マクセル・ビデオのCFソング「KEEP YOUR VIEW」の美しいメロディーがお茶の間を賑わせているPINK。ロンドンでのライブも好評、だけど彼らは「TOKYOがカッコいいぜ」と音で豪語する、”ニッポンのポップ・バンド”だ。
”グループ名の由来”なんてありふれた話にたまたまなって、ところがこれが大笑い。
「みんなウケ狙いで考えるからさ~、使えるやつが全然出てこなかったの!」
エンちゃんことヴォーカリストの福岡ユタカなど、アフリカ語辞典まで買い込む凝りようだったのだが。
「そんだけ真剣だったんだけどね~(笑)」
”ンガッ”に類した「笑える」ネーミング揃いで、実用化には至らず。結局通り名だった”おピンク兄弟”を縮めて、ごくシンプルなPINKとあいなった。
「これがカッコいい!ってことにしちゃったの、もう」
いざって時はイキオイ一発。「バンドって、あとからカッコ良ければイイじゃん、結局」と、笑う。
のだけどその姿勢、演奏力は今さらうんぬんするまでもないこの”実力派”グループの、緻密でいて大胆、不敵なんだけど真面目な、音そのものの性格をも、教えてくれてる気もするのだ。「デモ・テープって好きじゃない。作品、て感じするでしょ。それだけで」。要は「バンド・サウンドなんだ」ってことなんだけど、その向こうにもうひとつ、TOKYO、JAPANて現住所のリズムとスピード、しっかり呼吸しつつ、と言うことはちゃらんぽらんだけどマジな、メンバーの顔がのぞくあたりが好ましい。
「そっちの方が、日本人とか東京の雰囲気に合ってるしね、やっぱ。その場でイメージした音、出していくのが」
「時間かければイイってもんじゃないもん」
自信? んなもんあるに決まってるダロって鼻っ柱の強さと、だけど「こうありたい」「こんなヴィジョンを音にしたい」と願ってるみたいなロマンチックさ。2つの間で綱渡りしながら、『PINK』『光の子』、そして1月25日リリースの最新LP『サイコ・デリシャス』と、スピード感あふれる充実作を発表してきた。
「当分、煮詰まんないよ、このメンバーなら」
「踏襲を潔しとしないバンドだからね(笑)」
言いかえればオリジナリティ。そう一言にしちゃうのはカンタンだけど、さてその根っ子は?と探っていくと、まだアマチュアだったメンバーが、三々五々出会った7年前にまでさかのぼるのだから深い。
「大学のジャズ研にいたんだけど、オレだけいくら練習してもスウィングしないの。”カタい” ”冷たい”って言われ通し」
ドラマーの矢壁アツノブのそんな発言、今度はエンちゃんが「オレは一見”味”を出すのはうまいんだけど、何やっても本格的には深まらなくて」とひきとったり。つまり「ウイてた」「違ってた」、ことが今、アメリカでもイギリスでもない、”日本のPINK”を培ってきた、ようなのだ。
矢壁「いくら変えようとしたって、僕のスタイルは変わんなかった。だったら”東京”のがエラいし、”日本のがエラい、って感覚、育ってもくるよ」
福岡「ベースの岡野君なんか、カメさん(矢壁)のその辺を認めて、一緒にやるようになったんだもん」
矢壁「ちゃんとやってれば、なにやってもダイジョブっていう風になってきたんだよね」
昨年末、ロンドンはマーキー・クラブ(注:正しくはBUSBY’S)での初ライヴが、「日本から来た(良質の)ポップス・バンド」として好意的に迎えられたことも、新しい支えとなったようだ。
「うれしかったね~。”ポップス”として認知された、みたいなとこが」
全然しちめんどくさい”リクツ”のバンドじゃないんです、実際。
「日本でだって、同じ音楽やってるんだからね、僕ら」
ただ「日本のポップスがこうだったらイイ」、まさにその音を、自分たちでやってるだけなんだ、とも。歌詞、そして演奏のふとした一瞬にのぞくあのロマンチックさが、また現われては、消える。
「そうい意味じゃ”架空のポップス”なのかもしんない、まだ」
とは言えその中身が”架空”じゃないことは、3枚のアルバムが既に照明済み。イバっていいことですよ、これは。
(文:真保みゆき、撮影:庄嶋与志秀)
「バックステージ・パス」1987年3月号掲載


