PINKの持つ独特な”不思議さ”の秘密は、やっぱり歌詞にあるのではないかといつも思う。ワケの分からない単語が多く、スジの通らない、意味のない歌詞。でも、何故か一度聴くと耳にこびり付いて頭の中で何度もリフレインしてしまうのだ・・・・・。それは、英語のわからない私達が英語の曲を聴き、歌詞の内容がわからなくても、いい歌だと感動してしまうのと、何となく似ている気がする。
ヴォーカルの福岡ユタカの作る詞には決まったイメージがない。だから、聴く者がそれぞれに様々なイメージを膨らます事が出来る。「決まったイメージに沿って作られた音楽、言葉に追従する音楽は嫌いだから。」と彼は言う・・・・・。

好きなバンドとか、あんまり最近いないのね。それこそ”四人囃子”がよかったなぁとか”ティンパン・アレイ”の方が数段進んでたなとか。でも不思議な事に、あーいうのを継ぐアーティストがいないんだよね日本ってさ、どういう訳か・・・・・。テクノとかニューウェーヴがワーァ~って流行ったでしょ、で、終わった後でみんな何をやり出したかって言うと、何かアングラ演劇みたいな事やったりさ、お笑いの方とかさ、すごく二次的な要素の多い・・・・・、そういう方向へ行っちゃうの。お笑いは凄く好きだけどね。もう大好き。やっぱりビデオなんかでも一番見るのはお笑いのビデオだし・・・・・、うん、まぁそれだけじゃないけど(笑)。

でも何ししても、みんなに染み通るって事はすごいよね。安全地帯なんかにしても、あれだけ普及力のある歌ってのはすごいと思う。小林旭さんの「北国のぉ~」とか、モロ日本語の響きだよね。ああいう平坦なメロディだから日本語が染み通って来るんだよね。うん、で、そういう美しさを認めながらも、何とかね、今あるものを内側から変えていきたいって言うのはあるよね。やっぱり価値観を変えていくっていうの?何かさ、あるじゃない?何故かお囃子を聞くと笑っちゃうとか、西洋的なアンニュイな美は絶対に日本の音からは感じられないとか。それは何でかっていうと、向こうのが「カッコイイ」って最初に感じちゃったからだと思うんだよね。だから今までになかった「カッコよさ」「美しさ」みたいなのを作っていかないと永遠に変わっていかないんだよ。だから音楽も「この曲いいな」なんてのを、どういう所で判断してるかって言うと、結構そういう所であったりするんだよね。今までの価値観の集積で人間の価値観て出来てる訳だからさ。だから、変えるって言うよりかは、新しいものを作っていくって事になるのかな。

僕等の音楽ってのは ”テクノ以降のビートの肉体化” みたいなのがあるんだ。で、今までにない様なものを作ろうとしてるから、僕等の音楽の背景とか色とかって、ある種、抽象的な所へ行っちゃってるんですよ。だから例えば、ロックン・ロールだったら、その音楽が流れただけでストリートのイメージとかが浮かぶでしょ?あるいはパンク聴くと、あーいうファッションとか浮かんでくるし・・・・・。でも、僕等の歌ってのは、もっと抽象的なものだと思うのね。だから言葉も、背景とか景色とか見えない様な抽象的なものになってくるし・・・・・。僕はそういう音楽が好きだからね。だから僕が民族音楽が好きって言うのもそういう感覚で・・・・・。アメリカやヨーロッパは情報も沢山あるけど、民族音楽って少ないでしょ。すごく抽象的なイメージが大きいよね。中心か周辺かって言ったら周辺の、光と闇だったら闇の部分・・・・・。そいういう所に魅かれるね。肉体的音楽の集積みたいな感じがあるからね、民族音楽ってのは・・・・・。

僕が育った所は島根県で漁業の町。だから、たとえばそこでロックとかレコード買って聴くじゃない、そうすると自分の頭の中で想像するしかないのね、その歌の持つイメージをさ。雑誌とかはあるけど、今みたいにMTVもビデオもないし。だから、あの頃は結構、夢見心地で聴いてたってのもあるよね。
その頃は自分でレコード出して音楽やろうとか、それこそ全然なかった。バンドはやってたけど、やっぱり余りにもかけ離れてたから。まぁ、その頃から曲は作ってたけど・・・・・。で、一番最初に作ったのが、いきなり12分の曲でさ(笑)。なんかコンテストがあるっていうんで、じゃあ曲書こうかって事になって、作れるかなぁっていう感じだったんだけど、コンテストが15分以内とかで、そんな長い曲やんなきゃいけないのって(笑)。何の疑いもなく12分の曲作ったんだよ(笑)。結果はダメだったけど。なんか審査員が京都から来たかなんかで「ブルースやんないと音楽やおまへん。」みたいなさ(笑)。それは高校の時だったな。でも、今聴き直しても結構いいんだよね。今でもその頃作ったのと似た曲ってあるよ。あんまり変わってないみたい。やっぱり10代の頃に付いたメロディー感ってのはなかなかね・・・・・。バイオリンとかやってて、あれはメロディ楽器だから、その頃から自分のメロディー感みたいなのは出来てたのかもしれないな。

自分で作った曲からイメージを生んで詞をつけるのが多いね。例えばさ、もうちょっと後の世代が僕らの作った様な音楽をすごく聴いて影響受けて、その音楽と雰囲気とこの詞とがピターッて合うなぁ~って思うとするじゃない?そうすると、そういう詞が並んでると、それに合ったイメージが作れるっていうのはあるかもしれないけど、僕等の前にそういう事やった人いないから。言葉が先にあってだと、結局今までにあった音楽しか出来ないからね、ある程度意識的に作業しないと。僕は分裂症だからさ、例えば首尾一貫したテーマみたいな歌をやろうとしても、直ぐにイヤになっちゃうんだよね(笑)。言葉に合わせてメロディが決まっていくっていう様なさ、言葉に追従する音楽ってのは僕はイヤだな。言葉は楽器の一つだと思ってるから、だから、おたけびとかハナモゲラとか、意味の無いのがいいよね。何か意味に拘ってるとつまんなくなっちゃう・・・・・。

とにかく規制が嫌いなの。ロックっぽいロックとか、何々っぽいとか、なんか伝統芸能みたいじゃない?ロックってそもそもそんな窮屈なもんじゃないでしょ。例えばカリスマ性とかあるけど、そんなのクソ食らえだよ。なんか、そういうのって全部とっ払っちゃいたいよね。でも、とっ払っちゃえ~ってさ、言うんじゃなくて、実際に、とっ払っちゃった姿を見せたいよね。だから今までになかったものをやりたいんだよ。

写真/高野小百合 文/深堀美帆

Personal Interview② 岡野ハジメ>>

 

「SOUND NEWS」掲載(1986年9月発行)