言葉、リズム・・・・・・何でも肉体化しないと駄目だと思うんだよね。

●吉田美奈子さんとは以前から付き合いがあったんですか。

福岡 ええ。『チンピラ』の主題歌の時も一緒にやってもらったし、ファースト・アルバムもコーラスで参加してもらったしね。もともとマネージャーが彼女の知り合いだったんですよ。もうね、贅沢な使い方させてもらっています。

●巨匠を(笑)。

福岡 そうそう。でもやっぱり、言葉とリズムの問題って難しいですよ。どうしても、ロックっぽいのは英語で歌っちゃった方がシックリ行くしね。もっとも、英語なまりの日本語っていうの、オゥレゥワッ、オゥマゥエゥニィ・・・・・・みたいな巻き舌のあるじゃない。あれは嫌なんだよね。(笑)。それと反対に、リズム無視してどんどん言葉詰め込んでくやつとかね。僕はね、そういう暴力的に変えてくやり方よりも、残された可能性っていうかな、それを引き出す、みたいなやり方の方が、結局根づいていくんじゃないかと思うんですよ。

●なるほどね。

福岡 日本語が最初から持ってた響きで、日本に無かったメロディで、かつ肉体的でね。やっぱり、何でも肉体化しないと駄目だと思うんだよね。

●パイオニア精神のPINK!!

福岡 まあ、それほどカッコ良く正当づけるとそうなるんだけどさ(笑)。

●インタビューっていうのはそういう場なんだからイイのイイの。

福岡 うん。言えてるね。曲作るときにね、英語でもないしこりゃいったいどこの言葉だ、みたいな発音をしながら作ってみることがあってね。そうするとね、やっぱり変なものが出来てきてね。すごくおもしろい。

●レコード聞いてると、たまにコーランみたいな雰囲気もあるけど。

福岡 それがね、別にコーランのレコードを研究してるとかっていうんじゃないんだ。なんていうか、変な発音が好きっていうかね、コブシとか・・・・・・。そういうのが歌に凄く影響してるでしょ。

●日本人が最初から持っている演歌っぽいコブシってあるけど、そこから解放されるためにも世界各地のコブシと仲良くなりたいワケなんだ。

福岡 そうそう。民族音楽に興味があるのっていうのはさ、あれって個人の意識的な操作じゃないでしょ。集合的な無意識だけだよね。個人の意識的な操作が削り落とされてるから、肉体だけが残るんだよね。煮込まれたスープっていうかさ。

●いつも民族音楽とかに好奇心を持っているんだ。

福岡 でもね、あんまりレコード買ったりはしないなあ。主にテレビとかね。NHKでシルクロードのとかやってるでしょ。僕、最近になってビデオを買ったもんで、そういうのをよく録画したりしてます。

●シルクロードの音楽とかに接してると、やはりアジアの私たちを認識したりするんですか。

福岡 やっぱりオリエントの音楽のキメの細かさっていうのは、ブラックでもないしホワイトでもない感覚だよね。熱いんだけど冷たい、みたいなね。それに注目するローリー・アンダーソンみたいな人もいるでしょ。

●アメリカの音楽との距離みたいなことでのイエローは?

福岡 やっぱり、向こうは黒と白のぶつかり合いで起こる熱があるじゃない。でも、黄色ってさ、いつも傍観者みたいな気がすんだよね。たとえばアパルトヘイトがあっても、どうもシックリといかないっていうか、リアリティがないってところあるでしょ。もちろん黄色も関係があるのにさ(笑)。

●インドネシアのポップスなんか聞いてるとさ、アレンジとか滅茶苦茶で完成度なんて度外視みたいな感じなんだけど、雑種のパワーがあるものって多いでしょ。日本のポップス系の音楽って、なんか奇麗にコピーできすぎてて迫力ないような気がするんだけど。日本人も勘違いのパワーでやっちゃえばいいのに(笑)。

福岡 でもそれはさ、こんだけメディアが発達したなかで不可能でしょ。僕もね、外国の文化と日本の文化が音楽のなかで混ざってけばおもしろいと思ってんだけどさ、なかなかそれって大変だよ。なんかさ、どうやっても間に線が引いてあるみたいな気がする。

●どうも話がPINKからどんどん離れてるから(笑)、軌道修正しましょう。これからこのバンドでやっていきたいことってどんなこと?

福岡 やはり、ロックっていうか、そういうエンターテインメントなんだから、どんどんエンターテインメントしたいですよね。

●ステージでいろいろ工夫していこうかと。

福岡 まだウチのバンドは踊りとかの部分でステージングは弱いしね。まあ、集まってきてくれる人っていうのは、もちろん音楽を聞きにきてるんだろうからさ、こっちがカッコいいと思ってる曲はカッコいいと思ってほしいしね。そういうさ、自分の感覚とみんなの感覚は一緒なんだというのを信じてやってるんだから(爆笑)。

●PINKのメンバーって、どういう特徴があるのかなあ。

福岡 体力があって飽きっぽい(笑)。

●だと、どうなるの?

