
サイバーPINK!
いきなりの駄洒落に思わずたじろぐ。普段真面目な人が突然ボソッと口にしたジョークみたいだ。笑っていいのやら悪いのやら。正直な話、ちょっと困った。
まあ、いい。ともあれ、PINKが前作からほぼ10カ月ぶりに放つ4枚目のフル・アルバムだ。タイトルはもちろん、近ごろSFファンの周辺でがぜん盛り上がりを見せているサイバーパンク、つまりコンピュータ・テクノロジー革命以降の近未来小説をもじったもの。駄洒落の出来はどうあれ、けっこうハマったネーミングだな、と思う。
サイバーパンク・ミュージック。
今回のアルバムだったら、たとえば「ドクターD・ロック」。この曲で聞かれるデジタル楽器群のファンキーな躍動感と、エフェクト処理によって腕ずくで生っぽさを剝ぎ取られた感じの肉声との対比が織りなす不思議な力学がいい例だ。あるいは「熱砂の果て」。こっちの曲では、本来ならばひたすら無機的に響くはずのホワイト・ノイズや電子音が妙になまめかしく絡み合う、そんな演奏をバックにクールで無表情なヴォーカルが舞い踊る。機械vs人間。お互いの持ち味の微妙かつ奇妙な逆転劇。これはデビュー以来、PINKが様々な形で提示してきた刺激的なデジタル/アナログ交錯音楽の一連だ。と同時に、これはまさしくサイバーパンクのコンセプトでもある。だから、サイバーパンク・ミュージック。ロックともソウルともジャズとも歌謡ポップスともニュー・ミュージックとも何とも形容のしようがなかったPINKの音楽的力学を定義する絶好のタームがようやく見つかったって感じだ。めでたい。
完璧にCDを第一次メディアに想定した全14曲66分30秒。前作『サイコ・デリシャス』では、ある種の統合感に満ちたバンド・サウンドを見事に実践してみせた彼らだが、この新作では若干方向修正。その統合感をベースにあえて拡散を目指したかのような1枚だ。メンバーほぼ全員が曲作りに絡み、ああだこうだ好き勝手にイメージを拡げている。今やお家芸といった感じのポリス/スティング調ナンバーをはじめ、プリンスにも通じるイノヴェイティヴ・ファンク、ロマンティックなクリスマス・ラヴ・ソング、エスニックな中にどことなくビートルズ的なイディオムを感じさせる曲などなど。それぞれ異質な個性をたたえた各曲が、さほど前後の脈絡なくダーッと並んでいる。とはいえ、不思議と散漫な印象はない。”サイバー”というコンセプトがいい形で全編を貫いているせいだろう。ちょっと大げさにたとえるならばPINK版ホワイト・アルバムってところ。
ほめすぎ? そうでもないです。
(萩原健太)

雑誌内載広告
「MUSIC MAGAZINE」1987年11月号掲載

