前作『サイコ・デリシャス』で一つの完成形を提示してみせたPINKが、8カ月のインターバルをおいて4枚目の作品『CYBER』をリリースする。CDを意識した作品で、全14曲、LPはA~C面収録の2枚組という意欲作だ。6月からスタジオ”A”で約3カ月を費やして制作されたこのアルバムは、デビュー時の溌溂とした力強さを感じさせる力作に仕上がっている。『サイコ・デリシャス』での成果を壊すという発想は、何とも頼もしいではないか。このあたりの考え方を中心に、今回はキーボードのホッピー神山とプロデューサーの佐々馨氏に『CYBER』の制作について語っていただいた。

―――前作の『サイコ・デリシャス』から意外と短いインターバルでしたね。

ホッピー でも、前のLPは去年の夏に録音したんですよ。リリースしたのは今年に入ってからですけど。だから、そういう意味ではそんなに短いってわけじゃない。

佐々 来年はスタジオ盤は休むつもりなの。で、ライヴを出してないから、来年はライヴ盤を出して、さ来年に5枚目のスタジオ盤を回そうかなって思ってる。そういうインターバルです。あと、できたら個人個人のをソロを来年、少しやってみたい。

―――ギターの逆井オサム氏が正式メンバーになりましたが、何か変化がありました?

ホッピー ロックの味方がひとりふえましたね。バンドをやっていくうえで、とてもやりやすくなりました。彼はロックひと筋ですから、やっぱり一番ロックくさい部分でギターでしょ。そういう人間が清くロックのにおいを出してると、あとの楽器は安心できる。

―――やっぱりロックへのこだわりってあります?

ホッピー ロック・バンドですからね。ただ8ビートでガンガンやってればロックっていうのが日本のロックでしょ。歌謡ロックにしてもね。そうじゃなくて、本来のロックに対してメンバーはみんなこだわりがあると思う。

―――ホッピーさんの場合、どんなこだわり方?

ホッピー 今まで本当のロックだと思ったのは、例えばドアーズにしても、爆発するようなムードを持ってたよね。ま、あの頃は反体制なんだけど、今は反体制なんて必要ないにしても、何かに対する反撥みたいなものをね、常にパワーとして貯えてなきゃいけないと思う。ロックっていうのは新しいものを生み出さなきゃいけない音楽だし。

―――『サイコ・デリシャス』で音楽的にもセールス的にもある地点まで到達したと思うんですが、その後を受けた今回のアルバムでは、どんな発想からコンセプトを立てていったんですか?

佐々 基本的には『サイコ・デリシャス』でひとつ極めたと思うんです。完成度っていうかな?メロディ重視した、ゴージャスなサウンド・プロダクションという点でね。だから今回はそれを壊してみたかった。今までは福岡(ユタカ)を中心に作ってきたんですが、とはいってもホッピーもいるし岡野(ハジメ)もいる。もちろん、彼らの要素も今まで十分出て来たとは思うんだけど、よりヴォーカルをとったり、詞や曲を担当することによって、もうちょっと多面的にできるはずなんですよ。元々スケールの大きいバンドで、アルバム1枚、10曲、40分という単位ではPINKの全体像を見せられないってのはあったと思う。

―――それで今回、CDにマッチするサイズにしたわけ?

佐々 そうですね。CD対応にしたのは音楽的な理由じゃなくて、イージー・オペレーションと1枚の中に入る量が多いというメリットがあるから。CDの70分というキャパシティをひとつのユニットとすれば、時間がふえる分、バラエティを出さなきゃいけないから、メンバー個々のパーソナリティをより出す必然性もふえるだろうし、そういう発想かな?

―――そこらへんは誰の発想?

