ホッピー神山がプロデュースをしているアーティストのレコーディング風景を、何度か覗きに行った事がある。彼はミキサー卓の前に座り、造り出される音に全神経を集中させていた。”もう少しここをこうやって、もう一回” ”OK!!” ―――アーティストへのアドバイスも実に的確だ。その場をとりまとめていたのは確かに彼だった。休憩時間にはJOKEを飛ばしまくり、リラックスしたムードを作るが、レコーディングに入ると、ガラッと目つきが変わる。その手さばきは、超一流の教師のようであり、我が子を教育する親のようであった。そうやって、何時間もほとんど休む事なく、納得できる作品を造り上げていくのである。

ザ・ナンバーワンバンドの3rdアルバム、『ラジオ・ショー』に始まり、レピッシュ、東京少年、20世紀Jr.など、数多くのアーティストのプロデュースを手掛けてきたホッピー神山に話を訊いた。

―――ホッピーさんの考えるプロデューサーとはどのようなものですか?

ホッピー その前にまず、日本のプロデューサーと呼ばれている人達はほとんどサウンド・プロデューサーなんだよ。だって”プロデュース BY~”なんて書いてあっても、TDにも歌入れにも来ない奴ばっかりだもんね。”忙しいからごめん”とか言って・・・・・それは単なるアレンジャーだよね。
で、本当のプロデューサーと言うのは、お金の管理をまずする事。例えば予算が一千万円だったら、まるまるプロデューサーがもらって、その中でやりくりする・・・・・自分はこの位貰って、ここにこれだけ、これは削って、とか。次に、イメージ戦略のプランニングを全部たてられる。でも、日本の・・・海外でもそうだけど、プロデュースってクレジットされているのは、ほとんどサウンド・プロデュースで本当の意味のプロデュースをやれる人間は違うスタッフなんだよね。

―――いわゆるアーティスト・プロデュースってものですか?

ホッピー そうだね。

―――では、ホッピーさんがやっている事は?

ホッピー 僕はいつもプロデューサーに近い所までくい込むから大変なんだけど・・・・・とりあえずレコーディングには全部参加するし、サウンド以外の事にまで口出しするから、スタッフは嫌な顔をする。自分がいろいろやろうとしてるのに、そこに口を挟まれるから。で、すぐクビになるわけ(笑)。やっぱり日本みたいな国だと、仕事だと割り切った方が長続きするんじゃないの。スタッフが言う通りにやって・・・・・

―――でもそうはなりたくないわけでしょ?

ホッピー それが正しかったら僕も一緒にやるけど、正しくないと思ったらやっぱりちゃんとしたいよね。アーティスト本人の立場にばっか立つわけじゃないけど、あまりにも貧困な発想でしか考えてない人が多いから・・・・・だって皆サラリーマンだからさ、プロダクションの人間もレコード会社の人間も。

―――クリエイティヴではないと。

ホッピー うん。中には体張って頑張ってる人もいるけど、このアーティストの為なら俺はクビになってもいい、なんてのはあまり聞かないでしょ。だから上の人間に何か言われたら手の裏を返しちゃうんだよね。そういう風じゃアーティスト本人がかわいそうでね。そこで僕は何とかしなきゃと思って間に入るわけ。まあ、僕は、プロデュースなんておこがましい事をやれるような玉じゃないんだけど、本当は。結局、自分の事でも人の事やるんでも、楽しけりゃいいのよね。

―――プロデュースを引き受ける、受けないの基準はあります?

ホッピー 相手の、アーティスト本人からのラブ・コールがある場合はほとんど断らない。スタッフからの場合は断る事が多いけど。・・・・・と言うのは、本人が僕の事を信じてくれてるという事は、僕の世界が好きで、一緒に作業したいって事だから、やる意義があるよね。それがロックの子でも歌謡曲の子でもね。スタッフが勝手に持ってくる仕事は、よっぽど面白い素材だったら別だけど、疲れるだけだもん。

―――ホッピーさんがプロデュースをしてる姿を見ていて、凄い親身になってやってるなと思ったんですが・・・・・

ホッピー 親身になってるよ。それ位の気持ちでやらなかったら・・・・・自分の作品として残るわけでしょ。ちゃんとコミュニケ―ション取らない限りはできないよ。スタジオでレコーディングしてる以外の時も凄い大事だしね。相手の気持ちや性格が分かってないで、一緒に作品なんか造れないよ。とことん話したり喧嘩したっていい、まずはどんな人間か知る事から始める。僕はどんな時でも、上や下がない、いつも同じラインの上で作業してるからね。そうしないと楽しくできないよ。

―――ミュージシャン畑の人がプロデュースにまわる事って、凄く多いですが・・・・・

ホッピー それはアレンジができるって事でやってんだよ。アレンジを前提としたプロデュースだから。でも、本来のプロデュースってものはもっとオール・ラウンドに考えなきゃいけない。音優先になっちゃうとマニアックなものになるから・・・って言うか狭い所でのものになるから危険なのね。やっぱりどんなにいい物を造っても売れなきゃ失敗なわけ。その素材のいい所を引き出して、売れるように持っていくのがプロデューサーなの。それは歌謡ポップ的なものにするって事じゃなくて。だから、今何が求められているとか、音楽以外の事もある程度勉強しないと。で、アーティストと王道のポップスとのバランス、自分とのバランスを取っていかなきゃいけない、やっぱり自分の意地を見せなきゃ・・・・・そのバランスがいつも上手く整ってないと、絶対売れないよね。僕の経験からいくと、アーティスト自身のパワーが物凄くある場合はその勢いで売れる場合が充分ある。でもあまりない場合はよっぽど頭を使わないと・・・・・かと言ってやり過ぎちゃうと、本来持ってるキャラクターを消してしまう。そうすると失敗。・・・・・でも、プロデュースの仕事ばかりやってスタジオ・ミュージシャン的な巨匠になっていくのは嫌だなぁ・・・・・来年は自分の活動をやる。下山淳とのユニット、THE RAELのレコードが春に出るからよろしく!!

文・古川裕子
PHOTOGRAPHED BY MASAFUMI SAKAMOTO