PINKがやってきたことが、ストレートに伝わった。
本気でやってみたいと、ヒシヒシと感じたね
PINKが10月上旬、ロンドンでライヴをやってきた。
これは、この冬イギリスのRIMEレコードからPINKの12インチ『SOUL FLIGHT』をリリースするためのお披露目。
海外進出の第1歩は大成功だった!!
ロンドンの秋は長い。
8月後半から街のいたる所に植えられたポプラの並木が色づき始め、ロンドン子達が1年中で一番好きな穏やかな日々が11月中旬まで続く。
PINKのメンバーがヒースロー空港に着いた10月4日も、涼風が肌に気持ちいいそんな秋の一日だった。
今回のPINK渡英の目的は、10月8日に BUSBY’S というクラブであるギグに出演するため。彼らは、この冬イギリスで『SOUL FLIGHT』をリリースする予定なので、そのお披露目ギグというわけなのだ。
当初は、日本で来年の3月に発売される12インチ『TRAVELLER』のミックスダウンを兼ねてのロンドン行きの予定だったが、それはジャパンやデヴィッド・シルビアン、ブライアン・フェリーなどを手がけているエンジニアのスティーヴ・ナイにまかせ、彼らはライヴに専念することになっていた。
しかし、日本での仕事が詰まっているため、彼らのロンドン滞在はたったの5日間。当然、スケジュールのほうも超ハードだ。着いた翌日の午前中からすぐスタジオ入りし、機材のチェックやリハーサルがビッシリ。そのあい間を縫って、フォトセッションや取材が何本もはいっているのだから、自由時間が全くない。でも、そこは、好奇心旺盛なオシャレ人間ばかりのPINKのメンバーのこと。ちょっとでも空き時間をみつけるとすぐにキングスロードやケンジントン・マーケットに飛んで行き、ショッピングに精をだしていた。
また、1日のスケジュールをこなして夜遅くホテルに戻ってきてから、話題のクラブやライヴに足を運ぶメンバーも。ロンドンのミュージシャンのプライベートパーティーに遊びに行ったエンちゃん(Vo.福岡ユタカ)とカメちゃん(Dr.矢壁アツノブ)。ジグ・ジグ・スパトニックが顔を見せることでも有名なサイケデリック・クラブ『アリス・イン・ワンダーランド』に行った岡野クン(B.岡野ハジメ)。元バウハウスのメンバーが結成したバンド「ラブ・アンド・ロケッツ」を見に行ったホッピー(Key.ホッピー神山)など。とにかく彼らのタフさとバイタリティは、脱帽ものなのだ。
そして、いよいよライヴの当日。前日の通しリハーサルの時も全員のテンションがとても高く、気迫のこもった演奏を聞かせてくれたが、この日はみんなさらに緊張しているらしく、いつもより口数が少ない。午後1時に会場入りしてから、入念なサウンド・チェックがえんえんと続く。機材の一部がレンタルだったこと、スタッフが外人のため、微妙な音の違いのニュアンスを伝えるのが難しかったことなどから、普段よりずっと時間がかかってしまったのだ。
ライヴの会場である BUSBY’S は、ロンドンの中心からトッテナム・コートロードの駅からすぐのところ。7、800人は収容できるかなり大きなDISCOで、金曜日にはあの有名なマッドクラブになる店だ(ロンドンのナイトクラブは曜日ごとに、名前と雰囲気の変わるところが多い)。入口には、ピンク色のPINKのポスターが何枚も貼られ、今夜のギグの内容を告げている。
予想外のアンコールの嵐!
