●対談● 平山雄一/今井智子
ショッキングに登場した6人組PINK。彼らのサウンドをさらに浮き彫りにするべく、カラー頁に続いてお届けするのが、日本のミュージック・シーンに詳しい2人を招いてのピンク対談。好き、嫌い、可能性・・・冷静な目でみた発言である。
今井智子 昔見たライブの印象が、すごくシャッキリした音を出すバンドだなっていうのだったから、そう思って聞いたら、全体的に何かボヤボヤっとしている気がして。非常に凝ったレコードだった。
平山 オレは修正主義だなと思ったわけ。何かを変えようって時に、そのものを変えるんじゃなく、割と細かい所にこだわりきって修正していくっていう。基本的にはすごく保守的だって気がするのね。ある雑誌のレコーディング・レポートを読んで、聞く前から愕然としてたんだけど。リズムが決まった。その上にホッピー神山(kyd)がシンセのフレーズをひく。するとエンちゃん(福岡ユタカ:vo.compose)が、こうやったらどうだろうって、フレーズを変えるんじゃなく、どういうふうにひいたらいいかを提案する。で、レポーターが言うには、僕たちがちょっと聞いたんじゃ聞き落としそうな所にこだわりきってやってると。その修正主義のやり方が、死力を尽くしてやってるから、凄いと思うけどね。ほら、メンバー全員が全力出しちゃうんだ。
今井 そう。長いステージでも、1曲ごとに全力疾走しちゃうみたいなね。
平山 オレはそこが疲れちゃうんだよね。でもレコードでは、前よりずい分ディレクションが出て来たと思うね。バンドって、誰かのバックにまわった時には、すごく良かったりするんだけど、バンドがソロになった時、なかなかコンセプトをメインに持ち得ないじゃない。その中では健闘している方だと思うよ。
今井 でもね、渋谷(ヒデヒロ:g)君、ホッピー、岡野(ハジメ:b)君、カメ(矢壁アツノブ:ds)ちゃんは大沢誉志幸のサポートやってるんだけど、バンドの時はノリが全然違うわけ。やっぱりこれはバンドだなって・・・。
平山 バンドね・・・わかる、わかる。そういう意味じゃ、バンドがすごく存在しにくい時代にさ、よく生き残っていると思うよ。ライブに来てるファンって、ビフラトーンズ(元近田春夫と共に活動していた5人組。福岡、矢壁、ホッピーが参加していた)の頃からファンじゃないかって思うんだよね。でも本人たちはあまり言いたがらないでしょ、前はビブラトーンズだったってこと。それも歴史で、恥ずかしいことじゃないのに。
今井 近田さんがビブラを見て使いたがったっていうの、今になってすごくわかるのね。
平山 通じるとこあるからね。日本の中から世界を見てるって感じ。無国籍の国籍、でもインターナショナルじゃない。
今井 日本の中の無国籍つまり歌謡曲でも、ロックでも、ニュー・ミュージックでもない所。でも意識的にトンがったものを持ってるというのを、彼らを見たり聞いたりする時に私は感じるわけ。やたら負けん気とか、向こうっ気が強いバンドって感じを音から受けるのね。実際そういう人たちのようだし。その辺はロックっぽいなって思う。
平山 死力を尽くした修正主義っていうのは、もっと行くところまで行くと次が見えるかもしれないんだよね。フュージョンが煮詰まりきった時にデビッド・フォスターが出て来たじゃない。あそこまで行くかもしれないと思うんだよね。もうやり尽くしてやり尽くして、でも飽きてない人たちが作り上げた音って、TOTOの音だと思うんだけど、あそこまで行けたらいいなあって思う。メッセージ性も何もないけど滅茶苦茶なエナジーがある。PINKはロック・バンドなんだよね。
今井 何でロックかっていう所に、常に死力を尽くすみたいな所あるんだよね。
平山 仕事のやり方は違うかもしれないけど、ある時期のムーン・ライダースの存在に似てるんじゃないかって気がする。他のバンドとはほとんど関連なくて、いきなり出て来て、あいつら何だ?みたいな言われ方するんだけど、あの中ではまとまってるっていうね。
今井 ライダースも人のバックやらやたら滅茶苦茶うまいんだよね。でも自分たちがやると、やりたいことが多すぎてね。
平山 すごく敏感なんだよ。だから余計、回りに敏感でさ。よくやるよ、って言いたくなるほどに・・・
今井 あの恥知らずさっていうのが、私好きなのよね。なんでもドン欲に吸収しちゃうみたいなさ。でも、それはそれなりに面白いなって気がするわけ。日本のロックのルーツだからさ、パクリ、コピーっていうのは。
平山 まぁ、それが堂々と正面切って出てこれる精神状態になったっていうのは、バンドにとってはいいことだと思うよ。久しぶりに音楽のための音楽だって感じがするけどね。今、時代はそうじゃない方向に行ってるじゃない。メッセージがあったり、サウンドとメッセージが両立する時代でしょ。そんな中で、音楽のための音楽をやってるっていうのは、なかなか珍しい。このまま5年続けられたら、すごいバンドになるんじゃない。
今井 でもすでに5年くらいたってるわけでしょ(ビブラトーンズの時代も含めて)。だけど、やっぱり10年ぐらいかかるものなのかね。ライダースが今の所に来るまで軽く10年はかかっているし、細野(晴臣)さんだってYMOで成功するまで10年・・・・・。
