リズム・セクションのうねりにまかせて情熱的にプッシュされるPINKのスピリットは、確実なスケール・アップを実感させてくれた。

去る12月14、15日、ラフォーレ・ミュージアム飯倉800が、ライブ・スペースに豹変した。外に一歩出ると、そこは、まぎれもないミュージアムの空気感漂う空間なのだが、中ではクラブに見間違うくらいの熱い波動が起こっていた。
セカンド・アルバムのレコーディングを終えたPINKが’86年を前にして早々にダッシュをかける。デビュー・アルバム発表時のライブ・ハウス・ツアーと、すでに約束されている次のホール・ツアーとの合間をぬったスペシャル・ギグだ。シンプルなステージ・セット。だが、彼らの存在自体がそうさせるのか、それともゴシック風、ネオ・サイケ風のファッションがそうさせるのか、全体から漂ってくるのは、なにやら海賊っぽいイメージ。それも、時空間を跳び越す航海を続ける海賊のよう。男っぽさと、女性を寄せつけないようなキマジメぶり、どこかに漂うアウトローの匂い、そして、汗を汗臭く感じさせない切れ味の鋭い動きが、そんなイメージをかきたてる。
<DON’T STOP PASSENGERS>でスタートして<HINEMOS>でラストを飾る全17曲に、アンコールが3曲。柱になっていたのは、もちろんファースト・アルバムからの曲だが、ところどころリアレンジされていて、さらにダイレクトなノリを生み出していた。アンコールで演奏した<青い羊の夢>や<砂の雫>など以前からのレパートリーでもそうだったが、リズム・セクションのウネリにまかせて、ボーカルをひたすら情熱的にプッシュする。リード・ボーカルの福岡ユタカに加えて、ホッピー神山もかなりの部分でその戦列に参加して、PINKのホット・ラインを強くアピール。ボーカルを聴いているだけでも体が動いてくるというくらいの、いや、事実そうなのだから凄いと言わざるをえないのだった。
さきほども触れたとおり、すでにレコーディングを終了し、あとはミックスだけという状態のセカンド・アルバムからも選曲されていた。それらの曲は、バラエディ豊かで、彼らの幅を示す結果となった。ヨーロッパ的なバラードから目を見はるポップ・ナンバーまで、彩りの鮮やかさが加わり、PINKが次のステップに入ったことを物語る。音楽的な部分でもそうだが、なによりも、大きなスペースでも動じない彼らのスピリットに驚き、スケールが大きくなっていることを実感。腕前とガッツの点では、このスペースをはみだす勢いだった。
(高橋竜一/写真=有原隆、有原裕晶)

 

ワン・ステップ・アップを見せるPINKの2nd。

本号で昨年末に行われたスペシャル・ギグのリポートをお届けしたPINKが、そこで筆者の高橋竜一氏が記していたように、2ndアルバムがレコーディングを完了、2月25日ムーン・レコードよりリリースされる。
「HIKARI-NO-KO」とタイトルされたこのアルバムは全10曲、1曲グループでの共作を除き、作曲はすべて福岡ユタカ。作詞は福岡ユタカが3曲、矢壁アツノブ(ds)が1曲、渋谷ヒデヒロ(g)が1曲、そして安藤芳彦が2曲、コーラスでも参加している吉田美奈子が2曲という内訳だ。
今回はまず一聴して感じるのは、彼らのサウンドの懐がひとまわり大きくなった、ということだろう。ウネるようなビートのソリッドなショットに乗って、PINKの音のダイナミズムが押しよせてくる。確実に大きなステップ・アップを実現した・・・色彩豊かな世界を生み出している、期待にたがわぬ作品である。

「アドリブ」1986年2月号掲載

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