―――あと、PINKで印象的だったのはメロディが結構エスニックしてたってこと、曲によっては中近東、東南アジアな感じもあったりとかしてたでしょ?いわゆる普通のポップスのメロディとはまた違うっていう。

岡野「そうですね、それはもうエンちゃん(福岡)のDNAの・・・・・。それが大きいんで」

福岡「あの頃のニューウェイヴって、以前と同じことをしたくないっていうのがあったでしょ」

―――たしかに、トーキング・ヘッズとかピーター・ゲイブリエルなんかはそっちに行ってたから。

福岡「そう、何か同じことはしたくないんで、色々面白い刺激的な音が入ってきて、それに影響されて出していくという感じだったと思いますよね。飽きっぽいんで同じこと出来ない」

岡野「たしかにPINKの現場ではそういうエスニックなネタは相当ね。ケチャなんかもそうだけど、他のバンドではエスニックなものを融合させるっていう話はあまり聞かれなかったよね。僕らは当たり前にソレやってたんで、それが当時は今っぽいって思ってたんですけど、案外ないんですよね」

―――ケチャの話も出たんですけど、ケチャを取り入れたっていうのはその頃かなり聴いていて好きだったんですか?

福岡「今、僕は雄叫びとか言ってるんですけど、ヴォイス・パフォーマンス演る人ってまずいなかったんですよ。今でこそもう出てきてますけど、10年前でもいなかったよね。海外ではいるんだけど、僕はまぁ周りにいないからわかんないじゃないですか。ヴォイス・パフォーマーがどういうことやってるとか。さっき出た話でツバキハウスでパフォーマンス・ブームがちょっとあったじゃないですか。ローリー・アンダーソンが出たりとか。日本でも実はあったんですよ。舞踏じゃないとこのそういうパフォーマンス・ブームっていうのが。そういうところともチョコチョコって付き合ってて、ただヴォイス・パフォーマンスっていうのをやってる人がいなくって。で、まず口を使った面白い表現となると、まずはケチャになるわけじゃないですか。まぁ、ホーミーなんかもあるんですけど、そういうヴォイス・パフォーマンスの面白いものを探すと、民族音楽なんかはやっぱりストレンジじゃないですか。だから自然にそういうところへ辿りつきますよね」

―――たしかに他にいなかったかな。おおたか静流くらいでしょう。

福岡「おおたかさんはコマーシャルとか、あと自分のアルバムでも手伝ってもらったりしてますけど、おおたかさんもPINKの頃は知り合いじゃないし、まだいなかったと思いますよ。だから寂しかったですよ(笑)」

―――近田(春夫)さんの詩も面白かった。PINKのサウンドとのコラボが絶妙でしょ。具体的な情景描写とかディテールみたいなものは一切ないもんね。

岡野「普通のラヴ・ソングなんて1曲もないからね」

福岡「あんまり売れるってこと考えてなかったからね。音も含めて割と自由に作れた時代だったのかなと。僕は作詞は人に頼むことも多かったんで、普通に商業的な詩を書く人にも発注することもあったわけですよ。でも、僕らの音源を渡し詩を書いて下さいっていうと、途端に難しい詩を書いてきたりして、そういうことが多かったですね。だけど、そこまで現代詩じゃなくてもイイと思ったりもしましたが・・・・・。だから、いい意味での力の集約が出来たんでしょうね」

 

―――つまり、PINKの音に合わせると、そういう詩になるってことですよね。

佐々「ですよね。今回、改めて完成度高いって思いました。サウンドに通俗的な詩が合わないってことなんでしょうね」

―――サイバー・パンクっぽいところもPINK独特でしょ?

福岡「SFはもうみんなそれなりに好きだったし、”ブレード・ランナー”はもう完璧なサイバー・パンクだったし」

岡野「サイバー・パンクに出てくるようなアジアとハイテクみたいな部分、ああいうカオス感みたいなものには影響受けましたね」

福岡「映画の方はリドリー・スコットでしょ」

―――あのヴィジュアルがすごかったですよね。

福岡「そりゃー、ショックでしたよ」

岡野「最初の”ウドン食いますか?”っていうセリフとかね。未来都市のね、アジア的なああいう猥雑な感じとか。あれがもう基本になっちゃいましたよね。あの手のSF映画の」

佐々「その頃はSFマガジンの取材も入りましたよ」

福岡「今はSFもちょっと力がなくなっちゃって、どこか知らないところの、知らない時代のっていう架空のが多いじゃないですか。全部が架空、架空でリアリティがないから逆につまらないみたいな。そういうのあるじゃないですか、お前どこの何なの的な、ちょっとアイデンティティも絡んでくるみたいな。この頃は逆に東京っていうのがあって、”ブレード・ランナー”みたいなものを見て、そういう架空なものと未来と、あと僕個人だと古代と・・・・・」

―――その近未来的なものとプリミティヴなものがPINKの中に共存している。そこが面白いと思いますね。

福岡「そう!それが僕にとっても、みんなにとってもロマンティックな部分だったと思います。想像を膨らませられるしね。で、ヒントはそこから取ってきて、何か新しいものを作っていきたい。そういうところがPINKの魅力だったかな」

―――最後に各々ボックス・セットに関してコメントを。

福岡「ありがたい!!聴いていただきたい」

岡野「まあ、喜んでもらえると思うんですけど。PINKは知らないかもしれないけど、オリコンの10位に入ったバンドなので、知ってもらいたいと思ってマスタリング、頑張ってやりました。PINKを知らない人に聴いてもらいたい」

ホッピー「ずーっとPINKを好きだった人がいて、音源が長い間なかったっていう状態が続いていたんでね。今回、それをちゃんとした音でね。今の音にしたかったっていうのがあって。80年代がリバイバル・ブームだったんで、何としても今年いっぱいにはボックスを出して、全作品をちゃんとした音で聴いてもらいたいなと思っていた矢先だったので、タイミングとしてはちょうどイイんじゃないかなと」

インタヴュー・文=増渕英紀

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