極めて上質で、歯ごたえのあるポップス/ロックを聴かせてくれるPINKの三作目は、先月のベスト・レコードで書いたとおり、今年こそ「来る」予感を与える。衝撃的だったデビュー作のつっかかるような勢い、そして二作目の広がりのある完成度を踏まえて、彼らもいよいよアブラがのってきたという感じなのだ。と言っても円熟味とか年期の入ったとか言うのではなく、乾いていて攻撃的で、その輝くマッスル・ビートはますます意気盛んといったところ。持ち前の精神的な体力で、ともすれば「いいんだけどねぇ・・・・・」で捨て置かれるポップス界のサルガッソー海を泳ぎ渡ってきた彼らは、その強力な個性が相殺することなくぶつかりあい、外に向かってはじける時、他に類を見ないバランスのとれたダイナミズム生みだすことはすでに見せてきたが、そのパワーは日本を飛び出しロンドンに届いてしまった。彼らは昨年十月ロンドンでギグを行ない「日本からの初めてのポップス・バンド」と言われたそうだ。そしてイギリスでのシングル発売(<ソウル・フライト>英語バージョン)と三月発売のスティーブ・ナイによるリミックス12インチ(<トラベラー>)、CM曲③で新たなる足掛かりを築く。
音量と勢いだけでゴリ押しする青臭いバンドとは違う、そんな彼らの個性がいま改めて注目されるはずだ。オリエンタルであることも充分意識しながら、オリジナル・テイストを追及する彼らのサウンドはかつて流行り言葉で無国籍と言われたが、その味わいに磨きがかかって、いまや独自のスタイルをつくりあげた。
六人の個性もさることながら、このバンドの作品を語る時忘れてならないのが、作詞家陣。謎の詞人ウベ・セイジ、吉田美奈子はすでに常連、二人の妖艶な言葉使いは、このバンドの大きな特徴になっている。特に吉田美奈子は他ではこういった作品は見たことがないので、毎回興味深い。また今回は近田春夫も参加し、その作品は今の彼らしいラップ調だが、そこをぐるりとヒネるのがPINK流。ガリガリととんがりつつシリアスなだけでないあたりも余裕だ。
ギターの渋谷ヒデヒロが療養中のため現在ライブは元マリノの大谷レイブンがゲスト・プレイヤーとして参加しているが、彼らのパワーは少しも損なわれていない。PINKはさらなる活躍を期待させる。
(今井智子)

「アドリブ」1987年2月号掲載

【関連記事】
意志のバンドPINK 『ロック』への衝動(アドリブ)>>