福岡ユタカと岡野ハジメ(PINK)

先月号の国内ニューズ欄で触れられていたように、PINKがムーン・レコードに移籍、5月25日にアルバム『PINK』を発表する。数年前から、「ピンク兄弟」「おピンク兄弟」の名前で”ニッポニーズ・ファンク”などと呼ばれながら活動を続けてきた彼らだが、一昨年6月の新宿ツバキ・ハウス出演を機に「PINK」というパーマネントなバンドに発展。ライヴ・ハウスでは絶大な人気を誇り、レコードもカセット・テープのCFソング「砂の雫」と映画『チ・ン・ピ・ラ』のテーマ・ソング「PRIVATE STORY」の2枚のシングルを発表している。しかし、アルバムとなると、今回が初めてである。

福岡ユタカ(ヴォーカル)、岡野ハジメ(ベース)、矢壁アツノブ(ドラム)、ホッピー神山(キーボード)、渋谷ヒデヒロ(ギター)、スティーヴ衛藤(パーカッション)の6人は、それぞれビブラトーンズ、サロン・ミュージック、東京ブラボー、ショコラータ、ミュート・ビート、爆風銃、大沢誉志幸などと活動してきた歴戦の強者たち。テレビ神奈川の”SONY MUSIC TV”のテーマ曲の他、テレビCFやスタジオでのセッションなどにも、ひっぱりだこの連中である。

---始めた頃は、まだひとりひとり色々なバンドでやってましたよね。

福岡 要するに、ピテカン(原宿ピテカントロプス)とインクスティック(六本木)のバンドですよね。あの頃、ピテカン辺りって結構面白かったんだよね。

岡野 どこへ観に行っても必ず誰かがいるっていう。雑多だったよね、あの頃の東京のシーンって。

福岡 活性化してたね。何か出てくるかと思ったんだけど、結局ダメだった。

---前のレコード会社から、アルバムを出すという話にはならなかったんですか。

福岡 出せなかったんです。折り合いがつかなくてね。チャンスがなかったと、そういうことです。

---音はそんなに変わってないと思うんですけど。アルバムも昔からのレパートリーが入ってますし。

福岡 シルバー・サイド(A面)っていうのが、それですね。(先月号のニューズ欄を見ながら)トーマス・ドルビーに似てるって書いてあるけど、どの曲かな。

岡野 たぶんベース・ラインのこととか言ってると思うんだけど、その曲を作ったのは2年位前だから、そこを強調して欲しいですね。

---でも聴いてる分にはそんな時間の隔たりを感じませんね。

福岡 今まで色々とやってきて、仕事では、いわゆるハヤリの音はやってきたんだけど、PINKでやる時は、そういうのなしにして、骨太のものを作りたかったんだよね。

---古い新しいは関係ないと。

福岡 一回聴いて使い捨てるようなレコードもいいと思うんだけどね。そういうのはそういうので、発表できる場があるわけだし。やっぱりLPって今までの歴史があるわけだから、重いし。オーソドックスナものでやりたいという。そういう意味じゃ、今度リミックス盤も出すと思うんだけどね。

---曲はメロディーから先につくるんですか?

岡野 ギターのリフから出来るとか、そういうの少ないですね。

福岡 やっぱり曲がきちっとできていないと嫌だというのがあるね。

---聴いてそれは感じますね。

福岡 アレンジの目新しさと思ったら、メロディーとリズムがカッコ良くないとダメですよ、絶対に。このメロディーにこのアレンジは、っていうと、歌謡曲っぽくなっちゃうでしょ。とって付けたような演奏になったりとか。メロディーが醸すリズムがあって、リズムが醸すメロディーっていうのもあるわけで、両方ともね、有機的にからまっていけば、骨太なものができると思うんだよね。

