彼ら”PINK”に関する話題は、ずいぶん以前から沸騰していた。今までのどんなバンドにも似ていない、革命的なサウンドを持ったグループということで。もともとライヴで根強い人気を得てきた彼らが、この5月25日、『PINK』でいよいよアルバム・デビューする。日本の音楽シーンに乗り込んだ台風の目とも言えるこのグループのキーボーディストで、本誌でもおなじみのホッピー神山氏に、今月はインタビューしてみた。

―――昔は近田春夫さんのバックっていうことで、このPINK、スタートしたわけでしょう?

神山 いや、ビブラトーンズっていうのが、近田春夫さんを含めたひとつのバンドだったんです。だけど近田さんが強力なキャラクターを持った人だから。ヴォーカルのエンちゃん(福岡ユタカ)が作った世界も隠れちゃう。で、もっと自分の音楽性を出していろいろやろうよ、みたいなことになって。最初はセッションで始まったんですよ、PINKは。

―――その時、今の6人は揃っていた?

神山 スティーブ(衛藤)と僕とエンちゃんの3人はいたの。あの頃はいろんな奴がいて、鈴木賢司とかジューシー・フルーツの沖山クンとか、ドラムにはShi-shonenの友田クンとか。それがだんだん入れかわって。当初はね、パンクやろうってことだったんだけど、少し路線が変わって。

―――PINKの路線、何といえばいいのでしょうね。なかなかたとえるのが難しい・・・・・。

神山 たとえばYMO一派とかムーンライダーズ一派とか、ああいうワクの中からじゃなくまったく別のところから出てきてるから、影響というかもとのカラーがないんですよね。そこにひねりというか毒というか、変なものにしてやろうみたいなのがあって。並たいていの普通の音じゃ満足しないんですよ。ヴォーカルの、日本人にないような雰囲気や、リズム・セクションの、デジタルで計算されたような前のめりのコンビネーションがすごくいいから。全員で突撃するような形のね。

―――レゲエのリズムとか多いでしょ。

神山 エンちゃんが好きなの。黒人の血が混じった曲が好きね、土人ぽいのが。声も土人ぽいでしょ、ホンモノのアフリカ、アフロとかレゲエとか。あとは中近東の変な・・・・・イランのメロディとかね。

―――神山さんの方はイギリスですか?

神山 いやあ、何でも聴くんですよ。でも、変なものが好きですね。最近はヨーロッパだとクラムド・レーベルのものとか、西ドイツのアタック・レーベルのものとか。まっとうなアメリカやイギリスのロックの影響を受けてない向こうのロックっていうのは、やっぱり曲がってて面白いですよ。僕もともと’70年代は、10ccとトッド・ラングレンなんですよね。10ccの初期って、曲がってて変でしょ。そういう、少し何らかの形で壊していく、その方がイキだなぁと思うんですよ。

―――神山さんの使用機材は?

神山 イミュレーターⅡ、プロフィット5、DX7と、その3台だけです。ライヴも。

―――B④「人体星月夜Ⅱ」の頭に出てくるメロトロン・コーラスのような音は、何で?

神山 ああ、あれはノヴァトロンです。

―――ライヴの時は、テープですか?

神山 テープも薄く入ってるんだけど、僕もEmuの方で混声合唱の音を混ぜて出してる。

―――Emuはノヴァトロンをサンプリングして?

神山 いや違うの。これはEmuⅠを使ってる時にサンプリングした音をEmuⅡに移しかえたものなんですよ。

―――イミュレーターのどこがいいですか?

神山 限界はあるけどね。VCFとVCAがあってフィルターかけてとか、わりとアナログ合成だから、フェアライトのように波形合成で、もっと細かくいろんな違った音を作れたりはね。でもサンプリングを新たにして、それを動かしていくっていうのなら変わらない。使いやすいし、ライヴでも使えるしね。

―――DX7とプロフィット5はどういう風に使ってるんですか?

神山 たいてい僕はプロフィットを中心に考えて、足りない部分をDXで補ってるんだけど。DXはプロフィットでどうしても出ないような立ち上がりの速い音を作って、MIDIでつないで混ぜたり。ライヴでも足元にキャンセル・スイッチがあって、足でON/OFFしてるんです。

―――どちらかというとギター・メインのサウンドだけど、神山さん自身、キーボードをもっと目立たせたいというところはありますか?

神山 ギター・メインだとサウンドとしてハードでワイルドになる。キーボードが前に出てくるとやっぱりワイルドでなくなってくるのね。テクノっぽいっていうか。だから最初の時はこれでいいと思う。今、キーボードがメインのバンドって多いでしょ。だからいいと思うんだよね。インパクトあるし。

―――男っぽい感じがしますね。

神山 クサイでしょ(笑)。けっこうPINKのイメージってアンドロイドっぽいんですよね。気持ちが入らない音楽って感じ。ライヴでも人形が演奏してるようなイメージ。そのへんがキャラクターじゃないかと思うんですよね。音もそういうイメージになりますね。

―――音色も、かなり凝ってるんでしょう?

