扉を開けると、厚手のジャケットに身を包んで長髪にダーク・ブラウンの大きな帽子を乗せたホッピー神山が座っていた。ちょっと青い顔をしてる。「肺炎で1週間ばかり寝ててね。ずっとネコと遊んでたんだ」とシブイ表情で話し始めた。

「今回のアルバム『CYBER』では、今までの3枚のLPで出来上がったものを壊していくって作業をやりたかったのね。特に前作の『PSYCHO-DELICIOUS』は、良くできてるけどソツがなくて美しくて、でも何なの?みたいなものになって僕はやだったんだよ。決してあのLPが悪いってことじゃないんだけど。でもあれが僕らの総てだと思われたり、メンバー全員が一致して満足してると思われるのはいやだしね。いろいろな思惑が入ってるんですよ。今度のLPは」

『CYBER』は15曲入りで1.5枚のLPだ。全員が作曲し、歌っている。ポップにまとまった前作より1stの頃の”1つの箱におさまらないアナーキーな得体の知れないパワー”を感じる。

「今までエンちゃん(Vo)が自分以外のメンバーの曲に門戸を開かないとこがあってね。前作なんかは2曲だけ僕との共作があったけど、あとは全部彼の曲だったでしょ。1つの素材しかないから、いろんなことを実験するんじゃなくスキなくキレイに仕上げることしかやることがなかったんだ。それではやっぱりバンドっぽくないから、公平にやりましょうってね。他のメンバーが強引にある程度皆の曲をいれる形をつくってしまったというか。もともと僕らはセッションして曲を作ってきたから、音楽性もバラバラの方がPINKらしいしね。だから今度のLPは元に戻ったような雰囲気があるのかもしれない。でも『PSYCHO-DELICIOUS』のおかげで一般の人たちも僕らを差別しないで聴いてくれるようになったんだ。僕はあのLPは好きじゃないけど、『CYBER』を作るには必要なものだったと思うよ。

ホッピーは氷を浮かべた緑茶をゴクリと飲んで、わかるかい?というようにこちらを見た。

「『CYBER』っていうのは人口頭脳って意味なんだ。テクノロジーを絶賛してるんでも否定してるんでもないんだ。例えば音楽でいうとテクノのようなコンピュータを使ったものを完全に否定してするんじゃなくて、新しく僕らの肉体っていうのを一緒に入れて作りあげるってことなんだ。テーマは自分たちが今住んでるTOKYOで、「TOKYO JOY」「Climb,Baby Climb」「FIRE」なんかに僕らのメッセージがいっぱいつまってるよ。TOKYOに居ると、自分の捜してるものってサッパリわかんないんだよね。いろんな物がありすぎて。逃れられない時間が早ウイサイクルで流れていく状況ってあるじゃない?それをストリート・ロッカーみたいに「こんなコンクリート・ジャングル真っ平だぜ」て言うんじゃなくて、僕らの未来のためにTOKYOっていう混沌とした街を見つめ直そうっていうことなんだ。例えば僕の「FIRE」て曲では「今すごい暗闇の中にいてあまり良くない状態だけど、虹のむこうに行くと世界が開けてくるよ。自分で暗闇をぬけだす道を作っていかなきゃいけないよ」といってるんだけどね、それはTOKYO=俗世間を見つめたときに出てくるメッセージでもあり、PINKでやってる自分自身の気持ちでもある」

最後の一言でPINKはカオスに包まれてキケンな状態なのかも・・・と心配になった。どのメンバーもその気になれば全く違うタイプのソロ・アルバムを作れるんだから。「なぜバンドやってるんですか」と思わず聞いていた。

「一人でやろうと思えばできるんだけど、自分の気持ちだけでやっちゃうとツマんないんだよね。僕らは仲は悪いよ(笑)。陽気な仲間たちってニュアンスでやってるわけじゃないから。ただPINKで音楽やるときにこのメンバーが絶対必要だっていうのは皆わかってるし。音楽に対する姿勢はバラバラなんだけど、何か新しくてオモシロいのをやりたいっていうのだけは一致してるね。音楽の形式やスタイルってとこでは絶対ひとつになれない。でも誰か1人の意見でパッと形にならないのがPINKのおもしろさだし、そういう面ではリーダー不在ってかんじだな。でも、人間的にはイヤがってるけどね。お互いに(笑)」

安心して悪口言えるほど理解しあってるってことかと思う。ホッピーは一寸、言葉を捜すように考えこんで、また堰を切ったように話し続けた。

「PINKはロック・バンドだと僕は思ってる。それは近ごろ歌謡曲なんかが取り入れているロックっぽさとは違うんだ。あれは上辺のビートとかでしょ。僕が言うのはもっと精神的なもんでね。ロックン・ロールの精神を基本にしていれば何をしてもいいと思う。音楽のスタイルや詞は新しい物を生み出さなきゃいけない。別に昔のロックン・ロールをそのままやらなくていいから、スピリットだけは心の奥にしまっておけばね。考え方がジジィにならなきゃいいんだよ(笑)。ある程度メッセージは必要だよね。理屈っぽいものじゃなくて、何かしら自分の言いたいことが入ってないと弱いでしょ。難しいことを鼻高く歌ってもダメだよ。少年少女・・・特に10代の人にわかりやすい単語で歌わなくちゃ。理解されなかったら、どんないいことを言ってても意味ないよ。だから今回のLPの詞は少年少女にも理解できるものになってると思う。今の時代って穏便で平和で、否定するものってあまり見えない。だからこそコンセプチュアルなテーマを見つけなきゃいけないのね、自分で。大切なのは混沌とした世の中に飲みこまれず、知性を持ちながら子供でいるってこと。ジジィにはなるな。打倒、ジジィ!ってとこかな(笑)」

1分に1度はハラハラするほど歯に衣きせないホッピー。媚びない。妥協しない。正直な愛すべき我儘者の集団-PINK。『CYBER』から発信される彼らの声は僕らを目覚めさせる。

 

「キーボードランド」1987年12月号掲載

※サイト「TECHNOLOGYPOPS π3.14」様より、貴重な記事データをご提供いただきました。