最近聴いた日本のロックのレコードでいちばん気に入っているのが、この元ビブラトーンズの福岡ユタカ率いる6人組、ピンクのデビュー・アルバムだ。
もっともピンクはこれまでに2枚のシングルを発表しているので、まったくの新人バンドではない。すでにかなり名の知られた存在である。けれどもこのアルバムを聴いていると、”さすがは新人バンド、イキがいいなあ”というセリフを思わず口に出したくなる。それくらい彼らの意気込みがビンビン伝わってくるアルバムだ。

サウンドはいたってオーソドックス。今ハヤリの華麗なヒップ・ホップ・サウンドを展開しているわけでもないし、とりたてて斬新なアレンジが聴かれるわけでもない。むしろ意識的に流行から一歩身を引いたような、手堅い音作りだ。目新しさだけを求めて流行と追いかけっこをしているミュージシャンが多い日本のロック・シーンの中では、とりわけ新鮮に映る。

だがサウンド・プロダクションはなかなか緻密で、ロック、ファンク、レゲエ、エスノなどのエッセンスが随所に散りばめられている。いい意味での音の情報量が豊富なレコードだ。だからアルバム全体からは、決して単調という印象は受けない。ちょっとホメ過ぎになるけど、ロキシー・ミュージックの『アヴァロン』のような奥行きの深さを感じさせるアルバムだ。

A面は小気味良いアップ・テンポの曲で構成されている。どの曲もリズムがタイトだから、心地良い。とりわけ”グラム・ファンク・ロック”とでも形容したくなるA③(Young Genius)は、大きなウネリでもってグイグイ引っ張っていく。曲と曲のつながりもスムーズで、オープニングからエンディングまで、一気に聴かせる。”HOT SIDE”とでも言えようか。

一方、B面は比較的地味な曲が多い。でもより深い味わいを感じさせるといった点では、こちらの方が上。特にB④(人体星月夜Ⅱ)は、このアルバムの中では最も穏やかなナンバーだが、その分”情感”という言葉がくっきりと刻み込まれているように思う。またキーボードやパーカッションの音色がエスニック的センスを感じさせるB①(Secret Life)も、僕を惹きつける。こちらは当然”COOL SIDE”だ。

もちろん、福岡ユタカのノドが魅力的であることは言うまでもない。ちょっと金属的だが、決して耳障りではないヴォーカルが、ピンクの最大の個性だ。
これであと一つ決定的にキャッチ―な曲があればなあ、という感じはするが、それはゼイタクっていうものかもネ。
そうそう、久々に”ロック”を感じさせてくれたアルバムでした。

(渡辺 亨/MUSIC MAGAZINE 1985年6月号)