ニュー・アルバム「CONFUSION」の曲と、秘密兵器を携えた大沢誉志幸のツアー”ARABLEⅡ”が始まった。光が背を迎え、影が別れを告げるドラマティックなステージが、彼の新しい顔を浮き上がらせる。圧巻はもちろんニュー・シングル「そして僕は途方に暮れる」。生で聴くこの曲は、あまりにも感動的。涙しても知らないから。

●全身がゾクゾクしそうなカッコイイ・ステージ!!

ツアーは、ねぼけ顔とアクビと遠足気分で始まった。午前9時30分は、早すぎる時間ではないけれど、まだ本気で何かをする気にはなれはしない。初日の会場がある新潟へ向かう新幹線の中は、よくわからないまま時が流れていった。ほとんど眠り虫になっているドラムスのカメちゃんなどに比べたら大沢くんは元気で、明るく「オハヨウ!」。ピース・サインを出しながら、「ゆうべはわりと早く寝ちゃったから、今日は大丈夫だよ」

3時すぎ、リハーサルの始まっている会場の前はすでに行列ができている。ステージではバンドのメンバーがサウンド・チェック。楽屋にいる大沢くんは、真剣に歌詞の予習。でもナンカ変だナと思ったら、
「これ、もらったの」
とテーブルの上に置いてある一升ビン2本を指さして、いたずらっぽくニコリ。
「松武さんと、きき酒したの」
どうやら少し酔っていい気分になっているらしい。ツアー初日からこれでいいの、と言いたいところだけど、よかったみたい。というのも、初日にもかかわらず彼はいつものようにガチガチに緊張しなかったから。でも全く緊張しなかったわけじゃない。開演時間が迫るにつれ口数が少なくなり、だんだん自分だけの世界に没入していった。鏡の前で上目使いに自分の顔を見た時、彼は何を思ったのだろう。

バンドのメンバーは前回とほぼ同じで、ホッピー神山(キーボード)、渋谷ヒデヒロ(ギター)、岡野はじめ(ベース)、矢壁カメオ(ドラムス)、矢口博康(サックス)、松武秀樹(コンビューター・プログラム)、それに小滝満(キーボード)。前回以上に息の合った演奏で大沢の歌をサポートしている。

今回のツアー”ARABLEⅡ”は、全16か所。彼とバンドのメンバーが思い切り動きまわれるようにステージは3段に組まれ、中央と左右に階段がついている。これをかけ上がったり、飛び下りたり、立体的なパフォーマンスが展開される。そして、まだ誰も使ったことのない秘密兵器が、このステージのオープニングとラストを飾る。まずオープニング。ステージ中央に下りたスクリーンに向かって、サックスの矢口くんがハンドライトを向け、ゆっくりと文字を描く。”Welcome” 光で文字が書けるなんて信じられないけれど、このスクリーンはできるのだ。特殊なインクを塗ったもので、インクが光に反応して光が当たったところだけしばらくの間光っている、のだそうだ。
このスクリーンに驚いていると、一曲目の「Confusion」が始まる。このツアーではもちろん、ニュー・アルバムからの曲を中心におなじみの曲もタップリ。「Why Don’t You Know」「Kissはそこまで」とアップ・テンポのナンバーから「ダーリン小指を立てないで」「Sadistic Cafe」にクール・ダウン。そして中盤は落ち着いたナンバーに。

「3枚目のアルバム『CONFUSION』をニューヨークでレコーディングしていた時、とても気に入ったお店を見つけた。イーストリバーのほとりにあるバーで、マンハッタンの夜景が見わたせる。そこで美しい夜景を見ながら、ふと思った。”こんな気分にぴったりの曲があったっけ”。そしたら僕はちいさな声でこの曲を歌っていた」
こう言って歌い出したのは、「宵闇にまかせて」。1作目『まずいリズムでベルが鳴る』に入っているバラードで、彼のお気に入りのひとつ。続く「雨のタップ・ダンス」は最新作の曲だけれど、ステージ用にアレンジが変えられ、イントロのピアノがムーディだ。そして「ハートブレイク・ノイローゼ」。じっくり歌いこむバラードが3曲、彼のハスキーボイスが全身にしみこんで、ゾクゾクするほどの緊張が快感だ。

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