平山 見た感じは才気走って見えるかもしれないけど、オレは、その実、すっごい努力している人たちだと思う。修正主義っていのは、言葉を変えればそういうことだしね。
今井 そうだと思うね。ドン欲に新しいものを聞いてさ、一所懸命練習してるわけだもの。
平山 クリエイターの1つの資格ではあるんだけど、PINK自体がすごくいいリスナーなんだと思う。今何が新しいんだろう、何が一番面白いんだろうってね。それがみんな、PINKの中に詰め込まれてる。それがまた限界になってしまうこともあるけどね。いい聞き手だよ。だから、聞き手の夢が集まったLPって言い方が当たるんじゃないかと思うよ。あのレコードの中には、信じられないくらいのモダン・ミュージックのエッセンスが詰め込まれてる。ここ10年、日本を襲った音楽的ショックがね。ただアルバム自身がカルチャー・ショックっていうんじゃなくて、カルチャー・ショックを受けとめた人たちが作ったって感じ。それもすごく未整理なカルチャー・ショックの受けとめ方なんだけど、あそこまで百花繚乱だと逆にすごい。受け手としての感性はあると思うんだけど・・・・・ね。詞、めちゃくちゃ暗いじゃん。あの詞のヘビーさとサウンドのバランスってのが、オレ個人は信じられない。サウンド・キャラクターと全然あってないんだよね。
今井 う~ん、あれは回り道してんじゃないかって気がするね。
平山 その回り道が意識的なものだったら、たいしたものなんだけどね。自分が伝えたいことを的確に伝えるためにはどう歌ったらいいか・・・・・エンちゃんなんか、あの音の渦の中に入っちゃうと舞い上がっちゃう感じだし・・・。宣伝文句の”リズムの祭儀性”、その素敵な部分は確かに感じるんだけど、バリのお祭りだからエライ、みたいに見えちゃうのにひっかかるんだよね。彼らがやってるのは日本の祭り以外の何ものでもないと、オレは思うし。
今井 そういう誤解はあるバンドだよね。変なコンプレックスがある。転化しようと思っても持って行き場所がないから、日本の中の無国籍になっちゃうんだろうけど。
平山 でも、そういうバンドで好きかどうかで、オレはちょっと・・・・・で今井さんは・・・・・
今井 ウン、私はやっぱりあそこのリズムは好きだしね。トーキング・ヘッズも、最初は何て奴らだって思った。でもデビッド・バーンが何かわけのわからないニワトリ踊り始めてさ、何てつまらないパフォーマンスするの、って思ったんだけど。デビッドはきっと、黒人みたいに動けない自分なりの表現の仕方を考えた時に、あのしょうもな踊りになったんだろうって思ったの。
平山 それは自分を認めるってことだよね。自分は黒人じゃない、でもとっても好きだってさ。そこからちゃんと始まっていく。そういう意味じゃPINKはまだ始まったって感じ。
今井 でも、そういう可能性は持っているし、そこら辺に私は期待したい。もう十分うまいわけだし、あと問題は彼らがいつ、そういう意識を持つかってことだけだと思うから。あの変な洋楽コンプレックスを捨てれば、ヌケは早いと思うんだけど。
平山 まあ洋楽コンプレックスを含めて今の日本だからね。特に彼らの世代って、その代表だと思うよ。だから同世代の人が聞いたら、すごく感じる音楽かもしれない。オレは外国コンプレックスを経験してきたから、彼らを見ると自己嫌悪。その頃を思いだしちゃってさ。ほら、男は歴史で捉えたりするから。
今井 でも女の子は愛し易いバンドだと思う。論理的な部分じゃなく、皮膚感覚みたいな所で、私は彼らが好きだしね。瞬間瞬間のカッコよさっていうのがあるワケよ、音の。それが生理的に好きになれちゃう。
平山 女は全然違った捉え方をするからね。
今井 アルバムに関しては、もっとスッキリさせろって言いたい部分もあるんだけど、今の彼らを正直に反映しているものだから、むしろこれを踏み台にして彼らはどうするかに私は興味ある。気合い入ってるもの。彼ら見ると、日本のロックの枠が広がってる確認になるね。
平山 力づくって気がしないでもないけど、少なくともあそこまで広げちゃったエナジーとかこだわりには、ほんと感心するね。
今井 感動的ですらある。
平山 とにかく当代一流のテクニシャンが集まってるバンドであるってことは間違いないね。フレーズはファンクだけれどロック・・・・・っていうと否定的に聞こえるかもしれないけど、ロックの方法論で、とことん追いこんでいる・・・・・っていうか突き詰めてる。
今井 うん、そのいい方のほうがいいね。
平山 で、突き詰めきったら想像もできない得体もしれないものに行きつくんじゃないかって気はするんだ。ああいうアプローチをしているバンドって、他に日本にいないしね。その時が来たら、僕は初めてゴメンナサイっていうのかもしれない。でもさ、気に入ってるって人はナルシストだぜ。自分の日本のロックの経験を愛しているんだから。(笑)
今井 私は、自分が可愛いからね。(笑)
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「アドリブ」1985年6月号掲載