◆『PINK BOX』リリース時の記事(2013年5月発売)◆
80年代後半に活動していた近未来的ファンク~ニュー・ウェイブ・バンドのPINK。その全オリジナル・アルバムに未発表音源などを加えた、総括的7枚組ボックスがリリースされた。解散後も根強い人気を誇り、編集版が何度となく出されていたが、今回が決定版となりそうだ。特筆すべきは、すべてメンバー監修のリマスタリングが施されているところ。各楽器がくっきりと明瞭になり、ダイナミックな音圧や奥行きの広さなど、以前とは比較にならないほど音質が向上している。
PINKは、80年代前半に近田春夫&ビブラトーンズなどニュー・ウェイブ系バンドで活動していたメンバーが、自然発生的に集まって生まれたバンドだ。83年頃の結成当初のラインナップは福岡ユタカ、矢壁アツノブ、ホッピー神山、岡野ハジメ、渋谷ヒデヒロ、スティーヴ衛藤(現スティーヴ エトウ)の6人。そのニュー・ウェイブや東京クラブ・シーンを発展させていく形で、無国籍感覚や実験精神を携えたファンク・サウンドを洗練された都会的センスで表わし、そこにサイバー・パンクな近未来的世界観も加わって、PINKの音楽は形成された。それだけではなく、マニアックな方へ埋没しないポップ感覚をもち、常にメジャー・シーンで活動していたのも重要だ。すなわち、東京のニュー・ウェイブやクラブ・シーンから受け継いだ音楽性をメジャーへ押し上げ、90年代の渋谷系につながる役割も果たしたバンドといえるだろう。
ディスク1から追っていくと、まず85年のファースト『PINK』。端的にいえばPINKとはこれに尽きる。エスノやエキゾなどの無国籍的要素を含んだグラマラスなファンクや、夜の匂いが漂うAOR的バラードを、近未来的ポップとして提示するというスタイルが確立され、隙のない完成度に至った名盤だ。なんどいっても決定的代表曲③(Young Genius)。エスノ・ファンクとグラム・ロックが合体したような演奏が大蛇の如くエグくうねり、福岡の呪文っぽいヴォーカルとともにハイパーなイメージを醸し出すこの曲は、国内ニュー・ウェイブが残した最良の成果のひとつといえる。
続いて86年のセカンド『光の子』は、ガムランを取り入れた①(光の子)や、エスノ色が濃く呪術的な②(日蝕譚~Solar Eclipse)をはじめ、ワールド・ミュージック的要素が目立ち、彼らのアルバムでは鋭利な実験性が最も高い。次の87年サード『PSYCHO-DELICIOUS』も勢いにあふれていて、遊び心満載のヒップホップ的な⑤(Scanner)、高速ビートのアッパーな②(Naked Child)、メロディー・センス炸裂の③(Keep Your View)など、多様なアイデアが随所で冴えている。この3枚目まではメンバーの漲る才気がバンド・スタイルに昇華され、いずれも充実の傑作だ。
ターニング・ポイントとなったのが87年の『CYBER』。ギタリストが逆井オサムに替わり、ソングライティングをスティーヴ以外の5人が手がけるようになり、格段に幅広くなった。プログレ的実験性にロックっぽい痛快さが入り混じるホッピーの曲や、ミステリアスな低音ヴォイスの岡野の曲など新味が加わり、それぞれの個性がスパークしている様相。しかしこの試みが結果的に解散へとつながり、89年の5枚目『RED&BLUE』がラスト・アルバムとなる。9曲中8曲は作曲者のセルフ・プロデュースで制作され、実質的にソロ音源集。打ちこみ主体でバンド感は薄いものの、岡野が自ら歌うホーン入りのファンク④(August Moon)、福岡のケチャのサンプリングを使った⑤(水の絆)、ホッピーのプログレ・エレクトロ・ポップというべき③(小さな男の大きな夢)など、興味深い曲が多い。
残りの2枚は編集版。『FINAL MIX』(88年)は12インチ・シングル収録のリミックスなどを集めたもので、リミキサーはスティーヴ・ナイ、ティム・ハント、寺田康彦、藤原ヒロシ。リミックスではないが「YOUNG GENIUS」のチープな初期ヴァージョン①(Young Star)が白眉。もうひとつのディスク7はレア音源集。前半5曲はファースト・アルバム以前の84年にエピックから出していた音源をまとめた『DAYDREAM TRACKS』(87年)。初期の遊びながら作っている様子が垣間見られるような⑤(Hinemos)がおもしろい。後半の6曲はいずれも未発表のライヴ音源。シングル・ヴァージョン、リミックスなどが並ぶ。特に83年録音の未発表曲⑥(Reflections)は、アフロ・ファンク風ビートが延々と続く長尺インストで、クールなミニマル感覚が今聴いても断然かっこいい。バンドの原点を示す重要曲であり、本ボックスのクライマックスだ。
(文=小山 守)
「レコード・コレクターズ」2013年7月号掲載