---サエキ君も近田さんと同様の作業をやって来た人だと思うんですが・・・・・。

サエキ ビブラと一つ違うのは、ハルメンズが出て来たのはパンク/ニューウェイブの頃だから、詞がみんな客観的だったんですよ。日常がどうしたというのではなくて。

上野 でも、あの頃は「日常そのものが観念的」だったんだよね(笑)。

サエキ (笑)。そうそう。「昆虫群」はあくまで日常の歌だった。日常に見てた風景が昆虫に見えたからで・・・・・。そういう意味では、直接的に語るか間接的に語るかの違いだけで、近田さんとは出発点は同じですね。

上野 うんうん。あの時代は・・・・・年中・・・・・幻想を見ていたような・・・・・。

---サエキ君の「焼ソバ老人」といい、近田さんの「ホーレン草サラダ」といい、2人は今まで詞にならないとされていた言葉を実にうまく詞にしていたでしょ?

近田 人が作り上げた秩序と同じものを使うのは、ものを作る人間としては許されないことだと思うんだ。俺とかサエキが人と違うことがやりたいと思うのは、ものを作る人間が最初に持たなきゃいけない動機で、その動機が欠如している人間が日本にバカバカしく多いってだけのことなんだよね。

サエキ 全然、昔と変わってないですよ。今の日本のロックの詞の世界。

---音楽面では、上野君はどういう苦労をしました?

上野 最近は自分のアイデンティティを何も考えない人間になっちゃったんですけど。

近田+福岡+サエキ ギャハハ・・・・・。

上野 ハルメンズの頃は、ロックという鍵穴に自分のアイデンティティをどう差し込むかみたいな、こだわりを持ってやっていた。あの時期だけロックと僕のアイデンティティが手をつないでいられたんだと思う。

サエキ 一つハッキリしていることは、アレンジに対して興味を持っているバンドがいつの時代にも少ないこと。ビブラはもちろん、ハルメンズにしても上野君や比嘉江君がアレンジに対して決定的に鋭い考え方をしていたのが他のバンドと一線を画してた。

福岡 僕もビブラで今までやって来たり聞いて来た音楽が一回壊れてミックスされたという感じがする。叩いて歌っているうちに、凄くいい形でオリジナルなものが出て来た。

近田 でも、どうもいつもリアル・タイムで評価されないのがアタマに来るんだよなあ。ゴッホに比べりゃ、ましだけどさ。

全員 ゴッホ(笑)

 

話は「時空を超え」て、辛口のロック談義へと発展

上野 私が今目立っていられるのも、日本の自称ロックの人達のおかげかもしれない。

近田+福岡+サエキ おお~ッ。

上野 僕はロックを本当に好きだから、やっていくうちに離れて行ったんだと思う。今の若い人達は欧米のミュージシャンを盲目的に「あがめている」からいけないんじゃないかな。僕は「愛して」いたと思う。

福岡 言葉の使い方の問題かも知れないけれど、僕は逆に今の若い人達は「あがめる」程聞いていないんじゃないかと思う。日本のロックが成功して以来状況が変わったというか。サザンとかボウイとか成功したバンドを目標にしてるんじゃないかな。

上野 ・・・・・はあ、それはよくわかります。

近田 ロックって、ある時から似て非なる物になっちゃんたんだよ。僕らがなぜこれ程までにロックに愛情を捧げたかと言うと、ロックが自由を表現しようとするメディアだったからだと思うんだ。それを僕らが何から感じたかと言うと「新鮮さ」。自分にとって新鮮なものが出来て初めて発表出来るのがロックなんだよ。そのチェック機能が段々甘くなって来て、技術の向上に逃げたり、得意な方向に流れたりしたから、今のロックって、ホントひと昔前のポルカみたいに古臭いもんになってしまった!

福岡+上野+サエキ (笑い止まらず)。

福岡 ロックは伝統芸能じゃないもんね。日本って言葉がフラフラしてるでしょ。ロックの意味が本来的なものから大多数の人が思っているものにサーッと滑って行くじゃない。たから、僕はロックという言葉を死守するより、今は中近東やアジアの今まで聞いたことのないメロディーや言葉に興味がある。声の響きとこぶし。音一発でパワーのある音楽を作りたい。

近田 音楽ってちゃんと付き合うとパワーのあるもんだし、自分にエネルギーが出てくるし、実用性のあるもんだと思う。ドリンク剤くらいの効果はある。

サエキ それはありますね。

近田 ロックが生まれた時の状況から比べると要素も複合的だし、今新鮮なものを作ることは至難の技なんだけどさ。でも、ニューヨークやロンドンの一部のDJたちが作っている音楽は今の時代だから出来る新鮮さを持ってるでしょ。コロンブスの卵のように、シンプルで強くて新鮮。僕としては悔しいから、そういう考え方があるんだったら、こういう考え方もあるんだぞ!って提示を続けて行くことが上野君が言ったロックへの愛情に対する答えだと思う。ロックが最初に誓ったことを守ることがロック。それを僕はこれからずーっとやるつもり。

福岡 偉い!

近田 偉いでしょ。

全員 (爆笑)

 

さて、これからの4人の活動だが---。
近田さんは、近田春夫&ビブラストーンのコンサートを定期的に行い、90年代の『東京フリークス』的な「場」作りを目指す。
福岡君は自宅録音をモトにソロ・プロジェクトを。また11月5日にPINKのコンサート、来年2月にPINKのレコードを出す。
上野君は11月8+9日に渋谷ライブ・インでゲルニカのコンサートをした後、来年にはゲルニカの3枚目を出す。
サエキ君は、パール兄弟のレコーディング。そして、新しいテクノ・ポップ・バンドの紹介とインド大話術団(加藤賢崇とのトーク・ユニット)の脳がとろけるバカさが売りの『ハレはれナイト』(インクスティック六本木)を続けるそうだ。
と、ビブラとハルメンズの遺産はロック界に広がるのであった。

最後にサエキ君からの伝言を紹介しよう。
「また廃盤にならないうちに買ってください」

(写真:ヒロ伊藤/文・構成:川勝正幸)

<<その(1)へ戻る

【関連記事】
→近田春夫とVIBRA-TONES