佐々 そういう声はボチボチあったんだけど、最終的には僕がプリゼンテーションして、じゃあ、やってみようと。コンセプチュアルに穿って言うならば「サイバー」という言葉をキー・ワードにしたかったわけ。その言葉を説明するとゴチャゴチャするんだけど・・・・・この世界にも二律背反があるわけでしょ。ロックかポップか、アコースティックかエレクトリックか、テクノ・ビートでいくかフィジカル・ビートでいくか、とか。で、そういう選択はもういいんじゃないかと。基本的にはロックがすごく流行してて、ロックの水道をひねれば、ざっと歌謡曲のロック割りが作れて、大流行ってことでね。
PINKって色んなことやってるけど、PINKになってるっていうのは、キャラクターっていうか、オリジナリティがあると思うのね。それはたぶん強いビート意識だと思う。どんな要素もPINKなりのビートに還元できるっていう。そういう意味では、もう何でもいいんじゃないかと。PINKはハイブリッドであるという意味で、サイバーっていう言葉を使ってみたかったわけ。ま、サイバー・パンクっていうSFの流れがあって、そこから基本的にはアイディアを得てるんですけどね。デジタル・ビート以降のロックって、それまでのフィジカル・ビートのロックとはまたちょっと違ってくると思うの。で、そういったニュアンスを一番うまく体現しているバンドがPINKじゃないかと思うわけ。そういった、本音とシャレを含めたネーミングのもとで作ってみたかった。
あともうひとつ、テーマの設定を東京にしようというのもあった。PINKにとって何がリアリティかって言うと、やっぱり東京で暮らしてるってのが唯一のリアリティだと思うわけ。最初に無国籍だとか中近東エスニック・フレイバーがあるとか、ブリティッシュの香りがあるとか言われたい、言ってたりしたんだけれども、それは実は東京で見てるエスニックの夢だったりするわけでしょ。だから足元ってとこかな?

―――ホッピーさんはこういうテーマに関してはどう考えてます?

ホッピー 僕はいいと思う。音楽やってる人間が忘れてることとか、僕らでしかできないことを強く出した方がいいと思うから、こういったテーマには賛成ですね。音楽的にもね、テクノ時代にいい音楽を作った人たちは今でもやってるけど、面白いものがひとつもない。僕らはそういうとこから出発してないし、次の、ネクスト・エイジの音として完成させたい。そのためにもサイバー、東京っていうテーマはすごくいいと思う。僕らは世界にも出たいけど、やっぱり東京にいる人間だからね。

―――さきほどメロディー重視でゴージャスなサウンドってのを壊すというのがあったけれども、確かに今回、頭の数曲なんかでその意図がすごく感じられましたね。『サイコ・デリシャス』では、いい意味でも悪い意味でもまとまってきちゃった部分があるような気がするんですよ。

ホッピー PINKのお決まりのパターンがね。

―――そう。それが今回はもっと荒削りなイメージと言うか、別の表現をすればファースト・アルバムを彷彿させる仕上がりになっているような気がした。

佐々 『サイコ・デリシャス』は美しさをメインとした激しさのギリギリのところだと思うの。あの延長でいくともっと美しくなって、ちょっとロック的には希薄なものになってしまうってことがあったね。

ホッピー そっちの方面では極めている人が日本にいますから。僕らはそういうところで極めたくない。

―――最初に聴いた時、変な言い方だけど、ちょっとホッとしたのね、ある意味で。ファースト好きだったし。

佐々 多いんだよね、ファースト好きですって言ってくれる人。

ホッピー やっぱり破壊することとか、混乱してることとかを含んでいるのがすごく純粋なロックにつながると思う。そのために僕らはこうしなくちゃいけなかったの、4枚目は。

佐々 一番流通した曲って「Keep Your View」でしょ。CMになってるやつ。やっぱりあのイメージを払拭したいよね。

―――それはあるね。こんなこと勝手に言っちゃいけないかな?

ホッピー それは書いて下さい。私の意見として。イコールにされては困りますから。

―――今回から佐々さんが正式なプロデューサーとしてクレジットされてますね。

佐々 お金のこととか、時間の段取りとか、イメージ展開とか、基本的なことはずっとやってきたんだけど、サウンド・プロダクションはメンバー・メインにやってます。でも今回、サイズが広がったり、メンバーひとりひとりが楽曲の中に入ってくケースが多かったんで、全体的な部分が見えにくくなってると思うのね。だから、全体を俯瞰してジャッジしていくっていうスタンスを僕がとってます。
それと、プロデューサーとしてはアイデンティティがきちっと通せることが大事だと思うな。立ち上げから、レコーディング・プロセスを通してレコードが店頭に並ぶまでのアイデンティティがきちっと一貫することをいつも考えてる。サイバーとか言っても、出来上がってみたら関西ファンクだったり、ニューオーリンズ・サウンドになっちゃったりっていうんじゃ困るでしょ。

―――PINKの海外戦略ってあるんですか?

ホッピー あの、日本で売れるためにはずっと日本にいなきゃいけないと思う。向こうで売ることを考えたら向こうにずっといなきゃいけないと思う。だから、それはもう割り切らなきゃいけない。こっちだけでやってて、たまに向こうに行くってのは失礼だもんね。それに僕ら、日本で売れなくしてどこで売れようってのもあるから、その課題を片付けないといけない。

―――日本での足場をガッチリ固めてから?

ホッピー そう。まだまだひっかき回さないといけないと思う。

「サウンド&レコーディング・マガジン」1987年11月号掲載