◆岡野ハジメインタビュー◆

エンちゃん、僕、ホッピー3プロジェクトで別々に作ったんだよ

―――今回のレコーディングは?

岡野 今回は『CYBER』のときよりもっとバラバラに作ったんですよ。エンちゃんとホッピーと僕の3つのプロジェクトに分かれて。TDも僕は自分の曲しか立ち会ってない。昨日テープもらって、初めて聴いた曲も一杯あったくらいですからね(笑)。ベース弾いたのも、ホッピーの曲くらいでね。

―――岡野さんの曲は?

岡野 スタッフにはもっと何曲かやってっていわれてたんだけど、結局「AUGUST MOON」1曲だけになっちゃった。昨年、レコードを出したクアドロフォニックスっていうユニットを一緒にやってる吉田仁(サロン・ミュージック)に詞を書いてもらって、コーラスはちわき(まゆみ)さんに頼んで。ベーシック・トラックは全部自宅の16trのMTRで録音して、あとからドラムとギター・ソロの部分を入れてから、ホッピーにミニ・ムーグを入れてもらった。スタジオでそれらを被せてから、またそれを自宅の16trに戻して歌を入れてTDLしたの。結構手間も時間もかかるんだけど、スタジオで歌うの好きじゃないしね(笑)。サロン・ミュージックなんかは、そういう方法でやってるんだよね。ギターは自分で弾いたのを、サンプリングしてるんだ。『CYBER』にあった「Dr.MIDNIGHT」って曲で、ベースをフレーズ・サンプリングしてるけど、あれをギターでやってみたの。ギブソンのRVアーティストっていう、ギター本体にすごい強力なコンプレッサーが入ってるのを使って。バキバキのつぶれた音なんだけど、サンプリングするから、もっと冷たい感じの音がするんだよね。

―――『CYBER』はハッキリしたコンセプトがあったけど、今回のアルバムは?

岡野 今回はMOONレコードの佐々さんがトータル・コーディネイターで、全体のまとめ役だったんだけど、『RED&BLUE』っていタイトルは決まってた。佐々さんいわく、赤は肉体的なもの、BLUEはクールな知的な部分。それが混然一体となったのがPINKだと。で、彼が僕に求めていたのは、今まで僕が作ってきたヘヴィ・ファンクみたいな曲だったんだけど、作ったら全然違うものになっちゃったんだよね。別にグイグイした感じは卒業しましたってわけじゃないんだけど。

―――PINKの岡野さんというよりクアドロフォニックスの岡野さんという感じで。

岡野 そうかもしれない。レコーディングの手法が同じだし、吉田とコラボレーションしてるのもそうだし、クアドロに入ってても変じゃない曲だね。そこらへんは結構悩んだんですよ。クアドロと同時期にやってたから、PINKっぽい曲をこっちに回したっていうか・・・。ちょっと異色な曲かもしれないね。

―――なぜ今、活動休止しようと?

岡野 やっていこうと思えば、やっていけるんでしょう。実際このアルバム聴いてもね、よく出来てると思ったの。どう転んでも作った人らしさが出てて、バラバラに作ったわりには通して聴けちゃったりしてさ。これがPINKだったんだなって客観的に思ったのね。こういう形でレコード作るのは、肉体的にも精神的にも苦労ないから、これから10枚でも20枚でも音楽は作れるだろうね。でも、僕はもっとマミれてやりたいっていうか。人生共同体って意味じゃなくて、ケンカしてもいいから、もっとピンポンしながらやりたいんだよね。でもただの子供のケンカで終わらないためには、最低の思想的伏線が同じじゃないとね。意見を投げかけてもプツっと切れて進む、TVの徹底討論会みたいにナンセンスな状態になるのは、やっぱりつまんないからね。

―――根本的な考え方がちがうと?

岡野 皆、サウンドのトータル性で音楽を考える集団だったからね。ギターをこう弾きたいとか、ベースはこうでとか、楽器に対する思い入れとかプレイヤー魂みたいなのはないんだよ。もっとギター弾かしてくれ!とかの稚拙なケンカだったら解決のしようもあるけど、これは赤くしたいとか青くしたいとか、グイグイしたいっていうことの戦いっていうのね。その人をどう認めるかってことにかかってくるでしょ。話合いでは解決しないね。最初はそのぶつかりあいが面白かったんだけどね。今はお互いを認めているんだけど、同じ方向には進めないっていうかね。だから、僕は例えばエンちゃんのやろうとしてることを頭ごなしに否定する気は全然ないし、彼の才能は認めてるしね。ただ、僕が関わっていきたい音楽とはちょっと違うなってことで。

 

社会を変えてしまうような人間の肉体に直接訴えかける音楽を

―――今回の3つのプロジェクトの方向性の違いというのはどんなところに?

岡野 エンちゃんの場合は、やっぱり音楽がすごく好きなんでしょう。いい音楽を作りたいんじゃないかな。いい曲、いいメロディ、いいリズムを作りたいって感じだね。ホッピーはもっと僕に近くて、バンドで何かやりたいんじゃないのかな。僕はいい曲とかいいリズムとか好きだし追求していきたいんだけど、音楽って社会との関わりのKEYなんだよね。今音楽は直接人にメッセージを投げかける窓口になってるわけじゃない?極端に言っちゃえば、僕にとって音楽は1つの手段で、音楽そのものを追求しようとは思ってないの。一方で、僕はすごくバンドやりたいんですよ。ライブを演りたい。ライブできなきゃ意味がないみたいなとこもあるのね。いいライブっていうのは、一生の間にそう何回も経験できないけど、上手くいったときの気持ちよさっていうのは何物にも代えがたいから。70年代初期にT-REXとか外タレのコンサートみて、背スジが寒くなったり、ホーケてしまう感じで、音楽をやるハメになっちゃったってところがあるしさ。それくらい人を変えられるような音楽をやりたいんだよね。PINKも最初は、グリグリの速いファンクみたいに凄まじくて、メチャウマのパンクって感じだったんだよ。デカイ音でとにかく40分くらい走り続けてパタリと止まっちゃうような(笑)。ヘヴィ・テクニックと過激なスタンスがすげぇ!と思ってたんだけど、いつ頃からかポップス路線になってさ。でも結局それから売れたっていうのはあるよね。『サイコデリシャス』が一番売れたけど、僕はやっぱりそうか、と思った。日本はやっぱりって・・・残念だったね。で、僕の目指すものとは違うな、と。

―――これからやっていきたいことは?

岡野 具体的にどうなるかは分からないけど、やっぱり人を変えたいっていうか社会を変えたいって気持ちはスゴくあるね。自分がロックや映画で変わったように。そういう意味じゃ、売れるものをやりたいよ。今の日本では”売れてない”ってことは、もうナイに等しいからね。でも現状維持することで売れるのは絶対イヤ。いろんな問題を含めて音楽やってくのってムチャクチャ難しいよね。だけど、人間の感動ってそんなに変わらないと思うんだ。歴史が始まってから、多くの人が感動することのベクトルってすごく近いと思う。例えば夕焼けを見た時や海に行った時感じること、恋愛のとき湧きおこる感情やSEXの時の気持ちって、情けないほど変わってないよね。そういう基本的な人間の肉体に訴えるような音楽をやりたい。そういう意味で、”クアドロフォニックス”はデッサンの前の素描写であり、誰にもさわらせない大切な実験場だね。クアドロにあるものを、もっと分かりやすく薄めて世の中に出すつもりなんですよ。

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「キーボードランド」1989年3月号掲載