コンピューターと人間の、究極の合体を目指すCYBERをキーワードに、PINKが打ち出した究極のポップ/ロック、それが『CYBER』。いま、いちばんキレイでアブナくてキモチいいCYBER PUNK ROCK。

ドリョクってヤツはキライだ。例えば真直な線を引くのに何故練習しなくちゃいけない? そういうマシンがあればいいんじゃない?
そう考えるのが人間の進歩の源、いわゆる必要は発明の母ってことね。それをどんどんどんどん進めていって、いっそマシンと人間が一緒になればいいんじゃないのっていうのが、CYBERという考え方。サイボーグとかみたいに人間化したマシンとか、マシン化した人間というのが一般的だけど、簡単に言っちゃうと例えばTVゲームをする時、今はキーボードやジョイスティックを指で操作するけど、それが脳と直結して、やろうと思ったことが直接コンピューターに伝わっちゃうというようなこと。
「そういうの、子供の頃から考えてたよ」とヘーゼンと言ったのは岡野ハジメ。

●肉の言い分だ。無視しちまえ!

「だってさ、表現として一番ジレンマがあるのは肉体の問題なんだよ。メンドくさいの。テクニックとかさ。やっぱりタダのヘタクソじゃ絵は描けないし。そういうすごい律儀な条件が出て来るわけじゃない?訓練!とかさ。そういうのじゃなくて、もう(感性・頭脳と)直結してね、表現できればそんな便利なことはないし、完全な開放があると思うのね、表現としては」

う~む何やら難しい話がイキナリ始まってしまったけど、要するに「こういう音が出したいな」って思ったらその音が出る、そんなシステムがあればいいなという話。フツーはその音を出すために楽器の練習を死ぬほどしたり、それでもできなかったりするわけだ。

「だからCYBER的な要素が付けば、何にしてもラクになるわけじゃん。より距離が縮まるじゃない。時間的にも早くなるしさ。作業の時間じゃなくて、インスピレイションから具体化するまでの。そういう物理的なことがさ、いいなあと思って」と同意したのはカメちゃんこと矢壁アツノブ。みなさんナマケモノ!?

 

●男の子の喜びは、卒業したんだ。

矢壁 「まあ、そういう努力っていうのも必要なのかもしれないけど」

岡野 「そこに喜びがあるってのも、確かに少しはあるね。でもそれは”男の子的な喜び”であって、アーティストの喜びではないのね。プラモデル作ってて、出来ちゃうとつまんないんだけど、作ってる間は楽しい、という類の喜び」

そういう”男の子的喜び”を演奏テクニックという点では卒業した彼等だからこそCYBERというコンセプトが生まれたというわけ。

岡野 「僕はハイテクの究極には、やっぱり詞とかそういうのがあると思うの。だからコンピューターに恋愛する、とかそういうの、当然あると思う」

オイオイなんだかアブナイ話になってきたぞ。モノが好きになったりする人は今はプッツン者と言われるんだけど。

岡野 「だからね、そういう肉体とか機械とかの概念自体がもうすぐ変わると思うよ。本当に、そうなるとすごい面白いと思う。そうなるともっと下世話なエモーションの部分が変わるでしょ。恋とか愛のメッセージがもっとメチャクチャになって。それこそ本当の変態の時代が来る!」

うひゃ~スゴイことになっちゃうな、こりゃ。でもまじめな話、マシンと仲良くすることで人間的でなくなるというは違うみたい。いままでと違う人間性が現れてくることだと彼は言いたいわけだ。PINKがやっているのは、そういうことだと思う。

 

●俺たち、ナ~ンにも考えてない!

岡野 「だから、僕が今回書いた曲は、自宅録音をベーシックにしてやってるんだけど、フレーズをサンプリングして、それをランダムに鍵盤押さえて作るという形を取ったの。そうすると、自分の中から出てきたものでもアレっ!?って偶然性がすごい左右してくるのね。そういう自分の思い通りじゃないものが出てきてなおかつキモチ良かったっていうのが、音楽をやってて一番面白い」

じゃあ肉体的なセッションというのはPINKではやらない?

岡野 「そんなことないよ。むしろすごくセッションぽいんじゃない?ただ、ハイ赤出しました黒出しました青出しました、っていうのがあって、『あ、これ配色が悪いな』とか言って瞬間的に変える、そういうのが瞬間的に行われていってハイPINKよって」

矢壁 「だからメチャクチャ考えてつくってんのかなと言われるけど、そんなことない。全然考えてないの(笑)」

 

●日本人の感性はアナーキー

岡野 「ライヴのことも考えてなかった、いつもながら(笑)。テープ使ったりするよ、もちろん。だから外人サンがPINKのライヴ見ると音がどこから何が出てるんだかさっぱりワカラナイって(笑)。ホント日本ぽいなあ。日本人の器用さとか含めて全部あるから。僕さあ、最近日本人に目覚めたの。ワビサビってアナーキーなんですよ。日本人のサイバーパンクの鍵はその辺にあるんじゃないかと思う。日本は東洋の小島で、きれいでね、文化の渦でっていうパラダイスであればいいと思う。そうなるためには日本人がいかに日本人であるかっていうところを再認識してやると、パラダイスになるんではないかと。日本のロックって、そういうとこに鍵があるんじゃないの」

ともあれ「東京」をテーマにCDのために作られた(イッキに60分、アルバムは3面の)新作『CYBER』をひっさげて、PINKはツアーを開始する。キレイでアブナくて楽しいライヴに乞うご期待。

(文:今井智子/撮影:青木茂也)

 

 

「バックステージパス」1987年12月号掲載