各メンバーがそれぞれ強烈な個性を持つ異能集団PINKが、サード・アルバム『PSYCHO-DELICIOUS』を完成。10月にはロンドンに乗り込んでBUSBY’Sでギグを行い、英語版のシングル「SOUL FLIGHT」をリリース、彼の地のプレス筋にも好評を得て帰国した。2月後半からの全国ツアー、3月にはスティーヴ・ナイのリミックスによる12インチ・シングル「TRAVELER」のリリースと、今、ノリにノった活動を再開したPINKのキーボーディスト、ホッピー神山にニュー・アルバムのレコーディングにまつわる話をいろいろ聞いてみた。

―――今回のアルバム制作にあたって、特別な方針みたいなものはあったのですか?

ホッピー神山(以下ホッピー) 特になかったですよ。PINKの場合は、いつもやってる気持ちは一緒ですからね。誰かの思わくでやってるわけじゃないですから。何かを頭ん中で用意してやっているんじゃなくて、出揃ったところでこんな感じかなっていうので作っていったわけです。

―――曲は何曲くらい用意してあったのですか?

ホッピー 12~13曲録って、LPには9曲入れて、3月に出る12インチ用の1曲はLPに入れないでとっておいて、3曲くらいは没になったという・・・。

―――12インチの曲はどんなものですか?

ホッピー イギリスでスティーヴ・ナイにリミックスを頼むための曲なんで、派手なものではなくてね、イギリスでヒットするようなロック・ポップス・タイプの曲です。B面はLPに入ってる「SHADOW PARADISE」っていう曲の民族楽器大フィーチャリング大会みたいなの。スティーヴ・ナイがいいよっていったのは僕なんですけど、彼は元々フリートウッド・マックでオルガンとか弾いてた人なんですが、時流にはノラない人で、他がみんな派手にいっててもほんとの芯のある音楽作りたいっていうのがありますね。生楽器をうまく使う人で、シンセなんかでも生楽器っぽいニュアンスを出すのがうまいんです。僕らの12インチも、時流じゃないんだけど、5年とか10年たっても聴ける音になってると思いますよ。

―――A⑤の「SCANNER」で、昔なつかしいようなシンセの音を使ってますね。

ホッピー そうそう。僕はパーラメントのバーニー・ウォーレルって人がすごく好きなんですけど。何ていうかな、あのひと音色は全部一緒なんだけど、フレーズなんかはすごく楽しいのね。最近のシンセの音って、デジタルのすごいヌケのいい音ばっかりなんだけど、そういう音が音楽的かどうかっていうのはね疑問があるよね。ああいうチープなシンセの音でも、使い方によってはインパクトがあると思う。そのバーニー・ウォーレルにしても、デビューした当時のヒューマン・リーグとかOMDとかも、ああいう安いシンセでやってる音っていうのは、すごくカワイクて存在感があるんだけどね。デジタル・シンセの音は確かにヌケてはくるんだけど、存在感があるかっていうとねェ。匂いがないでしょう?サンプリング・キーボードにしても、ビット数が上がっていくと特性上はいい音になっていくんだけれども、どんどん音楽的じゃなくなっていくんだよね。

―――今回のレコーディングでサンプリングは?

ホッピー サンプリングはチョコチョコ使ってますけどね。僕のサンプリングは、普通の人と違うのを新しく作るっていうのがね、ありますね。前のレコードでもやったみたいな、南インドの民族音楽のレコードから一部分を録っておもしろい効果音にして使ったりとか。そういうことでもしないとおもしろくないですよね。僕はイミューⅡ使ってるんですけど、サンプリング・キーボードもシンセのつもりで音を作ってくっていう使い方をしてますよ。

―――特に凝った音を作った曲なんてありますか? たとえば「BODY SNATCHER」のガムラン・ゴングみたいな音は?

ホッピー あれはDXなんですけど、まともには使いたくないんで変な音にしてね。ディレイとギター用のハーモナイザーもちょびっと使ってて、上の方でチリチリいってるから変な感じなんです。あの曲はだいだい僕が元メロを作っててね、自分のだもんでけっこう気合い入れたんですよ。シンセのサビのところなんかも、ちょっと聴くと2~3本しか入ってないみたいなんだけど、実際は耳に聴こえないような高い音から重低音までいっぱい入っててね。相当おっきなボリュームで出すとわかるかもしれないですね。そこはプロフィット5を使ってます。僕はだいたいプロフィット5を中心に使ってるんですけど、今回は夏前に買ったプロフィットVSも使ってます。あれはわりと好きなんですよ。プリセットで入ってる音もストリングスとかブラスとかのまともな音があんまりなくて、変な音ばっかりでうれしいですね。

―――最初のアルバムなんかに比べて、レコーディングの作業工程で変わった部分とかってありますか?

