラ。1日8時間やらないとうまくならない、という変な認識もありましたからね。おかげで腱鞘炎にもなったし(笑)。まあ、そのままプロとしてレコードも出していたんだけど、ある日突然テクニック至上主義の音楽を捨てた」

―――それはいつ?

「スペース・サーカスをやめたとき。音楽ってもっと面白いものなんじゃないかって思ったんだ。だから、スタジオ・ミュージシャンの仕事をしながら、自宅に機材を揃えてベースだけじゃなくて録音とか、あらゆる音楽の実験をしてみた」

―――なるほど、それが今のPINKのサウンドにつながっているわけですね。

「ちょうどそのころ、ニュー・ウェイブが街に氾濫していて、今のPINKのメンバーとはイベントを通して知り合ったんだよ。僕もニュー・ウェイブのミュージシャンたちのあまりの実力のなさに閉口している時期で、今のメンバーとの出会いはすごくいいタイミングだったってわけ」

●アンサンブルもドラムもあまり気にしないよ

「それとね、僕の場合スタジオ・ライクの仕事ってまるでダメなの。その場でいきなり譜面をわたされてもごくあたりまえのベースしか弾けない。かといって、自分の好きなアプローチをすれば、音楽をこわしてしまう。だから、ミュージシャン同士がちゃんと何日がディスカッションして、レコードは作りたい」

―――PINKのレコーディングもスタジオに入るまでが長いそうですね?

「今回の『サイコ・デリシャス』もすごく長期間に渡って試行錯誤を繰り返しました」

―――そのニュー・アルバムの中でも特に気に入ってる曲は?

「”スキャナー”、ちょっとR&Bっぽい曲。オケがスカスカなんだ。PINKって、音を重厚に埋めるタッチの曲が多いんだけど、ここでは意図的にオケを一発録りした。ベースに関していえば、チョッパーじゃないんだけど親指の爪で弦にかるく触れるという奏法を試みた。もう1曲、気に入っているのは、”ネイキッド・チャイルド”ってやつね。手にタオルを巻いてミュートしてみた。この音がすごく気持ちいいんだ」

―――岡野さんのあまりにも”自由”なアイディアにはいつも驚かされるんですが。

「普通ベーシストって全体のアンサンブルがあって、その中での自分の役割りを決めて弾くわけ。でも、僕はそういうことはしない。土台をベースで壊してしまう。タテにきっちり割れている音楽って好きじゃないんだ」

―――・・・・・・・

「アメリカのポップじゃなくてイギリスっぽいやつ、キュアーやスージー&ザ・バンシーズみたいな。その瞬間だけ聴くとちょっと変なベースだけど、曲全体ではベースだけでもすごくメロディック、プログレ系の人達なんかもそうだよね。あっ、そういった意味ですごく顕著な例がジェントル・ジャイアント。エレキ・ベースでチェロのパートをやってしまうという(笑)」

―――ドラムとの関係はどう?

「ほとんど考えないでプレイしてます。僕がベードラと合わせる時は、”合わせるゾ!”ってかなり意識してやる。ただPINKではカメさん(矢壁アツノブ)がちゃんとやってくれているけど(笑)」

―――感覚というか、けっきょくは感性が大切という・・・。

「うん。形なんか決まってないんだから。だから、アマチュアの人たちも音楽ばかりやっててもダメだと思うよ。音楽バカになっても面白いことはできないから。楽器ばかりいじってないで、映画を観たり、女の子と遊んだり、そういうことがないと絶対だめ。特にベーシストって、まともな性格になりがちだからね」

(インタビュー:神館和典)

「ベースマガジン」Vol.6掲載(1987年2月発行)

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