しかし、イギリスではまだPINKのレコードは発売されていないし、名前もあまり知られていない。一応、イギリスの音楽関係者に告知のハガキは送ったけれど、どんな人が何人位集まるのか、本人達にもスタッフにも全く予想ができなかった。
「きっと業界関係者ばかりだと思うよ。だから、とにかくあまりムキになってノセようとか思わないで、僕らの音楽をまず知ってもらうつもりで演奏したいと思うね」(エンちゃん)
「曲順がコロコロ変わるんで、困っちゃうよ。どんな人が来るのか、全く見えないからね。だから、アンコールもやらないんじゃないかなあ」(カメちゃん)
初めての異国の地でのコンサートに、スタッフもメンバーも不安の色は隠せない。レコードすらリリースされていないのだから、それも当然のことだろう。しかし、だからこそ逆に”いいライヴを演って、度肝を抜いてやろう”という闘志が無言のうちにヒシヒシと伝わってくる。
午後7時ジャストに、会場のドアオープン。ステージ上には、レーザー光線でPINKの4文字がくっきりと浮かびあがっている。始めのうちは、ビール片手にボックス席でコソコソと囁きあっていたロンドン子達が、徐々に広いフロアに集まってくる。みんな”いったい日本からどんなバンドがやってきたのだろう”と興味シンシンの表情だ。
フロアがほとんど人で埋まった午後8時10分。やっとPINKの登場だ。「光の子」のイントロが流れる暗いステージにメンバーが現れると、”ヘイ!”というかけ声と口笛、拍手が観客の中から沸き上がる。リズムボックスとシンセサイザーがイントロのメロディを数回繰り返した後、ドラムスとベースの強烈なビートにのせて、エンちゃんがステージ前方に飛びだしてくる。黒い衣裳に身を包み、あの独特なアクションを細いビブラートがかかったような迫力ある不思議ヴォイス。いきなりハイペースだ。
1曲目が終わったところで、「GOOD EVENING, LONDON! WE ARE PINK!」と短い挨拶。2曲目の「BODY SNATCHER」に、たたみかけるようにつなげていく。
4曲目にはイギリスで発売される「SOUL FLIGHT」を演奏。それまでのアップテンポのナンバーとは少し趣きを変えた東洋的なメロディと英語の歌詞に、観客は一段と大きな拍手を投げかけていた。
この曲から、サックスの横山ヒデノリが参加。その後はもう、グイグイとノリで押し切っていく感じ。彼らの圧倒的なリズムに、始めは唖然としていた観客も段々と体を動かし始める。1曲ごとにリアクションがよくなっていくのが、よくわかる。フロアの客はもちろんのこと、最初は腕組みをして見ていた2階の観客も体でリズムをとっている。
全10曲、約1時間の演奏を終えて彼らがステージを降りた後、カメちゃんの予想に反して、観客の間から熱いアンコールのシュプレヒコールが湧きあがった。再びステージに登場した彼らは、最高にノリのいいナンバー「ZEAN ZEAN」と、「SOUL FLIGHT」をもう一度演奏。それまでステージ後方に位置していたスティーヴ(Per.スティーヴ衛藤)もシェケルというリズム楽器を持って、フロントでエンちゃんと一緒に観客をあおる。そして、再び大きな歓声と拍手に送られて、彼らはステージを降りた。
イギリスのマスコミも大絶賛!
PINKの抜群の感性と確かな演奏テクニックは、イギリスの音楽関係者とロンドン子達に確実に受け入れられたようである。イギリスで活躍するあるライターは、「エスニックな雰囲気と、シンセサイザーを駆使した洗練された感覚は、とても面白いと思う。イギリスでも、きっと話題になるんじゃないかな」と感想を述べていた。また、この日のサウンド・エンジニア、DETER HOWARDは「VERY GOOD! イギリスだけじゃなくて、世界でもサクセスすると思う。すごくユニークだし、テクニックも抜群。ちょっとトーキング・ヘッズに似てるけど、僕は彼らを初めて観た時と同じようなSHOCKを受けたよ」と、手ばなしでのほめようだ。
メンバーも今日もライヴで、確かなでごたえを感じたようだ。
「練習は緊張したけど、本番はあまり緊張しないでできたから、よかったんじゃないかな」(G.渋谷ヒデヒロ)
「最初はちょっとあがってたけど、2小節位やったら観客の顔が、”あ、こいつらなかなかやるな”っていう感じに変わったから。そしたら、もう自分のペースに戻れたよ」(カメちゃん)
「楽しかったです。久しぶりに刺激がありました。私の勝ちです!」(岡野クン)
「外人さんが多いんで、驚きました。まあ、こんなもんでしょう」(スティーヴ)
「バッチリです。スタッフもすごく良かったし。早くイギリスのツアーを打ちたいですね!」(ホッピー)
「言葉の問題はあったけど、自分のやってきたことがストレートに伝わったっていう気がするね。なんかツバキハウスで演ってた頃を思い出しちゃって、すごくFRESHな気分で演れたよ。まあ、やっぱりこっちで本気でやってみたいと、ヒシヒシと感じましたね!」(エンちゃん)
このエンちゃんの言葉に代表されるように、イギリスで本格的に活動してみたいという気持ちは、メンバー誰しも心の中に芽ばえたことだろう。しかし、このギグでの観客の反応を見た限りでは、それもあまり遠い事ではないような気がする。
そして、1日のオフをはさんで、9日にはメンバー全員、日本へ旅立っていった。イギリスでの確かな手ごたえを胸に日本での次のSTEP UPのために。
GOOD LUCK, PINK!
SEE YOU IN LONDON AGAIN!!
レポート/大島暁美、撮影/佐志素子
「ARENA37℃」1986年12月号掲載