ホッピー PINKの場合は、変わんないですね。PINKはPINKとしてみんなでやってて、それぞれが自分でやってる時とは違いますからね。バンドの音が少しでもカッコよくなるようにってことでずっとやってますよ。

―――ギターとのからみなんかに関しては?

ホッピー ギターに関してはゲスト・プレイヤーなんかも入ってたんで、キーボードの方が先に入ってたんですよ。今回僕は、ドラム&ベースを録ってる時に一緒にパパパパッと入れてしまったから。ヒドイ曲、なんつっちゃなんだけど、になるとねェ、「SHADOW PARADISE」とか「SCANNER」なんていう曲は、ベーシックのドラムとベースを録るためにガイドで入れたキーボードそのままっていうのがねあるんですよね。場所によって違う楽器がポンポン入ってて。

―――その方がおもしろかった?

ホッピー そうそう。あとから練るよりもね、そういう方がおもしろいことがあるんですよ。全然慣れてない曲をその場の雰囲気でやった方がね。僕なんかだいだい最初がいいんですよ。

―――いつも早いんですか?

ホッピー もう、早いですよ! 最初のがよければそれでOKにしてもらうんですよね。ただ、凝る時には凝りますけどね。アイディアがいっぱいある時には凝りまくりますけど、やっぱりバンドの場合はね。勢いでやった方がいいみたいですね。

―――「BODY SNATCHER」なんかは、その凝った方なんですか?

ホッピー あれは、あとからちゃんと全部入れ直しましたからねェ。

―――レコーディングで使った機材は?

ホッピー いつもライブで使ってるのと同じです。それプラス、生ピアノとメロトロンですかね。リズム録りの時には、ライブの時と同じように並べてあって、それをシャンシャンと弾いて・・・・・。

―――で、なんならそのまんま使ってもいいようなものを・・・・・。

ホッピー そうそう。なるべく楽したいし(笑)。リズム録る時にも一発入魂で弾いて。あとでリバーブとかで広げたいってエンジニアの方から注文がくると、それじゃ弾き直ししようかな、みたいなね。まあでも、リハーサルっていうのはレコーディングの前にやってるから、ある程度やることは決まってるし、あとは音色を凝るだけだと思うんですよね。

―――エフェクトは?

ホッピー 僕がいつも使ってるのはローランドのステレオ・フランジャーなんですけど、大きく広げる時にはAMSのハーモナイザーとかで広げてもらったりします。あと、ピアノだったら卓の方でニーブのコンプを思いっきりかけてもらったりとかね。ディレイも細かく左右に振る時には卓の方でやってもらって、それ以外の時は自分の方でやってます。

―――その場合は、ディレイをかけるところまで音作りの責任範囲だっていうことですか?

ホッピー そう、もうシンセとディレイとはね、切っても切れないですからね。ディレイをうまく使うとカッコよくなるしね。

ホッピーはギター的感覚を持ったキーボーディスト/岡野ハジメ&矢壁アツノブ

「ホッピーって、タイプとしては一発でワーッといく方でしょう。彼のすごいところは、いろいろ考えてどうこうするっていうよりも瞬間に反応してくい込むっていうか、バンドの現場で鍛えられたキーボードっていう感じですよね。そして、それでレコーディングなんかでもちゃんと通用する洗練されたテクニックと感覚を持ってるわけですよ。瞬間的っていうことでいえば、ギター的な感覚を持ったキーボーディストっていえるんじゃないですかね」―――岡野ハジメ(談)

「ホッピーには、いい意味でのラフさがあるっていうのかな、僕なんかすごくディテールにこだわる方なんだけど、ホッピーは俗にいわれているところの雰囲気とかノリとかを大切にする人ですよね。僕たちは、どんなソロが入ってきても浮かないようなバックを作ってるんだけど、ホッピーはそこに、普通じゃないオリジナリティのあるフレーズを入れてくるわけ」―――矢壁アツノブ(談)

撮影/菊池英二

「キーボードマガジン」1987年2月号掲載