シンプルでナチュラル、かつ個性的。元PINKの福岡ユタカと矢壁アツノブによるニュー・プロジェクト”HALO”の第一作『HALO』の仕上がりはそんな感じだ。正に新時代の音を示唆する内容になっているのが興味深い。
---まずHALOをユニット形式にしたってことからお聞きしたいんですが、お二人にとってバンドとっていうのはもう古いものなんでしょうか。
福岡 「古い新しいでなくて、何か核を置いといて、それ以外はお互いの領分犯しながら好きなことをやっていくってやり方の方が合ってるってことですよね。曲によっては僕は違うメンバーでやりたかったし、違う録り方もしたかったし。そのためには柔軟な形を維持しときたかったっていう」
---その辺はPINKの頃との最大の違いですね。
福岡 「それが全てではないけど、焦点を絞れたっていうのは確かに大きいね」
矢壁 「エンちゃんがメロディーで僕がリズムで・・・・・、音楽の三要素のうち大切な二つの要素が揃っちゃってるわけだしね。それにこの二人ならある程度のものはできるってことは見えてるわけだから、逆にそこは何を加えてもいいってことだよ」
福岡 「カメちゃんはドラマーだけど、僕のヴォーカルのディレクトやアレンジまでやるんですよ。僕は何でカメちゃんとやりたかったかって言うと、そういう個性があるからなのね。単にドラマーとしてのカメちゃんでなくてね。他のメンバーもそんなスタンスで集めた感じかな」
---アルバム『HALO』の狙いはどんな所でした?
福岡 「まず余分なもんは取りはずしたいって所から始めて・・・・・。それと今回はロック・フィールド以外の人にもアピールできるものっていうか・・・・・。今のロックって、リズムと単なるサウンド・インパクトとキャラクターで終わってる例、多いでしょ。それをもう一回、音楽的なレベルに引き戻して、リズムとメロディだけで勝負したかったっていうのがあったのね。要するに一番プリミティヴなもの・・・・・っていう、その辺の肌触りみたいなものでね。今、変に音作りに凝るよりそっちの方が気鋭的だからね」
---何でもあり、って発想のPINKの頃から一歩進んで、今度は切り捨てる段階にきてる?
福岡 「そうだね。デコレートの部分は今回、どんどん排していった感じだからね。ミュージシャン沢山スタジオに連れてきてジャム・セッション的に録った曲もあるけど、そういうのにもダビングは一切しなかった。全体的には引き算、引き算って考え方でやってったよね」
---よく言う、”雑種サウンド”はもう古いんでしょうかね?
福岡 「それに関してはよくわかんないな。だって所詮日本でこういうことをやると、何でもフェイクになっちゃうわけだから。本当の意味での雑種なんて、もう、ニューヨークかなんかじゃないとありえないと思うんだよね。だから・・・・・、よく以前は”雑種からオリジナリティが生まれる”なんて言われてたみたいだけど、今言えるのは日本的なオリジナリティとか、東京的なオリジナリティっていうより自分のオリジナリティを作っていかないと意味ないってことなんだよね。だから今、僕はHALOってジャンルを作らないといけないと思ってるわけ」
---その辺の意図もあって、今回は窪田晴男とかBANANAとか、わりと近親のミュージシャンで固めてる?
福岡 「いや、それは単にいいミュージシャンが少ないってこと。いいミュージシャンでかつ僕らが好きだっていうミュージシャンっていうとこの辺に尽きちゃうよね。周りからは身内に見えるのかも知れないんだけど」
---TDはどうなんですか?今回はニューヨークのブルース・ミラーっていう、以前、日本のPOGOなんかも手がけてた人に委ねてますけど・・・・・。
福岡 「うん、だから、日本でできるTDは結構やっちゃったから・・・・・見えちゃうんだよね。今回はそれと、そこに住んでるミュージシャンにあたりをつけたいっていうのもあって、ニューヨークでってなったわけ」
---それもそこにいた個性を期待して?
矢壁 「そう、そう。むこうのミキサーっていうのは単にテープに入った音を整理するだけでなくて、その音の形を整えたり色をつけたりするものって発想で仕事してるからさ、与えられた音源は何でもOKなわけよ。だからキックの音色がどうのとか、ヴォーカルのエコーとかディレイのタイムがどうのって話から始めないで済んだからね、その点すごく楽だったっていうか」
福岡 「とにかく把握力が強いんだよ。それだけミュージシャンに存在が近いんだろうね。だから今回は個性的すぎて、”ちょっと違うかな?でもしょうがないか”なんて思うこともあったけど、それはそれで狙ってたことだったな」
---戦略的な面はどうなんですか? 今の日本のマーケットに向けての勝算っていうか。
福岡 「僕たちは評論家とか商人じゃないから、自分の気持ちに合ったものを作っていくだけだけど、基本的に長い目で見てるからね、スタイルとか、呼び名じゃない所で伝わればいいとは思ってますね。今、ロックは先鋭的じゃないから期待するものはないとかよく言われるけど、僕は一概にそうも言えないと思うしね。音楽以外のいろんなもので出てきて、その中で聴き手の奥底に残っていってくれるようなものを作っていきたい。そんな気持ちが強いかな」
インタビュー/小島 智 写真/大西 基