---PINKの歌詞は日本語の響きとかに気を使ってると思うんだけど、言葉は重要?

「それほど無責任なこと歌ってるわけじゃないけど、それほど重要・・・・・じゃないな。僕はまず自分のヴォーカリゼーションのこと最初に考えるから。・・・・・これは本当に克服してかなきゃならない事だけど、仮歌の方が数段いいんだよ。言葉なしのスキャットの方が(笑)。だからそれをいかに言葉で殺さないかって所に神経集中して歌ってるんだけど。意味よりも響きっていうかさ。一個の言葉をポンと言ってそこからイメージが拡がっていく方が開放されるし。でも、日本語の歌詞ってのはすごいきゅうくつだよね。聴く人はどうしても意味を求めたがるからさ。抽象的なままじゃ安心しないでしょ。その辺はけっこう課題ですね。”ヤング・ジニアス”みたく意味のない造語とか、どんどんやっていきたいけどね」

---海外リリースの場合は英詞になるわけでしょ。

「当然そうだよね。でも英詞になっても逆に全然抵抗はないよ。今度の”Soul Flight”でもいちばんやりたかったのはスキャットの”アーアーアー”って所でさ。僕らの場合、言葉以前の単純な声って方が国際語として通じると思うのね。アレンジとかリズムとかも含めて」

---レコード出す前の初期のPINKって、もっとファンク色の強い音でお祭りバンド的なハデな感じだったけど、今は違いますね。

「ライヴって事になるとああいうのが楽しいけどね、本当は。でもレコード出したら逆にああいう感じの曲できないし・・・・・」

---けっこうシリアスな面が出ちゃう?

「うーん・・・・・音楽にシリアスもふざけもないと思うけど。やっぱり曲書いてる時は自分でいい曲だなと思えるのが書きたいから。そんな力んで書いてるわけでもないし。ただライヴではちょっとシリアスすぎてつまんないってよく言われるから、自分でもやっぱりそうかナーとか思ってんだけどね(笑)」

---じゃ今後のライヴに関しては考えてるところがある?

「うん。けっこう無頓着な所あったからね。ちゃんと音楽だけ聴きに来るファンって少ないでしょ。テレビで他のバンドのライヴとか見てて、いろんな仕掛けとか、間のおしゃべりもお笑いをまじえたり、いわゆるショー的な要素があって、ああこれはこっちの方がうけるわっていうのはわかるよね。やっぱりそういう要素も入れてかないといけないかなと思いながらも、そこまでやる必要はないんじゃないかとか、その葛藤のくり返しで来たから(笑)。でも今度のライヴはシンプルでいて凝ったものになると思います。前はツアー中も次のアルバムの事が頭にあったりしたけど 今回はツアー後はちょっと空白期間があると思うんで、じっくり考えられそうだし」

---自分達のやりたい事を曲げずにいかにファン層を広げてゆくか、その辺のかね合いとかはどう考えてる?

「イギリスに行って言われたのは、全然わかりにくくない、非常にポピュラーでしかもオリジナリティがあるって。だってわかりにくい曲ないでしょ。だから(山下)達郎さんとか安全地帯とかを聴く雰囲気で聴かれて全然おかしくないと思うよ。いわゆる”ロック”って分野以外の人に聴かれても。だから皆の音楽的な良心に期待してるっていうの(笑)、すごいあるんだよね。”これ、わかるだろう!”みたいなさ(笑)」

さて、3月25日にはスティーヴ・ナイのミックスによる12インチ「Traveller」が発売される。ナイはXTCの『ママー』やペンギン・カフェ・オーケストラの仕事などで有名で、生音の処理を得意とする人だ。PINKにはうってつけの助っ人と言えるだろう。

「すごい忙しかったみたいで、最初は、どうして俺が世界発売じゃない物をやるんだ、とか言ってたらしいけど、音を聴かせたら案の定、色よい返事が返ってきて。最終的に向こうが音楽的にOK出してくれたのはすごいうれしいよね」

B面は福岡自身も思い入れが強い「Shadow Paradise」のリミックス。2曲ともナイに完全にまかせたと言う。その仕上がりは?

「メロディの把握とかすごいね。この曲はこの部分を聴かせた方がいいってのをビシッとつかんでる。あと、奥行き、空間の使い方とか。できれば”録り”からやりたかった」

ロンドンには一週間足らずの滞在でギグも一回だけだったが、それなりの収穫はあったようだ。

「音楽はすごくストレートに伝わってうれしかった。インターナショナルの感覚が肌で感じられて。演ってて、この曲はイギリスでもいけるなとか、この曲は彼らにないものだなとか感じられて良かったよ。歌詞とか別にしたら問題はお金だけだなと思う。音楽的に曲とかヴォーカルも含めた演奏技量とか全然問題ないなって感じで、逆に僕らの方が上だなって思えるところが多かったしね」

とりあえず今年は国内での地歩を固めるつもりだという。まだ充分に耳が目覚めていない人は、心してPINKを聴くように。

(文・野口 顕/写真・かわはらひでお)

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「Player」1987年3月号掲載

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