神山 僕、音色はいきあたりバッタリでやってる。レコードとライヴは同じ音使ってるけど、ひとつの音に何時間もかけるとかそういうのなくて、その時浮かんだ音をポンポンとやっちゃうんです。けっこう他の楽器とのバランスで良く聴こえたりするんですよ。たとえばギターと同じ音色を使ってやったりするとギターの方にどうしても負けちゃうし。それがギターとかベースの音とのからみで、向こうもこっちも生きるっていう。だから凝ったことをやるよりも、はまったとこにうまく入れていくことの方を考えますね。僕、海外のバンドですごくセンスがあるなって思うのは、キーボードのいないバンドである場合が多いんですよ。どうしてかっていうと、キーボードが入ってるとそれが前面に出ちゃって、雰囲気一定しちゃうからこれだ!って感じがしないんですね。たとえばポリスとかXTCなんか、キーボディストいないでしょ。メンバーがレコーディングの時だけ弾くわけですよ。ビートルズもそう。要所要所に入れて。その方がカッコいいと思う。

―――逆にいうと、キーボディストとしてはずごく難しいところじゃないですか? たとえばついつい弾きたくなっちゃうとか・・・・・。

神山 そこをグッとガマンする(笑)。弾くより難しいですよ、やっぱり。特にキーボディストって”埋めたい”っていう性質あるじゃない?音が埋まってないと不安だっていうのがみんなある。特にエレピとかピアノ弾く人はね。だけどトータルで聴くと、いらないことっていうのがすごく多いでしょ。欲しいとこだけ入れて、あとはグッとガマンしておくっていうのが必要だと思う。’70年代までのプログレとかハード・ロックは、埋めることに意義があったでしょ、それによって存在感を出すっていうか。’80年代はそうじゃなくて、わざとすきまをあけて、そのすきまの中でいかにカッコよくやっていくかということなんですよね。

―――すきまを作る作業としては、スタジオに入る前に組み立てておくんですか?それともやっていくうちに出てくるものですか?

神山 両方ですね。だけど僕は、あまり前もって考えない。一番最初に集まってガーンと音出した時の方が、自然でいいってことがあるでしょ。やっぱりその場の自然の勢いがいい。勢いよく出して、それでいらないところを削っていく方がね。

―――ソロってないですね。そういえばギターも。

神山 ソロやっちゃうと熱いものになっちゃうでしょ、必ず力がはいるし。ちゃんと組み立てられたものの方が、今のPINKのサウンドにははまってると思う。音楽自体もね、たとえばヤン・ハマーのやってたのは、ギターっぽく弾くっていうのが狙いでしょ。ミニムーグのあの時代にソロをやったというのはいいと思うけど。だってハービー・ハンココックとか、ソロをギンギンにやってる人でも、最近のレコードにはソロが全然はいってないしね。どちらかというと、サウンドの面白さをメインにしたいね。

―――曲書いてるのはヴォーカルの福岡さんですけど、今後他の人も書こうというのはありますか?

神山 昔からみんなも書いてるんだけどね、ヴォーカルがね、自分の世界とちょっとでも違うとすぐ歌わなくなるんです(笑)。それぞれ世界が違うから、色が合わないんですね。変な個性を持った人間が集まっちゃってるから、よけいに他にない感じが出ると思うんだけど。今のPINKの音っていうのは、ヴォーカルのキャラクターの雰囲気があるでしょ。だからあのキャラクターを一番フィーチャーしたい。彼の歌が一番活きる形で、曲を書いたりサウンドを作っていったりしていきたいんだよね。今は。

―――今後は?

神山 いろいろあるんだけど、もうちょっとゆとりが出たところで、それはね。今はまだこのままでいいと思います。

―――そういう意味では、この1枚でガッチリした世界みたいなものがありますね。

神山 そう。LPを何枚か出すんだったらいろんなものがもっとあってもいいと思うんだけど、今は1枚目なんで(笑)。まだPINKは ”こういう音” っていうジャンル分けができてないからね。たとえばもっとメロディックな曲もないことはないんだけど、控えてるみたいなとこあるんですよ。もう少し、そういうものがシャレとして見られるようになるまではやらない方がいいと。

―――ライヴをやる時の心構えってありますか?

神山 いや、僕らのサウンドをライヴによっていろんな人が聴いてくれて、いいと思ってくれればいいから。とにかくそんな、もう力まかせにねじ伏せるってバンドじゃないでしょ(笑)。ねじ伏せたら僕らの音楽ってダメになっちゃうから。もっとサラッと、カッコ良く、ね(笑)。

―――楽しみにしてます。ありがとうございました。

(Photos by E.Kikuchi)


「キーボードマガジン」1985年6月号掲載