インタヴュー・文=増渕英紀

80s中頃から90sにかけて活躍したPINKの集大成ともいうべき7枚組ボックスセット(紙ジャケ仕様)がリリースされる。そこで、PINKのメンバー3人(福岡ユタカ、岡野ハジメ、ホッピー神山)にプロデューサーの佐々カオルを交えてインタヴュー。PINKの特異な魅力を探ってみた。

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―――今回はそもそもどういうきっかけで、ボックス・セットという話になったんですか?

佐々「2年前にゴールデン・ベストを出したんですよ。音をデジタル・マスタリングしたものがゴールデン・ベストが初めてだったんですね。で、非常に評判が良かったので、これ全部の作品でやりたいねという話をワーナーさんとしてたんですよ。で、やるんだったら今しかないねっていうんで。あと中古レコード屋さんでオリジナル盤が不当に高い値段で売られていて、やっぱり聴きにくい。で、今聴くと音が悪い。それで今回はそれをキチンとしたいっていうのはありましたね。商品にするしないの前に。アーカイヴとして」

―――今回、聴き直してみると、やっぱりユニークなバンドでしたよね。普通のロック・バンドのようにギターが前面に出てくるわけじゃなく、やはりあの当時はすごく斬新だったんだなって思って。

佐々「リズム・パターンの絡みの実験的なことをポップと呼ばせたみたいな感じ。一番最初はシングルで聴けるような普通のポップ・チューンをやる予定はなかったんですよ。まあ、やらないっていうコンセプトもなかったとは思いますけど。8ビートのシンプルな、っていうのはなかったと思います」

福岡「だからリップ・リグ・アンド・パニックが出ればそういうものをやって、プリンスが出ればそういう感じのものをやって、上手いからそういうの出来ちゃったんですよ。みんな新し物好きだったから」

岡野「ドラムのカメちゃんが最初からシモンズ持ってたんだよ。ホッピーもサンプリングを持っていて、シモンズがあってっていう感じだから。だから初期のPINKのデモなんてシモンズ多用してたよね。何かにつけシモンズだった」

―――プリミティヴな部分と打ち込みみたいなデジタルなものが共存しているような、そこが面白かった。そういうジャンルレスみたいなのは他にいなかったような。

ホッピー「カメの場合はDMX(デジタルリズムマシン)がずっと流れていたから」

福岡「だからシークエンサーは使ってなかったよね。オーヴァー・ハイムかな」

―――マシン・リズムと生音を同期させるみたいなやり方ですよね。

岡野「もう人力ですよ。何となくシークエンスみたいなのが流れている場合もあるけど、基本クリックを聴きながら」

ホッピー「そう!どんな時でもクリックを聴く人だったからね」

岡野「で、カメはクリックにバッチリの人だったんで。今でこそ相当にヘタな人でも後でグリッド・ラインに合わせられるけど、その当時はまだテープを回していた時代だから、ジャストに叩けないとソレっぽくならないわけですよ。ああいう無機的なショットむらがない叩き方が出来たのは本当に、矢壁しかいなかったと思うんだよね。僕はベースだから、そのリズム・パターンと絡むっていうところが非常に斬新な構造だったと思いますね」

―――生音なのにデジタル・リズムのような、それが凄いですよね。

岡野「そう、打ち込みとまったく同じだったんで。その矢壁アツノブっていうのは黒人的なグルーヴっていうのは当時全く理解出来ない若者だったの。で、その理解出来ないところが僕はすごく好きだったんですよ。僕はそういう音楽を聴いてきましたから。でも、ドラムの勝手な揺れ、揺れじゃなくて縒れみないな感じはすごい嫌いだったんで、ドラム・マシンをいち早く買ったクチ。だからカメのビートはものすごく好きだった。非常にベースを弾くのが楽しいっていうか。まるでマシンのように、しかも生音ですからね。ただ、シャッフルとかそういうのは全然出来ないっていう。好きな音楽何?っていうと、ユーミンとか平気でいうタイプ。その当時、まだ彼は若かったから、新しいジェネレーションのドラマーだなってすごく思いましたね」

―――ファンクなベースとデジタルっぽいドラムとの組み合わせって、あまりなかったんじゃないかなって。

岡野「そうですよね。なかったし、やりたいと思ってもなかなか出来ない。まあ、でも聴き直してみると、こんな売れないアルバムをよく作ったなって思いますけどね(笑)1曲目にこの曲入れちゃうんだ?! みたいな。曲順とかもね、商売とかあんまり考えてなかったし、これが売れるんだみたいなことを現場で取り沙汰していない。そういう経験が出来て本当に良かったと思って。もう今だったら無理でしょう」

その(2)>>