バンド・ムーブメントの歴史は

”バンド・オブ・ニュー・エイジ”と題して、日本の音楽シーンの最新のムーブメントを4回にわたって紹介してきたわけだが、86年に入っても勢いは衰えず、この動きはますます広がる気配を見せている。
85年にブレイクしたレベッカに続いて、キャリアを重ね、実力をつけてきたバンドたちがぐんぐん頭をもたげてきて、一気にメジャー化しそうなグループがひとつならずある。
また、新しいバンドが数多くデビューを待っていたり、インディーズ・シーンからメジャー・デビューするバンドもあって、去年を台頭期とすれば、今年はその動きが本格化、表面化する時期になりそうだ。

ところで、こうしたバンドのムーブメントは、過去にも何回かあった。古くはGS(グループ・サウンズ)あたりに始まるのだろうが、現在のムーブメントにつながるものは80年前後のニュー・ウェイブ、テクノのころの動きが直接的な痕跡をとどめるに過ぎない。それ以前で言えば、日本のロックの創成期に、海外のロックに刺激されて生まれた”はっぴいえんど”に始まるものがあった。このころから活動を始めたバンドとしてはムーンライダーズやセンチメンタル・シティ・ロマンスなどが現在でも活躍している。ポップさと同時に、サウンドに対する研究心や創造性、そして何より、何人かが力を合わせてものを作るという、バンドならではの方法論と個性を初めて日本に存在させたのは、彼らである。
その後、これらのバンドはセッションという、より流動的な形に移行していく。

今回のムーブメントに通じるポップさを含んだバンドのムーブメントが起こるのは70年代後半、ゴダイゴ、チャー、原田真二、世良公則&ツイストの後を受けて、サザンオールスターズがヒットを飛ばした後である。この時期になるとニューミュージックがビッグ・セールスを記録するようになり、コマーシャルな音楽シーンが「バンドはビジネスになる」と判断して、多くのバンドをデビューさせた。ショットガン、ブルーベリー・ジャムなどがあったが、逆に商業的判断から消えていったバンドがほとんどだった。中で唯一、自分たちの道と存続の方法を見つけ出して今に至るのはARBなど、わずかだ。
テクノ、ニューウェイブの時期にも多くのバンドが輩出した。P‐モデル、ヒカシュー、フィルムズ、ハルメンズ、リザード、フリクションなどがいた。この中には現在もソロとして活躍中の鈴木さえ子や、作詞家の佐伯健三がいたが、先鋭的な姿勢やマネージメントの不備などで、短命なバンドも多かった。しかし、多くのバンド予備軍にとっては、より一層バンドが身近なものになったことは確かだ。

一方、ビート・バンド・ムーブメントからは、先行していたシーナ&ロケッツを追って、モッズ、ルースターズ、ロッカーズなどが出た。
他にも、フュージョン・シーンやハードロック・メタル・シーンなど、バンドを生む背景はいくつかある。
これらの何度かのバンド・ムーブメントを生んだのは、もちろん自分の音楽を実現する夢を抱いたミュージシャンたちだ。が、一方にそれを演出する大人がいたり、バンドという大所帯を維持し、運営していく部分が弱かったりして、音楽性とともに経済的なファクターに大きく左右されてきたのが、これまでの日本のバンド・シーンだと言える。

 

85年までに現れたバンドたち


”バンド・オブ・ニュー・エイジ” の動きは、これまでの日本のバンドの歴史の現在形であるとともに、現在の洋楽を含むポップス・シーンやメロディー、詞ともに内実を求めるニュー・エイジのオーディエンスの出現が生んだものだと言える。
もちろんバンドのメンバーたちも、ノージャンル、ポップ指向、ダンサブルなリズム好きなど、オーディエンスたちと同時代のニュー・エイジたちだ。
レベッカは力強いチャートアクションで先行しているとは言え、今も確実に試行錯誤を繰り返し、さらにシャープでオリジナルな音の追求に余念がない。セカンドLPに入っていた曲「バージニティ」でNOKKOのボーカルの魅力を引き出すメロディーをつかんだ土橋の力は、大人の手を借りずに一級のポップスをバンド自身で切り拓いていく大きな原動力になっている。自分たちの手でサウンドを作り、アイドル勢たちと肩を並べて活躍していくことこそ、バンド・オブ・ニュー・エイジがムーブメントとして表面化する大きな要素なのだ。

ストリートスライダーズ、BOØWY、PINKの3バンドはブレイク可能な実力を持った本格派だ。メンバーたちが同等の存在感で関係し合う音はスリリングで、バンドというものの醍醐味を広く知らしめるカギを握っている。
バービーボーイズ、TMネットワークも今年ブレイクが予想される有望株だ。彼らは独特のテーマとサウンドのポップさを持ち、曲として優れたナンバーが多い。シングルヒットをねらえるバンドとしてこのシーンの中で軽快なフットワークがある。
エコーズは、最も今を感じさせるテーマを掲げて昨年シーンに躍り出たが、このバンドもバービーやTMと同じく、そのメロディーのポップさが魅力だ。デビュー時のイメージを上回るメロディーの力を発揮できれば、非常に優れたバンドとして君臨するに違いない。

その(2)に続く>>

「FMレコパル」1986年5号(2/24~3/9)掲載