---音一つ一つに気を配っているという気がしますが。

福岡 それはまた、音色の話になるけど、ミキサーも自分らに合った人を選んだんですよ。

岡野 まあ、それに関しては、二言も三言もあるような人達が集まっているからね。

福岡 ミキシングでも、彼(岡野)なんか全部卓いじるしね。ディレイ・タイムとか全部設定しちゃうし。だから、普通のミキサーにお任せっていう部分は本当に少ないね。

岡野 人に任せて気に入ったためしっていうのがないんですよね(笑)。

福岡 やっぱり自分達の音を作って出すまでっていうのは、出来るだけ自分で管理したいっていうのがあるから。こんなにうるさいバンドって珍しいんじゃないかな。

---プロデューサーも最近はエンジニア上がりの人が多いですからね。プレス・キットには、ボブ・クリアマウンテンが好きだとありますが。

福岡 うん。そんなに思い入れがあるわけじゃないけど。あとZTTやってるトレヴァー・ホーンとかもあれだけどね。音色ものっていうのはやっぱり流行だから。ファッションと同じで、流行のものをすぐ着るっていうの、下品だと思うんですよ。それに、バンドっぽくないでしょ。

岡野 今、それをやってもねェ。

---それは、ライヴで演ることを、当然意識して、というわけですか。

福岡 いや、それは全然ない。レコード作る時は、レコード作品として作るから。ライヴに関しても、ローリー・アンダーソンが来てから、あんな風にパフォーマンス・ブームになってるけどね。僕も、課外活動ではそういうグループに参加してやることもあるんですけど、そういうの、すぐ自分のバンドに導入するっていうまで、必然性を感じてないし。

---話は変わりますけど、今の状況を見てて、やり易くなってきていると思います?

福岡 日本にロックの状況があるのかってこともわかんないし、かといって外国にも行ったことないし。わかんないね。

---じゃあ、他のバンドでスタンスが近いな、と思う人達はいます?

岡野 ないね。

福岡 逆に、あると思います?

---同じようにスタジオでも活躍中で、同じ頃にメジャーからアルバム・デビューすることになったShi-Shonenとかどうですか?

岡野 常に何らかの帯の中にくくられるのが、多いわけじゃない?

---あ、そうか。PINKはYMOやライダース一派と、直接的には切れてますね。

福岡 嫌ってるわけじゃないです。

岡野 凄い近い所にはいるよね。

福岡 一人友達を経れば、けっこうあれなんだけどね。YMOの作ってる音って、何だかんだいっても面白いもん。日本で気になる数少ない人達でしょ。

---ところで、資料には、作詞家の宇辺セージ氏との出会いは運命的なものすら感じるとありますが。彼の詞は全然趣きが違いますね。

福岡 綺麗でしょ。異邦人的なものがあるんですよ。ほんとコスモポリタンなんだなって感じがするの。その辺がね、面白い。

---聴き取り易いですし。

福岡 とりあえず、アバンギャルドな方向はもうやりたくない。ポップでやりたいっていうのあるしね。というか、コンセプチュアルなものでも、アバンギャルドなものでも、そういうものがある程度ないと、最近はつまんないと思ってる。

岡野 実験というのは、誰でもできるような時代になっちゃってるからね。みんな、やってるし。

---なるほどね。

福岡 PINKは、始まったばかりだしね。とりあえず今やれること、やりたいことをやろうと。

---こうして会うまで、PINKってマイナーから叩き上げてきたような印象があったんですけど・・・・・。

福岡 そういう意味じゃ、苦労とか全然してないけどね。自分でやりたいことをやってたらね、障害多かったっていうだけでしょ(笑)。

---これからは、スタジオのアルバイトはしないんですか。

岡野 仕事が来た時にまた考えるよ。

福岡 はっきりいって、思ってる程うちのバンド、器用じゃないですよ。うちが行くと壊れてしまうっていうのは多いよ。だから、呼んでまずかったなっていうの、あるんじゃない?(笑)

(4月24日 赤坂のムーン・レコードで)
清宮基邦

「MUSIC MAGAZINE」1985年6月号掲載