ROCKIN’ON JAPAN 1987年3月号

Text▲増井修/Photographs▲村越元

[INTERVIEW]
福岡ユタカ
岡野ハジメ
ホッピー神山

DISCUSSION

日本には解散しそうなバンドがない。しかしピンクは違う。ピンクはいつ空中分解してもおかしくない。---ただし、バンド内に危機的な険悪ムードが漂っているという意味ではない。メンバー各々の主張は衝突し合って当たり前というドライな関係論がそんなことをふと想起させるのだ。言うまでもなく、それはピンクというバンドのアイデンティティーである。

ホッピー神山 「日本のバンドってのはみんな仲が良すぎるような気がする。といか、そこまでメンバーそれぞれの中に自分の主張というのがないからだと思うの。だれか一人強い人間がいればとりあえずそれについて行こう、みたいな感じでしょ。向こうのバンドってのはもっと自分をアピールするし、自分のサクセスってのを考えるしね。PINKって危ない部分はあるけど、やっぱりケンカしなきゃダメですよ、バンドってのは。殴り合って。たまにケンカしても内容が悪すぎるの、みんな女。取ったとかね(笑)」
「今回ももめました(笑)。曲順はいつももめるんですけど。今回は真二つに分かれたんですよ。ボクの方の意見とエンちゃん(福岡ユタカ)の意見とが完璧に対立してしまったんですね。エンちゃんはバラードを聴かせ所にもってきたかったんだけど、僕はバラードを一休みの所に入れて(笑)、はじめと終わりをPINKらしくやりたかったのね。まあ最終的には妥協案ですけど、ボクが最初に言った奴を佐々さん(ディレクター)が直してみんなに確認を取ったという感じになったような気がしたんですけどね。僕とかスティーヴとか岡野くんは派手好みでしょう。エンちゃんはどっちかというと渋目好みになってるから最近」

岡野ハジメ 「スンナリ行く時はスンナリ行って、ピースって事になるけど、ぶつかることもすごく多くて。その辺、個々人の好きなアプローチは、もうバラバラだから。結構大変なことになる時はありますよね(笑)あのね、レコーディングの時はね、ベースとドラムはね、すごく早く決まるの。だいだい3回やったら基本線はできるの。いや、できるっていうか、それが真実であるともう決めてしまうわけだ、私とカメ(矢壁アツノブ)は(笑)。これだよって。その時は上に何もかぶさってないわけだから最初に決めちゃった奴の勝ちでしょう(笑)。それで後で変えてくれとか言われても『嫌だ』。ひどいの最近。僕はそういうヤダネって事が好きなの(笑)」

 

PINK AND ME

キーボードのホッピー神山は大沢誉志幸、UP-BEATのプロデュース、小泉今日子のアレンジなどを担当。ベースの岡野ハジメはウィラードとちわきまゆみのプロデュースをやっている。それに対してPINK一本に専念する形の作曲者、ボーカリスト福岡は、フロントマンとしての責任もあって、その発言は自然と慎重になる。

ホッピー 「特別大きなこだわりというものはないです。でもプロジェクトじゃなくて、大きなバンドでラジカルで刺激があるっていうのは、今の所PINKしかないんですよね」

岡野 「PINKはPINKで僕の出すものがあるしって感じかなあ。PINK一本に絞りなさいと言われたら?あっそれは考えますね、ちょっと。だいだいベースでスタジオ・ミュージシャンやるの大嫌いなんですよ、アタシ」

福岡ユタカ 「PINKが俺のすべてじゃないと思ってるのは多いかもしれない。やっぱりその中で一番大きな比重になっているのは俺じゃないかな。自分の中の80%以上・・・・とかね。かなりの部分はPINKが占めてますね。例えば岡野君とかはウィラードとかちわきとかをやってるよね、彼の存在というのもそういうところでできているしね。だから、PINKというバンドを成功させたいっていう意識は強いから、特に僕に限っては。ただPINKで出せない僕の良さとかは別の形で出していきたいですよね。このバンド一本!って感じじゃないよねウチは。ただ、できるだけPINKの中で解放していきたい」

 

KEEP YOUR VIEW

マクセルCFソングに採用されたバラード調の佳曲”KEEP YOUR VIEW”。方向性をめぐる議論はいろいろあるかもしれないが、これはあれもこれもと欲張りなPINKが初めて、ある部分を”切り捨てた”曲ということができる。そういう意味では着実なワン・ステップといえるのではなかろうか。

福岡 「あれはもう3年くらい前に作ってあった曲で、今度コマーシャルが決まりそうだっていうんで、絵も見せられて、だったら昔書いたあの曲がいいんじゃないかって。だからアルバムのために作った何曲かピックアップして4曲くらいは候補があったわけですよ。当然キープという言葉は入れなきゃいけないから、詩は後から。でも、よく言われるんだよね、後から作った曲じゃないかって。PINKってそこまで器用じゃないです。そんな戦略的なものじゃないんだよ。やりたくない事までやってないしさ・・・・・もともと俺はメロディー・メーカーだからさあ、そういう自分の才能を信じていてね、俺がこんだけいい曲だと思うものをみんながいい曲だと思わないわけないじゃないか、みたいなそういう所はバカ正直に信じているんだよ、当然のごとく」

ホッピー 「これがバンド・イメージみたいに思われるのは、僕は嫌です。大っ嫌いですから。あれほどダルいものはないですから(笑)。あれだと人のバック・バンドやってる気分になってきますから(笑)。デビッド・ボウイが初期とか中期にバラードを歌ったのと意味が違って、全体のつながりにこういうのが出てくると、ロックン・ロール・スピリットからはずれるような気がしてね。安全地帯なんかがやってくれた方がメッセージとして強いと思うのね。それにエンちゃんの声は乾いててね、あまり聴き手に語りかけるような声質とムードを持ってないタイプでしょ。もっと空を見上げて風吹いてる中で歌ってるようなさ。でも日本の場合は吹き抜けてるのは売れない、バラードの場合は絶対。男のバラードには女が買い手になるわけだから、歌いかけるタイプになびいてくと思うんだ、やっぱり。

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