福岡 これはこうじゃなきゃイカンって感じで構成を考え始めるんじゃない。それが途中で、いやそうじゃない、みたいに反対の方向に行ったりとかって。でも、最近は割と大丈夫になったかな。これは今の時点ではこうだけども、あとで違った盛り上がりが用意されてんだから、みたいな説明が通るようになった。

●あんまり最初からギンギンには行かないと・・・・・・。でも、インタビューの最初で”いまでもリキむ”って言ってなかった。

福岡 リキむことはリキむけど、ツバキハウスでやり始めたころに較べたら全然違うんだ。あの頃ってさ、40分のステージなんだけど、お客さんは最初の20分でグッタリと疲れるみたいなことやってた。でも、あの頃って、人に聞かせるって感じじゃなかったもんなあ・・・・・・。

●それは大胆な。

福岡 完全なスポーツだったから(笑)。

●いまは場慣れしたでしょ。

福岡 いやあ、他のライブ・ハウスから出てきたアーティストと較べると、ぜんぜん駄目でしょ。もう、僕らの場合はね・・・・・・。

●普通のライブ・ハウス出身バンドって、お客さんを混ぜっ返すのが上手だったりするでしょ。

福岡 そうそう、ウマいウマい。たまにライブでそういう場面に接するとさ、ああ上手だなって思う(笑)。まあPINKの音楽ってさあ、あんまり客席との共有意識をかきたてるタイプじゃないけどね。ラブ・ソングもないし、君と一緒にどうのこうのって無いし・・・・・・。

●そういえば、あんまり客席が一緒に手をつなぐっていうのはない。

福岡 ないない(笑)けっこう歌詞とか冷たい言葉が多いしね。でも、そういうなかでしみ渡っていくものがあればイイと思うんだけど。

●やっぱりPINKって都会的なのかな。いまって、ミックスの違いによる音楽の変化みたいなことが注目されているでしょ。そのへんPINKとしてはどうなんですか。

福岡 そういうの、ここ数年ありますよね。そういうのって、もう行くしかないって感じだよね。今度のグレース・ジョーンズのとかって、そういう意味でもスゲエと思うし・・・・・・。でもね、だんだん音のインパクトだけに頼った作品が多くなっちゃったよね。もう、メロディなんかどうでもいい、みたいなね。でもそういうのって、2、3回聞くと飽きちゃうんだよね。なんか、みんなの耳がだんだん不感症になってきちゃってるみたい。なんか最近、あんまりレコード聞く気が起きないんだ。

●それはあるね。

福岡 そういうのって手法じゃない。でも、それってさ、もうそろそろ終りだと思うしね。よく歌謡曲とかでさ、サウンドは最高なのに歌が出てきちゃうとガクッと来るのってあるじゃない。そういうのやなんだよね。やっぱりメロディが良くないとね。

●外国でやるとかって話はPINKの場合ないんですか。

福岡 レコード出すだけなら、イギリスとか話あったんだけど、ぜんぜん状況が揃ってないからねぇ。見合わせてるってところかな。よくさ、宣伝文句のために海外レコーディングしてくる人とかいるけど、そんなことやったってしょうがないしさ。それで、そんなことで箔がつく時代でもないだろうしね。

●「光の子」のレコーディングは自分たちでも満足いきましたか。

福岡 文句は絶対に言えないと思うな。贅沢に作らしてもらったし・・・・・・。もちろん、理想を言えばさ、もっと時間をかけてやりたかった、みたいなのあるけど、レコードの制作費って、売れる枚数から弾き出されるものでしょ。このレベルではギリギリのね(笑)、スタッフに橋渡ししてもらったし(笑)。まあ、レコードって、完結した作品でもあるし、ほんの経過点てこともあるでしょ。これをライブでやった時、初めて作品が肉体化されて発展していくんだし、歌にしろ演奏にしろ、グングン進歩していくんだからね。PINKって、本当に手作り的なとこあるから。


PINKってすごく主張の激しいバンドだなあと思う。みんな5秒に1度くらい技を出してくる、みたいなところがある。でその技と技が、なんか知らないうちにうまくバンド・サウンドとしてまとまっちゃう。これってインタビューで種明かし出来るものではなさそうだ。ちぇ、レコードでももう一度聞くか・・・。
(インタビュー:小沼信昭、写真:ヒロ伊藤

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「アドリブ」1986年3月号掲載

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