イタリア語で歌うカノ香織のボーカルと、世紀末的なサウンドがピテカン等のライブハウスで好評なバンド・ショコラータが、アーチスト・カタログ・マガジン・TRAのスペシャル・イシューで10月にカセットデビューを飾った。
ショコラータは’82年、渋谷英広(g)、を中心に結成されたバンドで、そのサウンドは言わば”オータナティブ・カンツォーネ”。時代を逆行することで新鮮なサウンドを作っている、ユニークなバンドと言える。そのショコラータのリーダー渋谷ヒデヒロとボーカルのカノ香織にバンド結成の経緯などを聞いてみた。
「僕の大学(早稲田)の音楽サークルに彼女(カノ)が遊びに来て、それで学校を聞いたら音大(国立)の声楽科だって言うんで、なんか歌ってもらおう、と言う事になったんです。その時、ラップを思い付いて、それで僕達の音に合わせて彼女に言葉を乗せてもらったら、それがイタリア語でね(笑)、それで。これはカッコイイもんだなあ、と思って。で、それにメロディーとかつけて、だんだん音が発展して来て、バンドになったんです」(渋谷)
英語やフランス語の歌は、耳にする機会が多いが、イタリア語となると、カンツォーネやユーロ・ロック・ファンでない限り余馴染み深いとは言えない。
「私は、小さい頃から宗教音楽が好きで、グレゴリオ聖歌とかが好きで、それに、そうしたものにずっと関わって来たから、ロックは全然知らなかったし、歌ってくれと言われても、イタリア語のカンツォーネっぽいものしか歌えなくて」
ショコラータ結成は、この二人の驚き―ロックを中心に聴いていた者と、ロックを全く知らない者との新鮮な差異―が原因となっているのだ。
ところで、カセットマガジンで、デビューという少々変わった形をとったショコラータ。彼等はそれをどの様にとらえているのだろうか。
いつも聴く人の感情を喚起させたい
「音質的には落ちるだろうけど、コンセプト的にはしっかりしたビジュアルと音を、安い値段で市場に出した方が、絶対に買いたい人は買えるし、金銭的にも、こづかい程度で済んじゃうしね。そういう方がいいんじゃないかと思って。」(渋谷)
レコードが売れなくなっている現在、これは非常に有望な方法だ。しかし、それにはサウンドの充実を図らなければならない。それについて彼(渋谷)はこう語る
「ショコラータを、すごく人を不安にさせちゃうみたいな所を持つバンドにしたいですね。つまり、いつも聴く人の感情を喚起させる様な音楽をやって行ければなぁ、と思っているんです。喫茶店とかでね、ショコラータを流してみたいですね」
渋谷、カノの他に、塚原卓(sax)、市川マサズミ(ds)、岡野はじめ(b)、渡辺蕗子(kb)を有するショコラータは、実に不思議なバンドである。それは何度もいうように、彼等の目指しているものが、人々の不安をかり立てるという渋谷の言葉にその答えは帰する。
ヨーロッパの20、30年代という逆行を新鮮なサウンドで見事に表したバンド、ショコラータ。これからの活動が注目に値するバンドである。
(MUSIC STEADY 1983年12月―1月合併号掲載)
※1997年にこのカセットマガジンの音源がCD化されている。
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