前半のヤマ場を越えると、少しリラックスして、デビューして1年間の3大ニュースの報告会。そして、”この夏ヒットした・・・・・”と言えばコレ、「その気×××」。この曲で2つ目の秘密兵器が登場。ステッカーになったチケットを胸などに貼っておくと、客席に向けられたブラックライトが×マークを照らしだすしかけ。ステージから、客席みんなの×がとてもきれいに見えるのだ。

次の「Liging Inside」では大沢くんがリード・ギターを弾く、腕前のほどは、言わぬが華だけれど、ギターを持った彼もなかなかよい。そのまま「ウーレイ」になって、途中でストロボがつくと、大沢くんは新体操で使うリボンをふりまわす。前回のインタビューで「新体操をやる」と言っていたけれど、まさかと思っていたのに、ホントにやってしまった。でもリボンがストロボで生きもののように見えて、面白い。

体操の後は再びバラード。「Broken Heart」に思いをこめてじっくりとシャウト。この曲はバラードなのにステージできくと感情の高まりを感じさせる不思議な曲だ。渋谷ヒデヒロのギターが、ボーカルとしのぎあって気持ちをせつなくさせる。
思いきりせつなくなってどうしよう、と思っていると、今度は彼が山下久美子に書いた「こっちをお向きよソフィア」と、吉川晃司に書いた「ラ・ヴィ・アンローズ」を軽く歌って雰囲気をほぐす。そしてメンバー紹介をした後、”26年間の人生の中で最高の曲。僕の一面を代表する曲です”と、「そして僕は途方に暮れる」。アルバムで、あるいはシングルで聴くのもいいけれど、こうして目の前で彼が歌うこの曲も、感動的。彼自身、本当に思いを込めて歌っているのがわかる。まわりでは、涙しているコもいたようだ。

この曲を歌い終わると上からパネルが下りてきて、「e-Escape」。大沢くんのシルエットが4つ、リズムに合わせてうつり、パネルが巻き上がってロンドン調蛍光カラーのイラストが次々に現われる。「Juke Boxは傷ついてる」「Jokeでシェイク」そして最後の曲「まずいリズムでベルが鳴る」と盛り上がりは最高。もちろんアンコールにお応えする用意はできていて、まずは「SCOOP」、そして彼が好きなアイズレー・ブラザーズの「This Old Heart of Mine」のカバー。ここで一度引っこんで、もう1曲。生ギターで始まる曲は「I Loved You・・・」。薄明りの中、幻想的な雰囲気で、ゆっくりとかみしめるように歌う彼のうしろに、オープニングで登場した蛍光スクリーンが下りてくる。まずは右端で彼は立ち止まり、スポットライトが当たる。すると彼の形にシルエットがひとつ。数歩動いて、もうひとつ、そして左端にもうひとつ・・・・・。シルエットを残したまま彼はステージから姿を消していく。

大沢くんのステージは、アルバムとはまた違ったアクティブな一面を見せてくれるのが楽しみのひとつだけど、今日のステージは前回以上に彼の動きはシャープで魅力的だ。ステージの段差を利用して、かけ上がったり飛び下りたり、あるいは横になってみたり。(ツアー初日には、飛び下りたとたんステージの穴にハマってしまう、という事故もあったけれど)バンドのメンバーとも一緒になって、とても動きのあるステージになっている。

オープニングでは、クールでタフな一筋縄ではいかないヤツのように、中盤では傷ついた男のように、そして後半では陽気な少年のように、彼は次々に表情を変えていく。ときどき、とてもうれしそうな笑顔をみせるのは、自信の表われだろうか。
「開演前も上がんなかったし、トラブルもないし、うまくいってると思う」
控え目にこういう彼の最大の喜びは、どの会場も満パイのファンが迎えてくれることだろう。

最後に、今日のツアーの最大のエピソードを紹介しよう。いつもなら失敗談になるところだけれど、今日のビッグ・ニュースは彼の大好きな原田知世ちゃんが渋谷公会堂のコンサートに来てくれたこと。彼にはステージが終わるまで知らされなかったのだけれど、歌い終わってステージのソデに来ると、そこに立っていたのがト・モ・ヨちゃん。最初メガネをかけていたせいが誰かわからず、わかったとたん感動のあまり目が点になったそうだ。楽屋に帰ってからも夢見る瞳でボ―ゼンとしていた。そして帰りぎわ、知世ちゃんの立っていた所を通りかかると、ちいさなブーケが置いてある。スタッフが、「これ、彼女が持ってた花束だよ」と言うと、大沢くんはそれをしっかり手に持って、家路に着いたのだった。

(文・今井智子/撮影・岩岡吾郎)

GB 1984年12月号掲載

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